ソン・シギョン 撮影/山田智絵

 韓国の国民的歌手で“バラードの皇帝”“鼓膜彼氏”と呼ばれているソン・シギョン。流暢な日本語を話し、日本でも人気の彼がこのたび、レコード会社移籍第1弾となるアルバムを発売。コロナ禍、本国ではどう過ごしてきたのか。また、「まだまだ新人」と謙遜する日本での今後の目標は?

YouTubeは凝っていないのが良かった?

 韓国で知らない人はいない存在である、歌手のソン・シギョン(44)。数々のヒット曲を持ち、その甘く情感あふれる歌声からついた呼び名は“バラードの皇帝”

 ’17年には日本デビューを果たし活躍の場を広げ、今年11月、約2年半ぶりの新アルバム『こんなに君を』をリリース。前回の本誌登場から4年、コロナ禍を挟んで来日した彼に話を聞いた。

「コロナ禍ではそれまで当たり前と思っていたことをすべて失いました。他の歌手同様、僕も人前で歌うことはまったくできず、ファンの方にも会えなくて寂しかったです。でもそのおかげで、インスタグラムやYouTubeを始めることができました。僕はすごく古い人間で、しかもアイドルではないので、ファンの方とはお互い一定の距離があるほうがいいと思ってたんです。

 でも、もうそういう時代じゃないことに気づきました。長い間ファンだった人たちも喜んでくれるし、映像を見た人が新たに興味を持ってくれたりもする。もっと早くやっておけばよかったと思うほどです

 そうして始まったYouTubeは現在登録者数が160万人を超え、音楽プロデューサーのJ.Y.Parkなど豪華な友人たちも次々と登場。自然体のインスタも好評だ。

僕のYouTubeは凝った仕掛けはありません。ゲストとはお酒を飲みながら落ち着いたトークをしているので、それが逆に珍しいのかなと。いろいろな人が来てくれて、つながれるのも楽しいですね。インスタも食べ物のことばかり。文章も長いし、古くて渋い。だからこそ、なんか変だと思いながら見てしまう人がいるのかも(笑)」

 もちろんその歌声の人気も健在で、YouTubeの歌唱動画『Killing Voice』の再生回数は5千万回を超え、BTSのメンバーが配信でシギョンの曲を熱唱したことも話題に。

 年末に韓国でおこなわれるKspoドームでのコンサートもチケットが即完売したが、実はこのコンサート、とある日本人歌手に影響を受けているという。

「僕は小田和正さんが大好きなんです。9月の『横浜合同演奏会2023』では小田さんの歌を歌わせていただき、その後ご本人にもお会いできて感動しました。で、その小田さんが過去に360度客席があるステージをやってるのを見て、僕もこれをやりたいと思ったんです。全部自分で仕切って、真ん中にひとりぼっちで立って歌います。これからその準備のために禁酒……、でもYouTubeもあるし!(笑)

ソン・シギョン 撮影/山田智絵

 そこはやはり韓国芸能界屈指の酒豪。秋に来日した際は同じく酒豪として知られる坂上忍のYouTube番組「さかがみ家のチャンネル」に出演し、坂上と酒の飲み比べをおこなった。日韓酒豪対決、その結果は……!?

観光では絶対に行けないアダルトな場所へ

「坂上さんが突然お猪口を並べて熱燗での対決を挑んできて。ビックリしたけどうれしかったですね。坂上さんもすごく強いし、何よりお酒がお好きというのが伝わってきて、ああ同族なんだなと。番組はとてもきれいに編集されていましたが、実際はみんなで散々飲んで大変な結果になりました(笑)。

 お酒は、昔は本当にいくらでも飲めました。友達と飲み干した焼酎の瓶のふたで店のテーブルを埋め尽くしたこともあるほど。でも今は寄る年波には勝てず、そこまでは飲めなくなりましたね」

 そう語る彼だが、40歳から学び始めたという日本語はおそろしく流暢で、「寄る年波」などという日本語もスラスラと出てくる。春にNetflixの『ココだけの際どい話:日本編』に出演した際には、韓国の人気コメディアンのシン・ドンヨプとナビゲーターを務めるとともに、日本語の通訳も担った。

