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 大手中学受験塾「四谷大塚」で教え子の女児を盗撮したとして元講師の森崇翔容疑者(24)が逮捕された事件。10月上旬には同僚の元講師・中村成美容疑者(26)も共謀していたとして逮捕された。

 教え子の小学生女児をスマホで盗撮し、名前や住所といった個人情報をSNSのグループチャットで共有していたというから、その悪質性は高い。

盗撮の検挙件数は5年で約1.5倍

「盗撮の摘発件数は近年、すさまじい勢いで増加しています。令和4年の検挙件数は5737件で過去最多を更新。平成30年は3926件でしたから、この5年間で約1.5倍となりました」

 と話すのは犯罪ジャーナリストの中島正純さん。この背景にあるのが、高性能カメラを搭載したスマホの普及だという。

「令和4年の全検挙件数のうち、約8割がスマホによる犯行でした。現代は皆が街中などあらゆる場所でスマホを使用する時代。ですから、スマホを常に手にしていても誰からも怪しまれません。

 おまけに今のスマホは高機能で、スカートの下にサッと差し込むだけで高画質の写真や動画が撮影可能。誰もが簡単に盗撮できる状況にあるため、出来心で犯行に及んでしまうのです」(中島さん、以下同)

犯行供用物はスマホが圧倒的!令和4年中の迷惑防止条例等違反(痴漢・盗撮)に係る検挙状況の調査結果

 スマホに次いで多いのが、靴などに仕込むことのできる小型カメラや、ペンやネジを装った隠しカメラを使用した犯行。例えば、6月には電車内で、穴を開けて小型カメラを仕込んだ靴を女性のスカートの下に差し入れようとした37歳の男が逮捕されている。

「小型の隠しカメラはネットなどで誰でも容易に購入が可能です。技術の進化で1ミリの穴から鮮明な画像が撮れる超小型カメラも存在。これらをカバンや衣類、絵画や置物などに仕込まれたら、気づくのはほぼ無理でしょうね」

 同様に望遠レンズの性能もアップ。これを利用しての盗撮犯罪も起こっている。

「昨年、100メートル以上離れた山中から望遠レンズ付きのカメラで露天風呂を撮影していた盗撮グループが逮捕されました。かなりの遠距離ですが、映像には女性の身体の隅々まではっきりと映っていたそうです」

 狙われるのは若い女性ばかりではない。

手軽に撮影できるスマートフォンの普及は盗撮犯罪の増加の要因に ※写真はイメージです

熟女を狙った盗撮画像も多数

「性的嗜好は人によってさまざま。一般的に被害に遭うのは女子高生や女子大生というイメージがありますが、いわゆる熟女を狙った盗撮画像も多数出回っています。

 盗撮件数全体が増えるに従い、中高年女性の被害も増えているので、年代を問わず注意が必要です」

 会員制アダルトサイトの関係者によると、相場はまちまちだが、盗撮画像や動画が数千円から数十万円で個人間の「言い値」により取引されており、そのサイトでは“熟女”の画像や動画は需要が高く、かなり儲かるという。

 これら盗撮犯罪への取り締まりを強化すべく、7月13日に施行されたのが「撮影罪」(※)。盗撮行為にはこれまで都道府県ごとの迷惑防止条例が適用されていたが、今後は全国一律の法律で取り締まることとなった。

※正式名称は「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」

「改正のきっかけとなったのは航空機内で発生した盗撮事件。男が客室乗務員のスカート内を盗撮したのですが、犯行時に飛行機がどの都道府県の上空に位置していたか不明のため、県ごとに内容が異なる条例を適用するのが困難となりました。その結果、男は不起訴処分で無罪放免となったのです」

 罰則にも地域差があったが、一律に厳罰化。迷惑防止条例では、懲役刑は6か月~1年以下、罰金刑は50万~100万円以下とバラつきがあったが、撮影罪では“3年以下の懲役、または300万円以下の罰金”に統一。

