ファイヤーサンダー(写真左・こてつ、右・埼山祐)

 かもめんたる・岩崎う大が、注目のお笑い芸人の今後を予想する連載企画。今回の芸人はファイヤーサンダー

ネタ制作者の崎山は設定フェチ

 本日は今年のキングオブコントで4位の好成績を残したファイヤーサンダーというコンビを紹介したいと思います。ワタナベエンターテインメントに所属しコントを中心に活動している彼らはキングオブコントの決勝進出は今年が初めてでしたが、コントの実力は早くから多くの人に認められていました。

 2018年の第39回ABCお笑いグランプリでは見事優勝を勝ち取っていて、関西の歴史あるこの賞を関東で活動しているコント師がとるのは異例のことで話題になりました。

 大柄でメガネのボケ・崎山祐君と小柄なツッコミのこてつ君が演じるコントは、とにかく設定が絶妙でとても秀逸です。

 誰もがドラマやアニメなどで見たことのあるようなイメージしやすいシチュエーションをひねってコントの設定を作り上げているのですが、ネタ制作者の崎山君の着眼点は見事です。

 その秀逸な設定の中で飄々としたボケに翻弄されながらやがてエキサイトするツッコミによってコントのテンションが上がってクライマックスに、という非常にオーソドックスなスタイルを得意としています。

 キングオブコントはオーソドックスなコントに対してはなかなか門が狭いと僕は思っていて、理由としては多くの組がコントという広いフィールドの中であらゆる手段を盛り込んで勝負する状況で、オーソドックスは埋もれてしまいがちだから

 また秀逸な設定のコントは、安心して見られるぶん、爆発力に欠けるという点もあると思います。

 では、今回のキングオブコントで披露したネタ「日本代表メンバー発表」が突出できた理由は何だったのか。

 冒頭の設定をバラすシーンですが、「サッカーの日本代表に選ばれるか否かの発表をテレビの前で深刻な表情で待つ代表候補選手の緊張感」かと思いきや、「サッカー選手のモノマネ芸人が、その選手が代表入りするかしないかでその年の仕事量が全然変わってくるため選手本人ばりの深刻さで中継を見ている緊張感」だったというものでした。

 冒頭で、設定の裏切りがあるという点では今までのファイヤーサンダーのスタイルと変わらないのですが、その裏切り方が単にいいだけでなく人間の欲というドロドロした部分に根ざしていて非常に面白かったです

 これまでの彼らのコントは、あるあるのシチュエーションを「こうなったらコントになる」という方向で作っていて、ある種のパロディー化に近かったものが、今回は普通の人間ドラマとして見られる複雑な変化をしていたように思えます。

 これによって、今までの彼らのコントに比べて間口は狭くなりましたが、その到達点はより高いというか、より深いものになったと感じました。

 ネタ制作者の崎山君は設定フェチと呼んでもよさそうなぐらい、設定にこだわっていると思います。

 ファイヤーサンダーのネタの設定はコント師なら誰もがうらやむようなものばかりです。公式のYouTubeチャンネルをぜひチェックしてみてほしいです。

 先駆者たちが見落としていった設定を見事に拾い上げるように、今までありそうでなかった設定を見つけてきた崎山君ですが、今はさらに2周目に入っているというか、自分が見落としていたさらに細かい設定を探し始めているのではないでしょうか

 そんな設定をこなすには表現力も不可欠なので、演者としても脂ののってきた彼らにベストな風が吹いていると確信しています。

岩崎う大 1978年東京都生まれ。早稲田大学卒。かもめんたるとして槙尾ユウスケとコンビを結成。キングオブコント2013年優勝。お笑い芸人だけでなく、脚本家、放送作家、漫画家として多彩に活躍中