日本のアダルト業界で働く人たちを紹介する番組で、シンさんと2人で秋葉原のアダルトグッズショップ、AV女優や男優のインタビュー、(セクシュアルウェルネス商品の)TENGAの会社など、観光では絶対に行けない場所に行きました。日本語の通訳はとても難しかったです。

 『ここを持ち上げすぎたら韓国から叩かれる』『これはちょっと悪い感じにすると、日本に失礼になる』と、微妙な温度感に悩みました。あまりにも下ネタな単語も飛び交って、シンさんのためにプロの通訳さんが入った回もありましたが、通訳さんは特殊な下ネタを訳すのがとても大変だったみたいで、毎回ものすごく疲れていました(笑)」

 番組では、日本を代表するAV男優“しみけん”に身体を押さえつけられて、「勃起(が持続する)体操」を教えられる衝撃的な場面も……!

しみけんさんは韓国でも有名で、彼と絡むとこういう気持ちになるのかと思いました(笑)。しかも、AV監督でもあるソフト・オン・デマンドの社長さんが即カメラを手にして僕の顔を撮り始めて。さすがでしたね(笑)

ソン・シギョン 撮影/山田智絵

 とはいえこの番組、決して興味本位のものではなく、シギョンたちはすべてにおいて偏見を持たずに取材を進め、その姿はとても真摯なものとなっている。

日韓の架け橋としてできることがある

多様性多様性っていくら教科書で教えても、実際には差別がなくならないのが現実だと思います。でも僕は『こういう生き方、こういう考え方もある』というのを見せたいと思って、実際に番組でも何度もそう口にしました。『道徳的ではない』と批判するのではなく、『さまざまな価値観がある』ということを知る。

 たとえ『それはちょっと違うな』と思うことがあったとしても、その違いを認めることこそが多様性なんじゃないかと思って。日本では、お店のお客さんがモザイクなしで堂々と応対してくれたりと、自分の好きなものを好きだと言うのは恥ずかしいことではないという姿がいいなと思いました

 日本での活動も増えていく中、11月には新アルバム『こんなに君を』をリリース。リード曲の『こんなに君を』は、日本のヒットメーカーである松井五郎が作詞を、『江南スタイル』で世界を熱狂させたPSYが作曲を手がけた。

PSYさんがアルバムを出したときに僕が1曲歌ってあげて、その代わりに『先輩の曲を歌いたい。名前も使わせてほしい』と率直に言ったら、快く作ってもらえました。結果、PSYさんらしくて、僕にとって新鮮なバラードになりました

 アルバムには、シギョン自身が作曲した『ただ…』も収録。“バラードの皇帝”“鼓膜彼氏”との異名を取るのも納得、まるで頬に触れられて目の前で愛を囁かれているような気持ちになる珠玉のバラードだ。そう感想を伝えたところ……。

なんのイヤホンを使っているか教えてください(笑)。あとVRのゴーグルを付けて売りましょう(笑)。でも、そういう感想をいただくのはとてもうれしいですね。曲については、仕上げ作業が終わった後は自分のものではなくなるので、僕からこう感じてほしいというのはないんです。聴く人にそうやって自由に感じてもらえればと

 今後の日本での目標を聞いてみた。

今、日本ではたくさんの韓国人アイドルが活躍していますが、彼らは自分の意見を自由に言うことが難しいです。でも僕は一人だし事務所のことも気にしなくていいので、その分、日韓の架け橋としてできることがいろいろあると思っています。バラード歌手が日本語を勉強して架け橋になる。これまでに前例がないんですけど、僕はやる気満々です。そのための影響力を持てるよう今後も頑張っていきたいですね」

取材・文/小林延江 

ソン・シギョン 11月22日リリース『こんなに君を』(税込み3080円 発売:キングレコード) ※画像をクリックするとAmazonの商品ページにジャンプします。

11月22日 リリース『こんなに君を』(税込み3080円 発売:キングレコード)

1979年4月17日生まれ、186センチ、A型。’00年韓国でデビュー。翌年の各種新人賞を総なめに。これまでのアルバムのセールスは通算で200万枚以上を記録。韓国を代表するバラード歌手であり、マルチタレント。多くのK-POPアイドルからもリスペクトされている。