(左から)篠田麻里子、伊藤淳史

 ただのエッチなドラマだと思っていると、この作品の“本質”を見過ごしてしまうだろう。

 3月いっぱいで放送作家業や脚本家業を引退することを発表している鈴木おさむ氏(51)が脚本を担当し、伊藤淳史(40)が主演を務める土曜ナイトドラマ『離婚しない男ーサレ夫と悪嫁の騙し愛ー』(テレビ朝日系)が、話題を集めている。

 1月20日の第1話放送までゲス不倫をする妻・綾香役を誰が演じるか伏せられていたが、それが元AKB48の篠田麻里子(37)だとわかると、X(旧Twitter)をはじめとしたネットがお祭り状態となり、話題をかっさらったのだ。

 その勢いはデータにも如実に表れている。TVerなどの見逃し配信で、第1話がテレ朝の全番組で歴代最速となる19日間で625万再生を記録し、2月13日の段階で第1話から4話の累計が1500万再生超えになっているというのである。

地上波放送ギリギリでアダルト作品顔負けの濡れ場

 こんなにも大ヒットとしている要因は、篠田がキャスティングされたことと、彼女が毎回大胆な濡れ場を演じていることにある。

 まず篠田のバックボーンをおさらいしておく必要があるだろう。

 AKB48の“神7”として活躍していた彼女は2013年に同グループを卒業。2019年に年下の実業家男性と結婚し、2020年に長女を出産。しかし、2022年8月に別居中で離婚調停中だとスクープされ、某企業の社長と不倫しているという疑惑が噴出した。

 それだけでなく、夫と思われる男性の声で不倫を追求し、篠田と思われる女性が泣きながら謝罪する、衝撃的な音声データが流出するという騒動もあり、真相は不明ながらも“不倫タレント”のイメージが付いてしまっていた。けれど紆余曲折あり、昨年3月に篠田と夫は“円満離婚”を発表したのだ。

 つい1年半ほど前に現実でドロ沼不倫スキャンダルの火中にいた女優が、ゲス不倫する妻役を演じるだけでも前代未聞だが、本作はそれだけではない。ドラマ内の描写が過激すぎることも視聴者に衝撃を与えた。

 小池徹平(38)演じる不倫相手とのベッドシーンでは、舌を絡み合わせてキスするのは序の口で、半裸の綾香が卑猥にあえぎまくる。

 第1話のベッドシーンでは、不倫相手から旦那と比べてどうかと尋ねられ、綾香が「1兆万倍いい~~!」と大絶叫。第2話では「おいしいよ、綾香汁の味がする」という超卑猥な変態ゼリフも登場した。

 篠田が吹っ切れた濡れ場を演じ、地上波限界ギリギリでアダルト作品顔負けのノリが毎回繰り広げられているのである。

 本作を報じたネットニュースのコメント欄には、

《エロネタでしか話題にならない……、なんて下衆なんでしょう》

《小池徹平がいちばん羨ましい。神7とあんなことこんなこと》

《ドラマ史に残る?どこが?ただエロさだけでしょ!しかも、中途半端 泥沼不倫からのよく地上波!》

《前の旦那はどんな気持ちなんやろ……現実そのまま過ぎるように感じるわw》

 といったように、篠田のベッドシーンの過激さに驚愕する声であふれていた。

テレビドラマでありながらテレビ依存せずにヒット

 ハレンチな側面ばかりが取り上げられがちの『離婚しない男』だが、エンタメ業界の進化の最先端をいく“新時代のドラマ”だという気がしてならないのだ。

 本作は世帯視聴率3%台でスタートしており、23時台のドラマとしては悪くはないだろうが、視聴率だけで見るとヒットとは言えないだろう。だが前述したように、TVerなどの見逃し配信で歴代最高記録を樹立してヒット作となっている。

 これはつまり、テレビドラマでありながら、テレビに依存せずともヒット作が生み出せるという証明になっているのである。

 以前から不倫ドラマには同じような傾向が見られ、昨年4月期放送の『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)も、視聴率はいまいちながら、見逃し配信でブレイクした作品だった。

『あなたがしてくれなくても』は全話平均の世帯視聴率が5%台と低調だったものの、TVerの昨年4月~6月の番組再生数ランキングで、累計5481万再生を叩き出し堂々トップに。3589万再生で2位の『王様に捧ぐ薬指』(TBS系)、3056万再生で3位の『風間公親-教場0-』(フジテレビ系)に大差をつけて、ブッちぎりの1位だったのだ。

 濡れ場のある不倫ドラマは、家族団らんで観る作品としては適していないのはもちろんだが、観ていることをほかの家族に知られるのも恥ずかしいジャンルであるため、テレビ視聴にはあまり向いていない。

 特に近年、TVerやサブスクの動画配信サービスはスマホやPCで簡単に観られるので、わざわざリアルタイムの放送をテレビで視聴する必要性も薄れている。

 こういった時代背景があり、不倫ドラマは視聴率が低調で、その代わり見逃し配信の再生数が伸びる傾向にあるのだが、『離婚しない男』は意図的にその路線をとことん突き詰めているだろう。

 本作について鈴木おさむ氏は、「正直、色んな意味で話題作になり、問題作となると思います」とコメントしていた。あえてアダルト作品顔負けの卑猥な描写やセリフを次々と投下することで、“こっそり視聴”勢にネット上で話題にしてもらって、ブームを巻き起こそうという計算があるのかもしれない

本作の脚本を手がけた鈴木おさむ

 鈴木氏はテレビ愛が強い人物と見受けられるので、テレビ業界を盛り上げたいという気持ちが土台としてはあるだろうが、テレビでリアルタイム視聴するというスタイルだけでなく、自分一人で好きな時間にスマホやPCで観るスタイルも想定しているはず。

 ――このように『離婚しない男』はただエッチで過激なだけではない。

 地上波テレビのコンテンツでありながら、テレビ視聴だけを前提にしているわけでなく、テレビ依存から脱却できる可能性を示した、先鋭的にアップデートされた新時代のドラマなのである。

堺屋大地●コラムニスト、ライター、カウンセラー。 現在は『文春オンライン』、『CREA WEB』(文藝春秋)、『smartFLASH』(光文社)、『週刊女性PRIME』(主婦と生活社)、『日刊SPA!』などにコラムを寄稿。これまで『女子SPA!』(扶桑社)、『スゴ得』(docomo)、『IN LIFE』(楽天)などで恋愛コラムを連載。LINE公式サービス『トークCARE』では、恋愛カウンセラーとして年間1000件以上の相談を受けている(2018年6月度/カウンセラー1位)。公式Twitter:https://twitter.com/sakaiyadaichi