2008年に国立劇場小劇場で行われた舞踊会『本朝廿四孝 奥庭の段』でのひと幕

 新年を迎え、今年こそいい年にしたいと願う読者にぜひ実践してほしいのが、エッセイストの千代里さんが実践する幸せになるための心がけだ。

自分を認めることが幸せへの近道

 千代里さんは、元売れっ子芸者。大企業のお偉方など、ご贔屓だった多くの成功者たちと親交を持ち、自らも芸者として売り上げNo.1に。芸者を引退したあとも、人気エッセイストとして活躍している。

 そんな千代里さんが考える、運をつかむ人とはどういうタイプなのか。

「芸者時代にたくさんの成功者の方々を見て感じたのが、幸せな成功者とそうではない成功者がいること。運に味方された幸せな成功者は、“自分を認めることができる”人たちでした」(千代里さん、以下同)

 千代里さんの長年のご贔屓で、高卒で起業して一代で上場したある人は、現状がうまくいってなくても、常に自分には解決できる力があると信じていたという。

「大切なのは自分の能力や長所、できていることを見ることなのだと。失敗をしても、次に生かしていい方向へいくにはどうすればいいかを考える。そういった心の持ち方ができるかどうかが、福を招く決め手になると考えさせられたのです」

 前向きな心構えは、願い事を叶える際にも欠かせない。

「人間はノルマを前にすると、できなかったことにフォーカスしがち。今日は10個中3個もできなかった、と自分を責めてしまったり……。できた7個に目を向け自分を褒めてあげましょう」

 心の状態は自分の行動や選択に影響する。ネガティブな部分ばかりに着目しているとよくない方向に転がって目標から遠ざかってしまうのだ。

「成功者の方々は発する言葉も、明るく前向きなのが印象的でした。弱音や愚痴を言いたくなる気持ちとうまく付き合い、“自分なんて”と卑下することは絶対に言いません。

 そういった方々が次々と成功していったので、言霊は本当にあるのだな……と思いました(笑)

 いきなり、自分を全肯定するのは難しいかもしれませんが、ごはんがおいしい、お風呂が気持ちいいなど、日常の幸せに気づいて“自分は恵まれている”と思えば、自然といい運も呼び寄せられると思います」

 千代里さんは毎日、自分のできたことを書いて褒める「褒め日記」を実践している。

「なんでもいいから今日やったことを書いて自分を褒めています。褒め言葉を文字で見ると、脳が喜ぶんです(笑)。人生がすごくいいものに思えてくるから不思議です」

 褒め日記は、ノートや手帳など好きなものに書くだけでいい。新年から流れを変えたいと思う人にぜひおすすめだ。

幸せをつかむための“3つの心がけ”

 幸せになるための心がけとして、千代里さんは「自分を認めること」に加えて「自分の気持ちに正直でいること」、「気楽に生きること」も心がけているそう。

「大学卒業後、周囲の反対を押し切って花柳界に飛び込み、早くに新橋のNo.1になりました。そのことに対する嫌がらせもありましたし、つらいことも多く、当時は自分を守るために気持ちに蓋をしていました。でも自分の気持ちを無視したままでは幸せにはなれないんですよね」

