ICONIQとしてデビューしたころのアユミさん

 一度見たら忘れられないベリーショートヘアと吸い込まれそうな瞳。日本に一大センセーションを巻き起こしたアーティスト「ICONIQ」を覚えているだろうか。現在、韓国で活動を続ける元ICONIQことアユミさん(39)に、これまでの芸能人生と現在の活動について話を聞いた。

単身渡韓、アイドル「Sugar」としてデビュー

「小さいころから『歌手になりたい』と思っていました」(アユミさん、以下同)

 夢を叶えるため、自分なりに歌を練習し、自身のルーツである韓国の音楽番組を録画したビデオを繰り返し見ながら、振り付けをまねして踊っていたという。

「韓国の『H.O.T.』っていうアーティストのファンになって、中学2年生のときに彼らのコンサートを韓国に見に行ったんです。その帰りにスカウトされたのが芸能界に入るきっかけでした」

 韓国にルーツを持つとはいえ、韓国語も話せない娘を単身韓国に行かせることを父親は拒んだ。

「私はもう絶対歌手になるって決めていたので、父に対して“スト”みたいな行為をしていました。ご飯を食べないとか(笑)。最終的にはなんとか許してもらえて、中学校卒業後にすぐ韓国に行ったんです」

 単身渡韓後、わずか1年のトレーニング期間を経て、韓国の女性3人組アーティスト「Sugar」としてデビュー。現在のK-POPブームに続く「礎」を築いた一人である。

「歌や踊りの前に、言葉の壁が大きくって。メンバーとのコミュニケーションも上手にとれない中でトレーニングをやっていくっていうのは結構きつかったです。父も『いつでも帰っておいで』って言ってくれてたんですけど、そういった厳しい環境の中にいたからこそ『絶対デビューしてやる』っていう強い気持ちを持てたんだと思います」

 Sugarは人気アイドルグループとして活躍した。その後日本進出も果たしたものの、グループは解散へと向かう。

「メンバーの一人がグループを卒業したり、新しいメンバーが加入したりというのが続いて、このままやっていくのが不安定な感じになってきて……結局解散という形になりました」

ゼロからの再出発「ICONIQ」の衝撃

 Sugar以降のアユミさんは、日本でソロ活動をスタートする。

「20代になって、役者としても活動したいと思いました。そんなときに事務所を通じてエイベックスの松浦勝人社長(当時)に出会ったんです」

 エイベックス・エンタテインメントに移籍し、単身ロサンゼルスに演技留学。帰国後、本格的に俳優としての活動を開始した。舞台やCM、さまざまなオーディションを受けたが、なかなか芽が出ない。俳優としてだけではなく、歌手としての活動も並行して行うなか、大胆な行動に出ることにする。

「松浦さんが冗談半分に『髪の毛をバッサリ切ってみたら』と言ってくださって。私はそれまでアイドルとして活動していたので、そのイメージを払拭させたかったし、大人の女性なりの雰囲気を出していきたいと思っていた時期だったので、やっちゃいました(笑)」

 ベリーショートとなりアーティスト活動の準備をしていたころ、運命の瞬間が訪れた。

「とあるCMのエキストラをしていた姿を資生堂さんが見つけてくださって、お声をかけていただいたんです。当時の資生堂さんが新ブランドとして展開する予定だったコスメのコンセプトが『自分の人生を変えてくれるようなコスメ』というもので、私のその姿とマッチしたんだと思います」

 韓国では人気アイドルとしてマネージャーや付き人もいたが、日本ではゼロからの再出発中。番号で呼ばれるようなエキストラだった女性タレントが、雑誌やテレビを賑わせた「ICONIQ」として生まれ変わる。出演したCM・歌共に話題を呼び、再びのブレイクを果たした。しかし、その売れ方には葛藤も多かったという。

「ICONIQはミステリアスな存在として売り出されたのですが、このとおり私はおしゃべりするのが大好きで(笑)。本当の自分と、街中の看板にいるベリーショートの『ICONIQ』という存在のギャップが、受け入れられない時期もありました」

