第74回紅白歌合戦

「まさか、本当に誰も出ないなんて……」

 年末恒例の『紅白歌合戦』出場歌手が発表された11月13日、旧ジャニーズのファンからは、冒頭の声がため息とともにこぼれた。

「全体方針に沿って進めた結果」

 ジャニー喜多川氏の死から4年、彼が生前に行っていた少年たちへの性的虐待が明るみに出て社会問題化。被害者は400人を超えるともいわれ、その責任を取る形で事務所はジャニーズという看板を捨て、SMILE-UP.という新しい名前で被害者への賠償と再生の道を探っている。

 そんな中で発表された『紅白歌合戦』の出場歌手。そこには旧ジャニーズのタレントの名前はひとつもなかったのだ。

「NHKの全体方針に沿って進めた結果」

 と、会見で総括した『紅白』の制作統括、大塚信広氏。同事務所からの出場歌手がいないのは1979年以来、44年ぶりのことになった。

 2021年には5組、2022年には6組も“ジャニーズ枠”といわれるほど出場歌手を輩出し、『紅白』のステージに立ってきた旧ジャニーズのタレントたち。「これで『紅白』の視聴率がガタ落ちになるのでは?」という声も聞こえるのだが─。

実際問題、どこまで影響があるかは微妙なところです。昨年の歌手別視聴率を見ると、トップは39・5%で福山雅治、2位は37・7%のMISIAでした。旧ジャニーズのタレントでトップは36・3%で5位につけたKinKi Kids。6組出場した中でSixTONESとSnow Manは30%を切って27・4%。彼らで数字を取っていると言っていいのか……」(スポーツ紙記者)

 この状況を見て、コラムニストの吉田潮さんは「これまでがおかしかったんですよ」と、こう続ける。

今回、1組も選ばなかったNHKにはよくやった、と言いたいですね。20組くらい出場するうちの6組が同じ事務所からって、おかしいじゃないですか。事務所に対してどんな忖度があるのかは知りませんが、受信料を徴収している“みなさまのNHK”でお金と時間があるなら、それこそみんなが興味があるであろう、中森明菜さんとかを連れてくるのがスジじゃないですかね(笑)

視聴率への影響

 また、『紅白』の選考基準のひとつ「世論の支持」について、

「世論といっても、ファンが多くて、その声が大きい旧ジャニーズのタレントが選ばれるのは、ある意味“数の暴力”だと思うんです。『紅白』は歌合戦ですよね? ならばダンスとかパフォーマンスだけではなく、歌をちゃんと聴きたいと私は思います。『紅白』にはいろいろツッコみたいところがあるけど、今年の音楽シーンがどういったものだったかを振り返るのなら、民放でやっている音楽祭とかのほうがよくないですか? J-POP、アニメ、バンドなど、バラエティーに富んだ音楽が聴けますから」(吉田さん、以下同)

 そして一昨年、昨年に『紅白』に出場して話題になった藤井風を例に挙げる。

藤井風

「出場発表されたとき、一般的にまだメジャーではなかった彼が“これ、誰?”と言われながらも、歌を披露したとたん、老若男女が“これはすごい!”と称賛したじゃないですか。“本物”が出てくると年齢関係なく、心をつかまれるということ。ただアーティストにとって、それが本望だと思うけど、『紅白』はフルコーラス歌えないし、好きなように歌えるかというとそこは微妙ですけどね。でも歌合戦と称するのなら、歌で心を動かせる番組にしてほしいですね

 また、視聴率がガタ落ちするのでは、という声について、

NHKは民放と違って、スポンサーは関係ないのだから、視聴率をそこまで気にする必要はないのでは? 気にするなら、受信料を払っている視聴者を気遣うべき。それに『紅白』は歌手の出る順番がわかるから、旧ジャニーズのタレントのときだけ見て、あとはチャンネルを変えてしまうファンもいるでしょう。だから、そこまで視聴率に貢献しているわけではないんじゃないのかな

「番組の浄化」

 今回の旧ジャニーズ勢の出場がゼロという状況は、これからの『紅白』の試金石になるかもしれない、と吉田さん。

「今回、旧ジャニーズの枠をいろいろなアーティストが埋めていますよね。新しい学校のリーダーズとかAdoさんとか、ちゃんと歌を聴かせる人たちだと思うし。大泉洋さんは一昨年、昨年の司会に対する“ご褒美”かもしれないけれど(笑)、往年のアイドルの伊藤蘭さんは旧ジャニーズの騒動がなければ、出ることはなかったかもしれない。

 特定のところに変に媚を売るのではなく、ちゃんと歌える人たちを集めて歌合戦をする。ある意味、番組の正常化というか、浄化ですよ。旧ジャニーズのタレントを見たいのなら、ファンは彼らのコンサートへ行けばいい。そうすればずっと見ていられるんですから」

 今年、恒例になっていた旧ジャニーズの『カウントダウンコンサート』は中止になった。しかし、

《ファンの皆さんと最高の大晦日にすべく絶賛企画中》

 と、Snow Manが時間は未定ながら、大みそかに生配信ライブをすることを発表した。

昨年末『紅白』の舞台に立った、SnowMan(写真右)とSixTONES(写真左)。大みそかは、配信ラッシュになる!?

ファンにとっては、いちばんいいことじゃないかな。だって『紅白』で自分の持ち歌を歌う以外に、ほかの歌手のにぎやかしみたいな形でステージに上げられる推しを待っているなら、配信でずっと推しを見たいと思うのは普通のこと。私みたいに、別に旧ジャニーズを見たいと思っていなくて、歌を楽しみたい人にとってもスッキリするし(笑)

 ある意味、勝負をかけた今年の『紅白』。旧ジャニーズの姿が見えないことで、どんな変化があるのか─。

「『紅白』を見ている人たちの大部分は、ほかに見るものがない、という消極的選択の人だと思うんです。なんとなく、テレビをつけているような。そんな中、旧ジャニーズが出ないことで視聴率が取れなかったという結果になったら、もう『紅白』をやめてもいいんじゃないかと。男女分かれて歌合戦というのも、今の時代では微妙ですし(笑)。

 それでも続けるというのなら視聴率なんて考えずに、本当に歌を聴かせるという番組に舵を切っていくほうがいいんじゃないかな。旧ジャニーズが多くのファンの声で選ばれてきたのなら、『紅白』ではなく配信やコンサートで見てもらえばいい。NHKは『紅白』をどう変えていくかを考える、いい機会になったと思います

吉田潮(よしだ・うしお)コラムニスト、イラストレーター。『週刊新潮』にて『TVふうーん録』など連載多数。近著に『ふがいないきょうだいに困ってる』(光文社)