 8年間売れっ子として活躍し多くのご贔屓に愛されたが、傷つくことも多く、つらい気持ちに気づかないふりをしていたのだ。

「あるとき体調を崩して自分の気持ちと向き合うようになり、それからしばらくして引退を決めました。すると、自分の気持ちに正直でいることの大切さに気づかされたんです。

 つらい気持ちを正直に認めて、頑張ってるね、立ち直るのも時間がかかって仕方ないよねって自分の味方になってあげたら自然といい巡りに変わっていきましたね」

 また、「気楽に生きる」という心がけも芸者時代の経験から生まれた考え方だそう。

「芸者をしていたころは、こんなこと知らないなんて恥ずかしい、ばかにされる、と思い自分を大きく見せようとしていました。

 でも、そう思うほど足をすくわれてしまって。『自分はこんなものだ』と良くも悪くも相手にありのままの自分をさらけ出してからは、生きやすくなりました」

 成功している方たちは、驚くほど謙虚で腰が低い。聞き上手で、知らないことは知らないと言える度量の広さを感じたと振り返る。

元No.1芸者 千代里さん流【幸せをつかむ3ルール】

(1)自分を認める

 できたことを褒めて、自分を認めることで、行動や選択、周囲の反応も変わり、物事がいい方向へ動き出す。

(2)自分の気持ちに正直になる

 生きることは喜怒哀楽を味わうこと。気持ちに正直になり、自分の味方になってあげることが幸せをつかむための近道に。

(3)周囲にありのままをさらけ出す

 周囲に自分を大きく見せようとすると、足をすくわれる。ありのままの自分をさらけだすことで、生きやすくなる。

千代里さんが実践している褒め日記。メンタルコーチの手塚千砂子先生が提唱する自己啓発法で、その日できたこと、褒める言葉を書いていく

関わった人すべてに感謝を忘れない

 芸者として成功をつかむために欠かさず実践していた習慣も教えてもらった。

「芸者で売り上げNo.1を目指そうと決めたときに、自分が持っているものを最大限に使おうと思ったんです。私には目や耳、口があってコミュニケーションが自由にできるんだから、関わる人すべてにきちんと挨拶をしようと決めました。

 お客さんや置屋のお母さんだけでなく、お掃除してくださる方、宅配便の人にも」

 そして、寝る前はその日に会った人を思い出して感謝することも欠かさなかった。

「布団に入ったら、その日に会った人を一人ずつ思い浮かべて『今日もありがとうございました』と感謝します。嫌いな人で昼は避けていても、夜になったら一度だけお礼を言うんです。その人から得るものもきっとあると思うので」

 芸者になってしばらくすると、忙しさもあり、感謝を忘れてしまっていた。

「当時は自分の中で感謝と成功が結びついていなかったのですが、今思うとうまくいっているときって、自分の力だけでここにいるんじゃないって思えていたときなんです。

 感謝の気持ちがあると周りの人にも自然と伝わって、応援してくれたり、自分の知らないところでたくさん支えてもらっていたんだと思います」

No.1芸者時代の千代里さん

できるだけ相手を敵とみなさない

 最後に、女の世界である花柳界で生きてきた千代里さんに、人間関係における心の持ち方を聞いてみた。

「私はできるだけ相手を敵とみなさないことを心がけています。本当に嫌いな人と無理に付き合っても苦しいだけなので距離を置きますが、たやすく敵にしてしまうのはもったいないですよね。

 仲間になれれば仕事がもっといいものになったり、楽しく過ごせたりするわけですから。物言いが失礼な人や表現が下手な人も、付き合ってみると意外といい人だったということも自分の経験上あります」

 相手のいい面を見て付き合うことが、人間関係を円滑にする大切なポイント。

「そのような意識を持って接すれば、それが伝わってあちらの反応も変わってきます。お互いが合わせ鏡、なんですよね」

 願いや幸せ、人間関係も結局は自分の心の持ち方で結果は大きく変わってくると、千代里さん。新年こそ心の持ち方を変えるのに最適なタイミング。この機にぜひ、いい運の巡りをつかみたい。

千代里さん●エッセイスト。元新橋No.1芸者。芸者時代の経験を生かし、エッセイや講演で、心の持ち方や日本の伝統芸能の素晴らしさについて伝えている。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』、『福ふく恋の兵法』(ともにSDP)など。
教えてくれたのは……千代里さん●エッセイスト。元新橋No.1芸者。芸者時代の経験を生かし、エッセイや講演で、心の持ち方や日本の伝統芸能の素晴らしさについて伝えている。著書に『捨てれば入る福ふくそうじ』、『福ふく恋の兵法』(ともにSDP)など。

取材・文/井上真規子