1984年、テレビドラマ『家族の晩餐』でヒロインとしてデビューした大西結花。1986年『スケバン刑事3少女忍法帖伝奇』の風間結花役で人気を博した

「アイドルでありながら、生傷が絶えない毎日でした。歌番組でドレスを着るときはいつもファンデーションで隠すようにして。まさかばんそうこうを貼ってテレビに映れないじゃないですか(笑)」

 と言うのは、女優の大西結花。1986年放送のドラマ『スケバン刑事3 少女忍法帖伝奇』(フジテレビ系)に出演し、大ブレイク。昭和を代表するアイドルのひとりとして、絶大な人気を博した。

冬の東京湾にダイブ

 大西が演じたのは主人公・風間三姉妹の長女役で、三女役の浅香唯、次女役の中村由真と共に敵に立ち向かう。アクションシーンも多かったが、当時はその大半をスタントなしで挑んだ。なかでも忘れられないシーンはと聞くと、

「ナンバーワンは、冬の東京湾に入ったこと!」

 と即答。まだレインボーブリッジもないころで、お台場が今のような観光地化される前のこと。海中で首にロープをかけられ、クルーザーで引っ張られるという何ともハードなシーンだったが、吹き替えなしで自ら演じている。しかも彼女、カナヅチだというから大変だ。

“すみません、私泳げないんです!”って言ったら、“ウエットスーツを着てれば浮くから大丈夫!”と言われて、ポイッて海に入れられて。東京湾の沖のほうでした。セーラー服の下にウエットスーツを着てはいたけれど、襟元から見えないように切り込みを入れていたので水がどんどん入ってくるんです。今だったら絶対ありえないですよね」

 撮影は早朝に始まり、深夜2時、3時まで続く。コンプライアンスなどどこ吹く風で、寝る暇もなく仕事に追われた。

「帰宅してお風呂に入り、髪の毛にタオルを巻きながら、ソファで翌日に撮影するシーンの台本を読んだままうたた寝しちゃったり。ベッドで寝る時間すらなかったですね」

 アイドルのあり方も今とは大きく違う。手の届く親しみやすいアイドルが主流の昨今と比べ、当時のアイドルは実体を伴わない偶像を演じなければならない。決して手の届かない存在であり、生活感は見せられない。

「中学を卒業してすぐ地元の大阪から東京に出てきたので関西訛りがあったけど、決して訛ってはダメだと言われてました。生活のにおいがするようなことや、お店で食事をするのも控えるようにしていましたね

自宅住所や電話番号が筒抜け

 もちろん恋愛などご法度だ。

恋愛禁止どころか、お友達の彼氏やお兄さんと一緒にいるのもダメ。例えばファミレスに行ったとして、同じテーブルに友達のお兄さんがいるのもダメなんです。はたから見たらその男性がどんな関係なのかわからないからって」

 とはいえお年頃だけに、好きな人やこっそりお付き合いした人もいたのでは?

「本当に好きな人はいませんでした。いつも“恋愛しちゃダメ!”と言われていたから、そう思い込んでいたと思います。共演者に誘われるようなこともなかったですね。“あのころこっそり電話番号を書いた紙を渡された”なんてアイドルたちの話をよく耳にするけれど、そんなこと一体どこで行われていたの!?って思っちゃう(笑)

大西結花

 今はSNSで情報が何でも手に入ってしまう時代で、アイドルのプライベートにしてもそう。しかし情報が簡単に手に入らなかったからこそ、当時はファンの熱も高かった。

生放送の後はいつも追いかけられたので、毎回帰るのが大変でした。わざわざ高速に乗っては遠回りして帰ったり。後ろをずっと気にしなければいけないので、マネージャーさんも大変だったと思います」

 それでも自宅の場所はどこからかバレ、引っ越しを余儀なくされた。自宅の電話番号にしても、

「バレるまで、もって1年でした」

 と振り返る。

「あれは不思議でしたね。家族と事務所の人しか知らないはずなのに、何回変えてもバレてしまって。“大西さんのお宅ですか?”ってかかってきた時点でもうアウト。うわー、またかという感じでした

 なかには過激な行動に走るファンもいた。時には身の危険を感じることも─。

地方のホテルに宿泊したとき、私の部屋の前にファンの方が立っていたことがあって。中に私がいることがわからないよう、ヒソヒソ声でマネージャーに電話をして対処してもらいました。彼がどうやって部屋を調べたかわからなくて、本当に怖かったです」

風間三姉妹は今でも仲良し

 風間三姉妹を演じた浅香唯、中村由真は過酷なアイドル時代を共に生きた同志であり、今も交流があるという。

『スケバン刑事』で人気が爆上がりしたころの大西結花。まさに“手の届かないアイドル”そのものだった

「大みそかに3人で集まって、一緒に年を越したこともあります。紅白を見ながらおしゃべりして、あれは楽しかったな」

 ハードだったアイドル時代も、今となってはいい思い出で、「あの経験のおかげで精神も鍛えられました」と笑う。

 ところで、大西が過酷ロケナンバーワンに挙げる冬の東京湾のシーンだが、今も一部有料チャンネルで見られるよう。

あのシーンは映画『スケバン刑事 風間三姉妹の逆襲』に収められています。忘れもしない大寒波が来た日で、すごく寒い中での撮影でした。こんな演技をしてるけど、本当は必死だったんだなと思って見てもらえたら。ぜひチェックしてみてください(笑)

一世を風靡した!1986年放送ドラマ

『男女7人夏物語』は最高視聴率31.7%をたたき出す大ヒットに。ほかにもドラマ『不適切にもほどがある!』阿部サダヲ演じる小川市郎が話題にした『毎度お騒がせします』(TBS系)は、下ネタとともに男女とも下着姿や半裸の入浴シーンが当たり前。
 また、神奈川県警横浜港警察署捜査課の刑事コンビ、タカこと鷹山敏樹(舘ひろし)とユージこと大下勇次(柴田恭兵)の破天荒な活躍を描いたドラマ、『あぶない刑事』(日本テレビ系)も国民的な人気に。今年の5月には映画『帰ってきた あぶない刑事』が封切られる。

誰もが知るアレも1986年に発売!

 1986年当時、900万台が普及していたといわれるファミコン黄金期の中、誕生したのが『ドラゴンクエスト』。漫画家の鳥山明デザインのキャラでも話題に。現在ドラクエは、80を超えるタイトルが発売されており、累計販売本数は8800万本を超える人気ぶりだ。
 富士フイルムが世界初のレンズ付きフィルム『写ルンです』を発売したのも1986年。まだカメラが高級品だった時代に、使い切りの手軽さで大ヒット。現在、若者を中心にレトロ感がウケて再流行している。


取材・文/小野寺悦子 撮影/齋藤周造