 さらにその画像を販売するなど不特定多数の人に提供した場合、“5年以下の懲役、または500万円以下の罰金”になるなど、盗撮に関連する新たな罪とその罰則も新設された。しかし、そんな撮影罪にもまだ抜け穴があるという。

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「被害者が特定できない場合、犯人がいったん逮捕されても、最終的に不起訴処分になり処罰できないのです。

 例えば、スマホに盗撮画像と思われるものがあっても、現行犯で捕まる以外は、撮影された女風呂や、女子トイレ、エスカレーター等々がどの場所で撮られたものか、写っている裸や下着は誰なのかが特定できない。

 さらには、駅のエスカレーターで盗撮犯が捕まっても、被害者が『私、急いでいて時間がないのでいいです』となると嫌疑不十分とせざるを得ません」

小遣い稼ぎの女盗撮師に注意

 盗撮被害に遭わないためには、巧妙になる手口を知り、普段から周囲に注意を払う必要がある。

「ぜひ知っておいていただきたいのが、女盗撮師の存在です。盗撮発生場所の3割を占めるのが浴室、更衣室、トイレなど衣類を脱ぐ場所ですが、この中にはお小遣い稼ぎが目的で女性が女性を盗撮しているケースが数多くあります。

 “脱衣かごの網目の隙間に1ミリサイズの小型カメラを設置。その上にバスタオルや衣類を置いてカメラを隠す”“洗面器でカメラを隠して、銭湯にいる裸の女性を写す”など手口はさまざまあるので、不審な動きをしている女性を見つけたら、すぐに服を着て外に出たり、こっそり従業員を呼びに行ったりするといいでしょう。

 ある程度、確信が持てる場合は『何をしているんですか?』と声をかけるのもひとつの手段です」

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 トイレも狙われやすい場所。多いのがサニタリーボックスやトイレットペーパー、貯水タンク、ゴミを装った紙コップなどに小型カメラを隠す手口。

 この場合、レンズが光って見えたり、細いコードがつながっていたりするので、違和感があれば、確認して被害を未然に防ぎたい。

「トイレで用を足しているときにカメラを差し込まれる事例も頻発しています。私の近所のスーパーでも従業員の女性がトイレに入ったところ、扉の上からカメラを差し込まれた事件がありました。

 気づいてすぐ扉を開けたら逃走する女性の後ろ姿が見えたとのことで、女盗撮師による犯行と考えられます」

 このケースは扉の外から犯行に及んでいるが、その場合、トイレに入ってきた人に目撃されやすくなる。そこで隣のトイレに潜み、仕切り越しにカメラを差し込むケースも多いという。

「この手口は、扉や隣の個室との仕切りの上下に隙間があるからこそ成立します。近年は上下ともに壁があり完全個室になるトイレが増えているので、可能な限り、そういうトイレを利用するといいでしょう」

 エスカレーターや階段の下段からスカート内を盗撮するのもよくある手口。エスカレーターは前向きではなく横向きに乗るだけで、気づかれるかも、というプレッシャーを盗撮師に与えることができる。

増加する盗撮に係る検挙件数

 靴や傘に隠しカメラを仕込む手口もあるので、これらを女性の足元に近づけるなど不審な動きをしている人物には注意が必要だ。万が一、盗撮被害に遭ったら、警察に届け出ることも大切。被害者がいることで犯人が不起訴処分となるのを防げる。

「誰でも簡単に盗撮ができる時代となってしまいましたが、逮捕されれば刑罰を科されるだけでなく、会社をクビになるなどの社会的制裁を受け、家族など周囲の人も傷つけてしまいます。

 盗撮は被害者のみならず、犯人自身の人生も狂わせる重大犯罪であることを社会全体の共通認識としなければなりません」

取材・文/中西美紀 

 

犯行供用物はスマホが圧倒的!令和4年中の迷惑防止条例等違反(痴漢・盗撮)に係る検挙状況の調査結果

 

増加する盗撮に係る検挙件数

 

手軽に撮影できるスマートフォンの普及は盗撮犯罪の増加の要因に ※写真はイメージです

 

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