2023年3月の『WBC』で解説を務めた王貞治氏

 福岡ソフトバンクホークスにFA移籍した山川穂高選手(以下、敬称略)の人的補償をめぐる騒動は、2019年入団のドラフト1位投手・甲斐野央(かいの・ひろし)の指名で幕を閉じた。さらなる飛躍が期待される即戦力の27歳は、2024年シーズンを埼玉西武ライオンズでプレーすることになりそうだ。

 発端は1月11日の『日刊スポーツ』が報じた、ベテラン・和田毅をライオンズが指名方針とするスクープ。プロ野球ではホークス一筋で、日米通算163勝を積み上げたレジェンド左腕のプロテクト漏れに、当然ながらホークスファンは猛反発。

 批判の矛先は三笠杉彦GMをはじめとする球団フロントだけでなく、山川獲得に「チャンスを与えてやるべき」と正当化した王貞治会長にも向くことに。その王会長が『週刊文春』(1月18日発売号)の取材に応じ、“和田騒動”について初めて口を開いたのだった。

 日刊スポーツの情報源について「西武が流した」との遺恨を残しかねない私見を述べた王会長だったが、話の中で違和感を覚えたのが、“FAと人的補償をめぐって、自身が動いたのか”と問われた時ーー。

「僕は決定した段階で、甲斐野っていうのが指名されたと聞いただけです」

 あくまでも“ライオンズの指名が正式決定した段階で選手名を聞いた”と主張する王会長だが、スポーツ紙・野球担当記者が首を傾げるのが「“甲斐野っていう選手が”との、まるで他人事のような話し方」。

一軍選手の名前を把握していなかったのか

 1994年にダイエーホークス監督に就任、ソフトバンクに正式譲渡が決定した2005年以降も監督やGMを務めては常勝軍団を築いた王会長。現在も「取締役会長兼特別チームアドバイザー」の役職に就き、まだまだチームになくてはならない存在、と思われていた。

「いくら四軍まである巨大戦力を抱えるホークスとはいえ、昨季には中継ぎとして46試合に登板した、首脳陣も期待を寄せていた一軍選手に対し“甲斐野っていうのが”と初めて名前を聞いた選手のような扱い。“チームアドバイザー”としてはあり得ない発言でしょう。

 もちろん、取材した記者の受け取り方や言葉足らずによる文面の可能性もありますが、その後の“あとはもう頑張ってくれとしか言いようがありません”との発言も含めて、球団トップとして甲斐野投手に礼を欠いた発言に思えます」(同・担当記者)

移籍報道から間も無く、和田毅投手の公式インスタグラムにはファンの悲しみの声が寄せられた

 たしかに一軍選手の名前を把握していないような王会長の物言いは不自然に映るが、一方で山川獲得をはじめとする一連の騒動、さらには昨今のチーム編成にも深く関わってはいない、「肩書きは“表向き”のもの」との見向きもある。

「王さんが言うのなら」は通用しない時代

  かつて記者として長らく現場取材を重ねたベテランスポーツジャーナリストの弁。

「昨年末に台湾で開催された『アジア野球選手権大会』の始球式を務めたように、まだまだ元気な姿を見せる王さんですが、83歳の高齢に加えて大病も患った身。“相談役”としてお伺いを立てられることはあるでしょうが、ここ数年は現場に立つことよりもグラウンド外で普及活動に務めていた印象です。

 それでも会長として意見を求められ、そして矢面に立たされるのは心苦しく思います。我々世代にとって王さん、長嶋(茂雄)さんは今なお大スターですが、ネット世代にはもう“王さんが言うのなら”は通用しないということ(苦笑)」

 今回の文春取材で漏らした「甲斐野っていうのが」発言も、話を聞かれたから自分が知っていること、素直な私見を述べたにすぎないのかもしれない。

“コメントはない”と説明責任を果たさずに騒動収束を図りたい三笠GMですが、その分、昔から取材を断らない王さんにマイクが向くのは当然のこと。私情も挟みますが、フロントの“不手際”でこれ以上、ファンのため、子どもたちのために球界に尽力してきた王さんの手を煩わせる事態を招かないでほしいね」(同・スポーツジャーナリスト)

 ファンのためのプロ野球、その原点に帰ったチームになれるのだろうか。