ニューヨークで開催された特別イベントでインタビューに応じる真田広之(筆者撮影/東洋経済オンライン)

「俳優としては、限界を感じていたところ、初めてプロデューサーという話があり、チャレンジングでもあった。でも、ようやく日本から時代劇の経験のあるクルーを呼んで、撮影できた。そして、それをハリウッドが認めてくれたというのは、大きなステップになる」

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 俳優・真田広之主演・プロデュースの戦国スぺクタクルドラマ「SHOGUN将軍」(10話)の配信が、2月27日から始まった。25日に開かれたニューヨークのジャパン・ソサエティーでの特別イベントに登場した真田は、日米の製作陣が初めて手に手を取り合って完成した作品についてこう語った。

「世界の、いや日本のサムライドラマさえも変えていきたい」。日本ではディズニープラスで配信されている。

「ラスト サムライ」で視聴者が抱いた疑問

 真田さんが「ようやく」と言うのには、意味がある。真田は2003年、映画『ラスト サムライ』でハリウッドに進出して、トム・クルーズらと共演した。大ヒットとなったが、所作や着付けの仕方などハリウッドの日本の描き方は、多くの日本人が疑問を持った。

 以来、世界に影響を及ぼすハリウッド製であっても、日本の文化や精神を正確に伝える「本物の(authentic)サムライ作品」を目指していたという。

 エグゼクティブ・プロデューサーは、『トップガン マーヴェリック』の原案を手掛けたジャスティン・マークスと、妻でハワイ育ちの日系人であるレイチェル・コンドウ。原作は、ジェイムズ・クラベルのベストセラー小説「Shogun」。

 1980年代に、三船敏郎、島田陽子、リチャード・チェンバレンが出演したテレビドラマで大ヒットした。しかし、マークスとコンドウは、ハリウッドチックではなく、細部にこだわり、現代人に日本の文化が伝わるような脚本にするため、1年以上を費やしたという。

エグゼクティブ・プロデューサーのマークスと妻のコンドウ(写真/東洋経済オンライン)

「作品は東西チームワークの賜物」

 真田には当初、主演を依頼したものの、後にプロデューサーとしての参加をも要請。これによって、海外ロケ地に時代劇のクルーを日本から呼び寄せ、日本人役はすべて日本人というこだわりの作品に仕上がった。海外が初めてというクルーも多く、時代劇のプロらが言葉やコミュニケーション、文化の壁を乗り越えて、日米初の壮大な協力体制でできた作品といえる。

「作品は東西チームワークの賜物。その思い入れを感じ取ってもらいたい」と真田。

「日本で学んできたこと、『ラスト サムライ』以来、思ってきたことをすべて注ぎ込んだ。異文化の映画を作るときは、本物を作らなければいけない。金儲けだけが目的ではない、すべてが本物で、カメラの前にあるものはすべてが本質的なものでなければならない、という気持ちを込めた」

「その意味で、世界のサムライ作品の、いや日本でのサムライ作品の作り方でさえ変えていきたい」と意気込みを示す。

 舞台は1600年代、「天下分け目の戦い」の兆しが立ち込めていた日本。戦国最強の武将、吉井虎永(真田広之)が窮地に陥る最中、遭難船の英国人航海士ジョン・ブラックソーン(後の按針、コズモ・ジャーヴィス)が虎永の領地へ漂着し、交流が始まる。

 ニューヨークのイベントで公開された1、2話では、一瞬でも気を抜けば命を取られかねない陰謀と策略の日々が描かれていた。徳川家康や石田三成など歴史上の人物を想起させる、将軍の座を懸けて、武士の伝統を守りつつも新たな挑戦に命を賭けていく戦国ドラマだ。

 ブラックソーンを演じるのはミュージシャンとしても知られるコズモ・ジャーヴィス。さらに通訳の戸田鞠子を演じるのは『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』に出演するなど、ハリウッドで活躍する俳優アンナ・サワイ。抑えの利いた演技ながらも、英語を使いこなし、真田は「鞠子の役は、地球上で彼女にしかできない」と上映後の質疑応答で発言。サワイが思わず涙ぐむ場面もあったほど重要な役回りだ。

重要な役どころを演じたアンナ・サワイ(筆者撮影/東洋経済オンライン)

「本物感」を追求するために細部にもこだわり

 質疑応答では、「本物感」を保つためにいかに製作陣が苦労したかも語られた。真田がモニターをのぞいて、「それは中心にあってはならない」と小道具の位置をずらしたり、ロケ地で日本には生えていない蔦を取り除いたりしたという。

 その本物感は、視聴者にも伝わっているようだ。ニューヨーク・タイムズ紙は「時代劇の衣装や立ち居振る舞いの細部を吟味するのにも多大な努力が払われたと言われている。日本でさえ、その違いがわかる視聴者はほとんどいないだろうが、画面に映し出されたものは、私たち以外には確かに信頼できるものに見える」と書いている。

 日本育ちで国際政治学者でもあるジョシュア・ウォーカー・ジャパン・ソサエティー理事長は、上映を見てこう語った。

「作品の表現は、本物で正確であり、アメリカの視聴者やエンタテインメント業界は、同m作品に注目すると思う。小説やかつてのテレビドラマでの『SHOGUN』を見た世代から、新しいパワフルな製作陣が作り出した今回の作品が、新しい世代にどう訴えかけていくのか見るのが楽しみだ。そして、真田広之はまさに将軍、日本とアメリカの大切な人物として浮き彫りになったと思う」


津山 恵子(つやま けいこ)Keiko Tsuyma
ジャーナリスト
東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、『AERA』に執筆した。米国の経済、政治について『AERA』ほか、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」「HEAPS」に執筆。著書に『モバイルシフト 「スマホ×ソーシャル」ビジネス新戦略』(アスキーメディアワークス)など。X(旧ツイッター)はこちら