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 50歳を過ぎたころから気になり始めるのが、つまずきやすさ

脚の筋肉を見直す前に!アキレス腱から不調が波及

 女優のかとうかず子さん(65)はブログで、昨年2月に荷物を抱えて歩行中、7月に空港内の動く歩道で、8月に部屋の中で、11月にまたも部屋の中で……と、何度も転倒してしまったことを報告。

 骨折は免れたそうだが、手の指や膝を強打したというアザの写真は、なんとも痛々しい。

 つまずきや転倒を繰り返す原因としてまず考えられるのは、加齢による脚の筋力の低下。対策として、ウォーキングや筋トレを取り入れている方もいるだろう。しかし、原因は筋力の低下だけではない。

「アキレス腱(けん)が重要ポイントです。ここが硬くなると、転びやすくなるだけでなく全身の健康に影響をもたらします」

 と話すのは、医師で日本初の足の総合病院「下北沢病院」の理事長・久道勝也先生。

「人は歩く際、アキレス腱が伸びて、すねが前に傾くことにより、かかとから足の前方へと体重を徐々に移動させて進んでいきます。しかし、アキレス腱が硬いと、すねが前に倒れきらず途中で止まってしまいます。

 それでも体重は前にいこうとするため、体重移動がスムーズにいかなくなるのです。バランスが悪い状態で歩くため、転びやすくなります」(久道先生、以下同)

 本来、歩くときには足裏のアーチの形状を変形させて全身にバランスのよい体重移動を行っている。足には3つのアーチ(かかとから親指のアーチ、かかとから小指のアーチ、指の付け根を結ぶ横のアーチ)があり、衝撃を吸収しているのだ。

「アキレス腱が硬いと、この足裏のアーチにも余計な負荷がかかり、歩行時に足の骨や関節にかかる負担が増します。

 その負担は足だけにとどまらず、足首の関節がうまく使えないことをカバーしようとして、次第に膝、股関節と身体の上へ上へと波及。最終的に肩こりや頭痛の原因になることもあるのです」

アキレス腱が硬いと全身不調になることも イラスト/赤松かおり

 さらに、影響は他にも。

「血流の低下です。アキレス腱はふくらはぎとつながっているため、アキレス腱が硬いとふくらはぎも十分伸び縮みできず、血流のポンプ機能がうまく働かなくなります。それにより、むくみやしびれの原因となるなど、脚の循環にも悪影響を及ぼします」

 まさに脚の機能の要ともいえるアキレス腱。そもそも硬くなる原因は何なのか。

「加齢のイメージがあるかもしれませんが、実は老若男女、アキレス腱が硬い人は多い。いちばんの原因は十分に動かしていないこと。どちらかといえば女性のほうが硬く、その理由のひとつに、ヒールの高い靴を履く機会が多いことが挙げられます。

 ハイヒールは、アキレス腱が縮んだ状態を長時間保ち、伸縮が妨げられてしまいます。他にも、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が減ってくると、腱や靭帯(じんたい)の柔軟性が低下します。

 ですから、この分泌量がガクンと落ちる更年期以降の女性は、アキレス腱が硬くなっている人が多いのです」

 今はつまずきなどの自覚がない人も、アキレス腱の状態をチェックしてみよう。

「アキレス腱のストレッチをした時に、すねが前方に倒れる角度が目安になります。10度以上倒れない場合は硬くなっているので要注意。積極的にケアを行って」

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アキレス腱の硬さチェック

 まっすぐ立ち、片足を一歩後ろに下げる。前側の脚をゆっくりと曲げた時、後ろの脚のすねを10度以上倒せるかが目安。10度以下の場合は柔軟性低下のサイン。両足とも確認をしてみよう。

 無理やりはNG!さほど負荷をかけずに倒れる角度を確かめて。

アキレス腱の硬さチェック イラスト/赤松かおり

歩き続けるためにケアを。冬場は特に念入りに

 改善&予防ケアとして久道先生がすすめているのが“アキレス腱伸ばし”。

「冬場は特に屋内にこもりがちになり、運動不足が原因で腱がこわばりやすい傾向に。意識してほぐしていくことが大切です」

 普段の生活では、靴選びもポイントに。

「かかとまでしっかりホールドするもので、足指が自由に動かせるスニーカーをなるべく履き、ヒールの高い靴はここぞという時だけに。入浴や服装の工夫で、アキレス腱まわりを温めるのも効果的です」

 女性ホルモンの減少がアキレス腱の硬さに影響するという話とも重なるが、足の耐用年数は約50年といわれている。

「もちろん使えなくなるわけではありませんが、実際、50歳を境に足の不具合を訴える方がぐっと増えるのです。足を守ることは、健康寿命を延ばすことにつながります。少しでも長く歩き続けるためには、アキレス腱の柔軟性と脚の筋力の両方が必要です」

 筋肉量は意識している人が多い一方、アキレス腱の柔軟性は意識していない。

「アキレス腱が硬くては筋肉をつけようと運動している過程で、脚を痛めたり、不具合を招きかねません。無理に伸ばそうとするのは厳禁ですが、ゆっくり伸ばすセルフケアを習慣にしていきましょう」

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アキレス腱を守る靴選びのポイント
(1)かかとまでしっかり包み込むもの
(2)ヒールの高さは4cm以下
(3)つま先には1cm程度のゆとりを

習慣化しよう!【アキレス腱伸ばし】

アキレス腱伸ばし〉まずはストレッチ

 アキレス腱伸ばしは、壁を使うことで安心して上体を倒せ、よく伸びる。硬い人はしっかりと、硬くない人もアキレス腱のやわらかさを保つために、毎日行おう。

 壁の前に立ち、両手を壁に当てる。片足を1歩後ろに下げる。つま先はまっすぐ前に向け、かかとは浮かさない。壁に体重をかけて、前足の膝をゆっくり曲げる。アキレス腱の伸びを感じながら30~60秒キープ。反対の足も同様に行う。

ヒールレイズ〉ヒラメ筋を強化

 ヒラメ筋はふくらはぎにあり、足のつま先を伸ばす時に働く筋肉。アキレス腱につながっている。ヒールレイズは、かかとを上げすぎず、できる範囲で。10~20回を2~3セット行う。

 立った状態で両足のかかとを上げ、ゆっくり下ろす。バランスを崩しそうなら、壁や机に手をついてOK。

習慣化しよう!【アキレス腱伸ばし】 イラスト/赤松かおり

つまずき対策には「アーチ&指の力」の強化も

 アキレス腱の柔軟性とともに、身体のバランスをとるために重要なのが足のアーチと指の力。

 つまずきやすい人は、足指で行うグーチョキパーや、椅子に座って床に敷いたタオルを足の指でたぐり寄せる「タオルギャザー」など、足の裏の筋肉と足指を鍛えるトレーニングも取り入れて。

つまづき対策に「アーチ&指の力の強化」 イラスト/赤松かおり
久道勝也さん●下北沢病院理事長・医師。2019年ロート製薬の最高医学責任者に就任。米国のポダイアトリー(足病医学)に注目し、日本初、足病医療の総合病院「下北沢病院」を設立。著書に『“歩く力”を落とさない!新しい「足」のトリセツ』(共著・日経BP)など。
教えてくれたのは……久道勝也さん●下北沢病院理事長・医師。2019年ロート製薬の最高医学責任者に就任。米国のポダイアトリー(足病医学)に注目し、日本初、足病医療の総合病院「下北沢病院」を設立。著書に『“歩く力”を 落とさない! 新しい「足」のトリセツ』(共著・日経BP)など。

取材・文/當間優子