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 医学の進歩とともに画期的な薬が次々に登場し、多くの患者を救っている一方で、扱い方を間違えると深刻な副作用で病気を悪化させたり、命を危険にさらす要注意な薬があるのをご存じだろうか。

命を脅かす危険な薬の副作用

 以前から使われてきた効果の高い薬でも、時間の経過とともに予期せぬ副作用が現れて深刻な問題が浮き彫りになることもある。新しい薬であれば、なおさらだ。

 兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医長の小田陽彦先生は「こういう扱いの難しい薬には主治医の正しい理解が欠かせませんが、独自の理論で危険な処方を行い、事態をより深刻なものにさせている医師も少なくありません」と話す。

 そこで、いまもっとも注意すべき抗認知症薬、ジェネリック薬という2つの薬について、それぞれの事情に詳しい現場の医師に話を聞いた。

怒りっぽいのは薬のせい!?危ない【抗認知症薬】

 2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれる日本。根本的な治療薬はまだないが、病気の進行を遅らせる効果が認められた“抗認知症薬”はすでに多くの患者に処方されている。

 ところが、この抗認知症薬を飲んだ患者が攻撃的になったり、家族に暴力を振るったりする事例が報告されているという。

 そこで抗認知症薬に詳しい、兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医長の小田陽彦先生に話を聞いた。

「ある高齢女性は、アルツハイマー病と診断を受けた70代の夫が、コリンエステラーゼ阻害薬のアリセプトを飲み始めてから怒りやすくなり、さらに夫が車の事故を起こしたため免許返納をすすめると殴られて別居状態になったと相談に訪れました。

 抗認知症薬の副作用が強く出ていることが推測されたため、かかりつけの病院に抗認知症薬の処方をやめるよう求めました」

 すると怒った夫が、なぜ薬をやめなくてはいけないのかと小田先生のもとに抗議に来たという。

「かなりの興奮状態で、物忘れに効く薬と思っていたアリセプトを止められたことに立腹していました。その薬は感情をたかぶらせますと説明しましたが、聞く耳を持たず、納得してもらえませんでした。

 ただ、それからしばらくして前出の女性から、夫は薬剤をやめることができて穏やかになり、免許も返納して別居を解消したと報告を受けました。ほっとしました」(小田先生、以下同)

 なぜ、このようなことが起きたのか。

怒りっぽくなるのは抗認知症の副作用! 漫画/青井亜衣

“効かない薬”を出す医者がいる

「抗認知症薬は全部で4種類あり、そのうちコリンエステラーゼ阻害薬と呼ばれる3種は、細胞同士の連絡を妨げるコリンエステラーゼという酵素の働きを阻害する効果が認められています。

 しかし感情がたかぶったり、攻撃的になったり、また妄想、幻覚、錯乱、嘔吐(おうと)、下痢などの副作用が高い確率で起こることも」

 薬剤名はさきほどの70代男性が服用したアリセプトに加え、リバスタッチ、レミニールがある。もう1つ、興奮を抑制するメマリーという抗認知症薬があるが、こちらも確率は低いものの同様の副作用が警告されている。

「抗認知症薬は扱いがとても難しい薬で、正しい処方に加え、担当医と家族が効果の有無や副作用の経過を慎重に見守る必要があります。副作用が疑われた場合はただちに担当医に伝えて薬の中止を検討しなくてはなりません」

 それにもかかわらず、副作用が疑われても処方を続け、症状を悪化させる医師が一定数いると小田先生。さらに抗認知症薬に適応しない患者にも処方が行われているのだ。

「認知症には、主にアルツハイマー型、血管性認知症、レビー小体型などがありますが、このうち抗認知症薬が効果を発揮するのは、アルツハイマー型とレビー小体型だけ。しかし、それら以外の患者にも抗認知症薬の処方が行われ、効果がない上に副作用だけが現れて病気が悪化するケースもあります」

 治療の手段があるのに目の前の患者さんを放っておけないという変な正義感や、認知症なんてどうせ大半はアルツハイマー型、という思い込みから認知症を軽視し、抗認知症薬を乱用する医師が少なくないという。

薬に期待しすぎないことがいちばん大事

 そもそも抗認知症薬は、アルツハイマー型認知症の人でも劇的な効果が期待できるのは40人に1人程度と非常に少ない。

「抗認知症薬は、多くの患者さんに効果が期待できるような薬ではありません。私が処方する際は、微妙な効果しか期待できないことを事前によく説明しています。患者さんやご家族が抗認知症薬についてよく理解をし、期待しすぎないことが大切です」

