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 新しい年を迎えたばかりの1月1日、石川県で最大震度7を観測した能登半島地震が発生しました。避難を余儀なくされた人の中には、ペットを飼っている人も少なくありません。

能登半島地震・ペット避難の状況

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 石川県内で支援活動を開始した認定NPO法人日本レスキュー協会「被災ペット支援に関する活動報告(1)」によると、羽咋市(はくいし)と中能登町では、ペットを連れて避難所に避難した飼い主に対し、適切にペットの世話ができるよう行政の避難所担当者、飼い主、日本レスキュー協会の3者で避難所のペット受け入れに関する調整が行われました。

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 避難した飼い主は「ペットはダメと言われると思っていた。一緒にいられるだけでも本当にありがたいです」と話していたそうです。

 栃木県内にあるペット用品の買い取り・アウトレット商品の販売・動物愛護団体への支援などに取り組む「源吉商店」と「NPO法人東京キャットガーディアン」が共同開設した里親募集サイト「いつでも里親募集中」では、被災者に向けてペットの一時預かりの希望者を募っています。同時に被災地域周辺でペットの預かりが可能な人も募集し、マッチングを行うとしています。

 認定NPO法人アニマルレフュージ関西、一般社団法人Think The Day、公益社団法人アニマル・ドネーションなど、ペットの一時預かりやその施設の紹介を行っている団体もあります。

 また、アニコム損害保険株式会社のペットの防災に関するWEBサイト「どうぶつ防災図鑑」では、能登半島地震で迷子になったペットの捜索のお手伝いを行っています。ペットと共に車中泊避難するときの注意点なども掲載されています。

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公益社団法人アニマル・ドネーションはこちら
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 ペットと避難所に入れない、家に置いてきたけど世話が難しい、ペットの行方がわからないなど、困難な状況を少しでも改善できるよう、前述した団体に相談してみるのも1つの方法です。このような民間の活動はペットと共に被災した飼い主にとって大きな助けとなるでしょう。

「同行避難」「同伴避難」の違い

 ペットを理由に避難を躊躇しないよう、国はペットとの「同行避難」を推奨しています。「同行避難」とは飼い主がペットと共に安全な場所まで避難するまでの行動を指し、「同伴避難」とは飼い主がペットと共に避難したうえで、避難所でペットを飼養管理することを意味します。

 ただし、「同伴避難」を受け入れる避難所でも、飼い主とペットが必ずしも同室で過ごせるとは限りません。飼養環境は避難所などで異なります。

「同伴避難」が可能な動物は、犬・猫・そのほか家庭における愛玩動物とされていることが多いので、自治体の避難所運営マニュアルなどで自分の地域のルールを確認する必要があります。

 国は2013年に「同行避難」を推奨する「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を策定しています。1995年の阪神淡路大震災や2011年の東日本大震災では、飼い主がペットを連れて避難所に入ることを断られるケースが相次ぎました。ペットと共に自宅に戻り津波に呑み込まれた人や、避難をためらいペットを抱きしめたまま亡くなった人がいました。

 熊本地震では、ペットを飼う被災者の多くが車中泊で避難生活を送っていたことが、熊本県が震災後に行った被災者アンケートで判明しています。

 当時筆者が取材をした際には、ペットの存在を理由に避難をせず地震後に建物が倒壊して亡くなった人や、ペットと避難できず喪失感から生きる気力を失い自死した人もいました。飼い主の気持ちを考えると、犬や猫と共に暮らしている筆者にとっても他人事ではないと思いました。

 こうしたことを受け、同伴避難に取り組む地域も出てきています。

 愛知県犬山市は以前から同伴避難を受け入れていましたが、ペットと飼い主は別々の部屋で避難生活を送っていました。2022年12月からは市内33カ所の市指定避難所のうち3カ所で、ペットと飼い主が一緒に過ごせる「同室避難」の受け入れを開始しています。

 名称を「同室避難」としたのは、ペットと一緒に過ごせることを強調するためで、ペットと飼い主は専用ルームで、他の被災者とは別に過ごすことになります。ただし、ペットは放し飼いにせず、ケージに入れるよう求めています。

