ダウンタウンの松本人志(左)と浜田雅功

 お笑いの重鎮がテレビから姿を消す─松本人志“性加害”疑惑は、芸能界に大波乱を巻き起こしている。

「発端は、2023年末発売の『週刊文春』です。2015年に松本さんから性行為を強要されたと告発する女性の証言を掲載。仲介した人物としてスピードワゴンの小沢一敬さんの名前が挙げられ、記者の直撃に対し、松本さんは全面否定していました」(スポーツ紙記者、以下同)

『週刊文春』発売日に松本が所属する吉本興業は事実関係を否定し、法的措置を示唆。

真偽を巡り対立する中で、告発女性が小沢さんに送ったとされる当時のLINE画像が流出。松本さんがその画像とともに《とうとう出たね。。。》というコメントを添えSNSで発信したことで、賛否の声も寄せられました」

“活動休止宣言”の余波

 年が明けて1月8日になると、衝撃の急展開が。吉本が松本の芸能活動休止を発表したのだ。

松本さんは自身が以前に出演していたフジテレビ系の『ワイドナショー』に改めて出演することを表明しましたが、協議の結果、取りやめに。1月10日発売の『週刊文春』は、たむらけんじさんパンクブーブーの黒瀬純さんが女性を松本さんに斡旋したとの証言を掲載し、騒動は拡大しています」

 突然の“活動休止宣言”で、テレビ業界は早急な対応を迫られている。

松本さんのレギュラー番組は、相方の浜田雅功さんと一緒に出演するものも含め7本。収録済みのものは放送されますが『M-1グランプリ』審査員などの特番も多いので、松本さん不在の影響は大きいでしょうね」(テレビ誌ライター)

 松本は芸能活動を休止して文春との裁判に専念するという。法廷で争われると、どんな展開が予想されるのか。芸能トラブルに詳しい『レイ法律事務所』河西邦剛弁護士に聞いた。

「松本さんの主張が認められた場合、損害として生じる可能性があるのがまず慰謝料です。これが数百万円程度で、日本で1000万円を超えることは少ないです。今回は慰謝料だけでなく、テレビやCM出演がなくなったことに対する損害が莫大じゃないかという指摘があるかと思います。

 テレビ局やスポンサーが性加害を理由に降板に至ったと考えた場合、松本さんは性加害について明確に否定しているので、もし性加害についての真実性や真実相当性が否定された場合には損害に含まれる余地もあります」(河西弁護士、以下同)

 損害額の算定には複雑な要素が絡み合う。

レギュラー番組もいつかは終わるわけで、裁判所は損害の判定に苦慮するかと思われます。報道がなければ1年ぐらい続いていたと仮定してギャラを推定するということもあるかもしれません

『週刊文春』の主張が認められる可能性もある。

記者会見のデメリット

「被告側の文春が、記事が真実だと立証できた場合や、取材を尽くし真実であることの相当の根拠を示せた場合は、慰謝料の支払い義務は生じません。密室での性加害で物的証拠も少ないので、被害を受けたとされる女性たちの証言の信用性が何より重要です。矛盾点がないか、一貫性や具体性があるか、客観的状況と一致しているか、このあたりがポイントになってきます」

『ワイドナショー』出演はなくなったが、松本が何らかの方法で主張を表明することはできるのだろうか。

「テレビ放送の場合、放送法や放送倫理規範の問題、公共性や中立性の問題が出てきます。テレビ放送でトラブルを扱う際には、双方当事者の意見を併記する、双方に取材してから放送するのが鉄則です。一方当時者である松本さんのみを出演させるのは、公共性や中立性が疑われてしまう可能性があると思います

ダウンタウンが出演する主な番組一覧

 記者会見を開くという方法も考えられる。

「記者会見で話をするかは本人次第ということになります。ただし、質疑応答がメインになることが予想されますし、記者からは被害者視点に立った質問が出てくる可能性もあります。回答に窮する場面が想定されるとすれば、本人にとってデメリットが大きいと考えることもあるかと思います

 裁判は時間がかかるとされるが、そうなると芸能界に、どんな影響が予想されるのか。お笑い評論家のラリー遠田氏に聞いた。

「ジャニーズ問題を見てもわかるように、性加害は事件として重い。報道が仮に事実だとしたら、当然芸能界を引退しなければならない不祥事ですよ。判決が出るまで芸能活動を休止するのだとすると、復帰が現実的に可能なのか。現時点での個人的な印象としては、復帰は相当難しいのではないかと思います」(ラリー遠田氏、以下同)

 突如テレビから姿を消したことが、事態を悪化させた。

事前の通告や相談なしに突如テレビから姿を消してしまったわけですが、そのことでテレビ局、スポンサー、広告代理店の方々が対応に追われているわけです。すでに多方面に迷惑をかけてしまっている状況なので、事務所が何年後かに“また復帰させますのでよろしくお願いします”と言ったとして、受け入れられるかどうかはわかりません

島田紳助さんが引退したときは

 ピンチで頼りになるのは、苦楽を共にしてきた相方だろう。浜田がとるべき行動はどんなものか。

「性加害というのは、単なる不倫などとは性質が違うんですよね。だから、それ自体を直接イジったりネタにするのは難しいと思います。被害者がいることなので、うかつな発言をすれば二次加害につながる可能性もあるし、何か発言すること自体が今後の裁判に影響を与えることもあるかもしれない。今の段階では浜田さんも基本的には何も触れられないと思いますね

島田紳助

 浜田に“打つ手なし”としたら、松本のいないお笑い界が現実のものとなる。“ポスト松本”にはどんな芸人がふさわしいのか。

島田紳助さんが引退していくつかの番組が終わったとき、司会が今田耕司さん東野幸治さんに代わりました。それと同じことが起きるでしょうね。吉本の芸人が代役を務めるケースが多いでしょうし、他事務所のMCをやっているクラスの芸人が起用されることになるかもしれません。有吉弘行さん、くりぃむしちゅー、バナナマン、サンドウィッチマン、千鳥、かまいたちなどが今後のお笑い界を引っ張っていくことになるんじゃないでしょうか。松本さんが抜けた穴にピタッと誰か1人がハマるようなことはないと思います

 真相は不明でも、大物を巡る疑惑は芸能界に甚大な影響をもたらすことになった。

河西邦剛弁護士 芸能トラブルに関する法律分野から児童ポルノなどの刑事事件まで、幅広い案件を取り扱う。芸能案件の取り扱いは過去300件以上、刑事事件では年間1000件以上。メディアにも出演中
ラリー遠田 東京大学文学部卒。テレビ番組制作会社勤務を経てフリーライターに。お笑い評論家としてメディア出演など多方面で活動。『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数