 いま抗認知症薬を飲んでいる、または家族が飲んでいて副作用が疑われる場合は、迷わず担当医に相談してほしい。

この薬に注意!
・アリセプト
・リバスタッチ
・レミニール

いま私たちにできること
・薬に過度の期待をしない
・家族は薬の効果が出ているかを見守る
・副作用が疑われたらすぐに主治医に相談する

ずさんなメーカーも!【ジェネリック薬】

 独占的に製造、販売する特許が切れた薬を別の製薬会社が作るジェネリック薬。効果や安全性は変わらず、価格が安くなるため広く使われ、現在では処方薬の8割がジェネリック薬になっている。

 また2024年10月からは特許が切れたもとの薬を希望する患者の窓口負担額が増えることが決まり、ジェネリック薬がますます普及すると見られている。

 しかし近年、複数の製薬会社で異成分の混入や虚偽の検査など、ジェネリック薬に関する不正が相次いで発覚。同じ薬を販売するほかの製薬会社に注文が殺到し、品切れが続出して、2022年にはジェネリック薬のおよそ3割が出荷停止という異常事態に。

 そこで自身のクリニックでジェネリック薬の処方を行っている総合診療医の谷口恭先生に事情を聞いた。

「2020年以降、ジェネリック薬を製造する複数の製薬会社で、発がん性物質の混入、眠気を起こす成分の混入などの不正が相次いで発覚しました。

 さらに2023年10月には業界シェア1位の沢井製薬も、8年にわたって不正な方法で品質検査を行っていたことが発覚したのです。同社が九州の工場で製造する胃腸薬『サワイ』の薬剤を別のカプセルに詰め替えて検査するという信じ難い不正です」

 こうした不祥事で薬の品薄状態が続くと、患者さんにも大きな影響が出るという。

「いくら安くて優れた製品でも、品切れを起こすような薬は安心して処方できません。代わりの薬では同じ効果が得られないなど、病状に深刻な影響を及ぼす可能性もあります」(谷口先生、以下同)

先発品より優れたジェネリックもある

 もともとの薬である先発品よりも副作用が強く出るなどの問題を抱えたジェネリック薬も一部にある、と谷口先生。

「以前、気管支を広げる効果があるジェネリック薬を処方した複数の患者さんから、動悸や手の震えといった症状の訴えがありました。そこで先発品に戻したところ、それらの副作用がピタッと止まったのです。

 ジェネリック薬の販売元である製薬会社に一時的に有効成分の血中濃度が上がりすぎることはないのか調べ直してほしいとお願いしましたが、取り合ってもらえませんでした

 また効果や安全性は同じでも、先に開発された薬より使い勝手が悪いと患者さんから不評だった塗り薬のジェネリック薬があり、処方をやめたことがあるという。

「ある患者さんは、ジェネリック薬に変えたところ、ベタつきやにおいが気になったそうです。塗り薬などの外用薬は、毎日使用するものなので、使いにくさがあると継続が難しくなってしまいます」

 とはいえ、すべてのジェネリック薬が問題というわけではない。

「ほとんどのジェネリック薬は、先発品と同様に優れたものが多く、なかには大きさや味、飲みやすさなどが工夫され、先発品より患者さんの評判がいいものもあります」

 ジェネリックだからといってすぐに不信感を持つ必要はないが、一部の薬にそうした問題が起きていることは、知っておくべきだろう。ジェネリック薬を服用して、体調の変化や予期せぬ副作用が起きたと感じた場合は、すぐに担当医に相談してほしい。

いま私たちにできること
・ジェネリック薬で不調や副作用が現れたらすぐに主治医に相談する
・使用感が気になる場合も我慢せず主治医に相談する

小田陽彦先生●兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医長 認知症疾患医療センター長。
教えてくれたのは……小田陽彦先生●兵庫県立ひょうごこころの医療センター精神科医長 認知症疾患医療センター長。
谷口恭先生●医療法人谷口医院院長。大阪市立大学医学部総合診療センターに所属後、医療法人谷口医院を開院。
教えてくれたのは……谷口 恭先生●医療法人谷口医院院長。大阪市立大学医学部総合診療センターに所属後、医療法人谷口医院を開院。

取材・文/井上真規子