 そのほか、広島県尾道市でも2019年7月から、市内の指定避難所のうち5カ所をペットの同伴避難を受け入れる避難所としています。

 福岡県北九州市では2023年8月に、同伴避難が可能な専用避難所を試行的に設置し、その効果を検証すると公表しました。対象は「飼い主が近くにいないと飼い犬が吠え続ける、周囲への影響が気になる等、ペットがいることによって最寄りの避難所への避難が難しい市民」です。試行期間は2023年度中で、夜宮青少年センターに40区画用意され、検証が行われています。

 自分の住んでいる地域の自治体が同伴避難の受け入れをしているかどうかは、自治体のホームページで確認できますが、ページが多く見つけるのが難しいという難点があります。その場合、サイト内の検索機能で「同行避難」「同伴避難」などのキーワードで検索をすると関連ページが表示されます。見つからない場合には、自治体に直接問い合わせてみましょう。

民間に広がる災害動物支援活動

 民間でも災害発生時に飼い主とペットを受け入れる施設が増えています。

 学校法人昭徳学園九州動物学院併設竜之介動物病院では、熊本地震の際にペットを連れた被災者を受け入れ、一時は300人を超える人たちの避難所として活動しました。2021年5月には熊本市と災害時の連携協定を締結し、2022年9月の台風襲来時にも避難所として活動しています。

 NPO法人人と動物の共生センターとNPO法人全国動物避難所協会が協力して運営している「うちトコ動物避難所マップ」は、家(うち)からトコトコ歩いて行ける近くの場所に、動物避難所が当たり前のようにある社会を目指して、動物避難所をマッピングしているWEBサイトです。

 登録されている避難所は、現時点で18件と少ないですが、協力する事業者が増えていけば自治体との連携も可能だと筆者は考えます。

うちトコ動物避難所マップはこちら

「りく・なつ同室避難推進プロジェクト」は2023年7月、歌手の伍代夏子さんが災害時に人とペットが安心して同じ室内に避難できる社会の実現を目指し、災害時の備えや、同室避難に対する飼い主の意識を高めること、ペットと一緒に避難することの重要性の発信を目的に始めた活動です。

 ペットを家族の一員としてとらえる飼い主は多いですが、「同室避難」の意識はまだ浸透していません。芸能人がその知名度をフルに活用して周知活動を行うことは、大きな効果が見込めます。

すべての自治体で「同伴避難」を

 ペットの存在を理由に避難しない、ペットと避難できず、喪失感から生きる気力を失うといった問題を解決するためには、「同行避難」と「同伴避難」が連動していることが不可欠です。

 国が「同行避難」を推奨しているのであれば、自治体はその受け皿としての「同伴避難」を重要視し、その備えをしなければならないと考えます。

 一方で、解決しなければならない課題も少なくありません。

 例えば、避難所には子どもや高齢者、持病や障害、アレルギーのある人などさまざまな人が集まります。過去の災害ではペットの鳴き声、ニオイ、抜け毛、排泄物などが、ペットを飼っていない人にとっては大きな問題となりました。また、ペットフードや水、ペットシーツなとの確保、犬の散歩のエリアの確保、また犬の咬みつき事故などが、飼い主側の問題といえます。

 だからこそ、飼い主とペットの適切な居場所を設け、少しでも安心できる避難生活を送れるような避難所づくりをしておくことが大切でしょう。

 飼い主は自分の住む地域の自治体に「同伴避難」の受け入れがあるかどうかを確認しましょう。もし受け入れがない場合には、「受け入れをしてください」と要望することが大切です。飼い主である住民が声を上げることが、実現する一番の早道だからです。

 災害はいつ起こるかわかりません。避難所にこだわらず、親族や友人・知人宅への避難や信頼できるところにペットを預けるなど、避難先について事前に家族で話し合っておきましょう。

 あわせて、ペットと一緒に避難生活するために、災害に対する普段からの備えについて学んでおくことが大切です。


阪根 美果(さかね みか)Mika Sakane
ペットジャーナリスト
世界最大の猫種である「メインクーン」のトップブリーダーでもあり、犬・猫などに関する幅広い知識を持つ。家庭動物管理士・ペット災害危機管理士・動物介護士・動物介護ホーム施設責任者・Pet Saver(ペットの救急隊員)。ペットシッターや保護活動にも長く携わっている。ペット専門サイト「ペトハピ」でペットの「終活」をいち早く紹介。豪華客船「飛鳥」や「ぱしふぃっくびいなす」の乗組員を務めた経験を生かし、大型客船の魅力を紹介する「クルーズライター」としての顔も持つ。