 自分の言葉を伝えることが叶わない状態が続き、もどかしさを感じていたという。

「勝手なイメージが広がるのがとても嫌だったので、自分の言葉で話す機会をつくってほしいと事務所に頼んだことがあります。その結果、深夜のラジオ生放送に出させていただけることになり、初めてたくさんおしゃべりさせていただき勝手にスッキリしていたこともありました(笑)」

韓国のバラエティーで3度目のブレイク

 2016年、ICONIQから、「伊藤ゆみ」として俳優業を中心に活動を再開する。

「30代になって、自分の将来に悩んでいた時期でした。10年以上も芸能界にいたのに、しっくりきていない感じもしていたし、もうやめようかなとも思っていたんです」

 そんな折に、意外なところから声がかかる。

ICONIQことアユミさん

「韓国のテレビ制作会社から、バラエティー番組に出ないかとインスタのDMをいただいて。また韓国で活動するなんて考えていなかったんですけど、オファーが1件だけではなかったし、面白そうだなと。この機会を逃しちゃいけないって思ったんです」

 自らに訪れたチャンスは、いつだってものにしてきたアユミさん。出演したバラエティー番組では、持ち前の話術が反響を呼び、どんどん仕事は増えていった。

「はたから見たらブレてるって思われるかもしれないのですけど関係ない。私はいつだって自分のやりたいことを忠実にやってきただけなんです」

 現在、韓国でのタレント活動をメインにしつつSNSを活用して、日本をはじめ世界のファンへ発信・交流を続けているという。

「私たちのデビュー当時はファンの方とタレントが直接交流するってことは絶対考えられませんでした。今はSNSを通じて自分の言葉を発信できたり、ファンの声をダイレクトに聞くことができるので、とても有意義です。Sugarのメンバーとは、『私たちデビューが早すぎたよね』ってよく話しますよ」

美容大国でコスメのブランドディレクターに

 現在の活躍はタレント活動にとどまらない。今年、韓国のコスメブランド『BR Waterfull』のブランドディレクターに就任した。

「2019年に韓国に戻ったんですが、コロナで思うように活動ができなくて。せっかく美容大国といわれる韓国にいるのだから、もっと勉強してみたいなと思っていました。韓国の人は美意識が本当に高いんです。例えば、ちょっとしたニキビでも皮膚科に行くんですよ」

ブランドディレクターとして活動中のアユミさん

 そんな美容感度の高い韓国でエステ巡りをする中で出合ったのが、『BRエステティック』だった。

「どのエステもそれぞれ優れていたのですが、私は自分の肌のベストな状態がどれくらい続くかに着目しました。敏感肌で乾燥しがちな私でも長くいい状態を保てたのがBRだったんです」

 今回開発されたコスメラインは「Waterfull」の名のとおり、水分が55%以上含まれており、まるで「水分爆弾」のようなつけ心地だという。

「私自身ももうすぐ40歳です。年齢を重ねれば重ねるほど、美容は楽しいと思いますし、やればやるほど効果は出るので、皆さんにもぜひ実感していただけたらなと思います」

 かつてアイドルとして、アーティストとして、やりたいことで結果を残し続けてきたアユミさん。新しい「やりたいこと」である美容分野でも、人気を集めることは間違いない。

アユミ(Lee Ayumi)●1984年、鳥取県生まれ。韓国のアイドルグループ「Sugar」としてデビューしたのち、日本進出を果たす。2009年以降女性アーティスト「ICONIQ」として再デビュー。現在は韓国の芸能事務所BONBOO ENTに所属し、バラエティー番組を中心にタレント活動をする傍ら、コスメブランド「BR Waterfull」のブランドディレクターを務める。Instagram:@iqaymiq
BR Waterfull(https://shop-brwaterfull.ap-cosme.jp/

取材・文/高松孟晋