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「いつまでも健康でありたいというのは、誰にとっても切実な願いです。だからこそ、それにつけ込むような疑わしい“健康ビジネス”が後を絶たないのも事実。みなさんには医学的な根拠に基づいた取捨選択をしてほしいです」

 そう語るのは、整形外科医として活動する傍ら健康情報を発信する歌島大輔先生だ。

ボキボキ、バキバキ、悶絶系の整体

 身体の凝りを感じたときに気軽に行ける整体。中でもボキボキと音を鳴らすタイプの施術は爽快感を味わえ、一瞬で歪(ゆが)みが整うような感覚があるが、歌島先生は受けるべきではないという。

「僕のYouTubeで全国648人の医師を対象に“絶対に受けたくない施術”を選んでもらったところ、“バキバキ・悶絶(もんぜつ)系の整体”が1位でした。瞬発的な圧力を加えて音を鳴らす施術や、激しい痛みを伴う施術は、僕なら絶対に受けません」

 ボキボキ音の正体は、関節包内部の気泡がはじけるクラッキングという現象。本来の可動域を超えるところまで関節を曲げると、関節液という液体に圧力が加わって気泡が発生し、それがはじけることで音が鳴る。

「エビデンスがないどころか危険性が高いです。厚生労働省も平成3年に“医業類似行為に対する取扱いについて”の中で“頸椎(けいつい)に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を加える危険が大きいため、こうした危険の高い行為は禁止する必要がある”と通知して以来、今もホームページで注意喚起をしています」

○○リリース、○○矯正系の施術

 ほかにも注意したいのが“矯正”という言葉。例えば、側弯(そくわん)症という背骨の歪みを矯正するには、骨に金属を入れる手術をし、強い力で矯正するしか方法がなく、整体で治りはしない。

 また治療院では施術前後の手脚の長さや歪みの差を測定し、効果を説明されることがあるが、これにも疑問符がつく。

「脚の位置は施術台に寝転がったときの股関節の回旋や、骨盤の傾きで簡単に変わります。ちょっとした姿勢の違いは、それが日頃のクセによるかすら怪しいです」

 ○○リリースと呼ばれる施術で一番多いのは筋膜リリースだ。これは筋膜の癒着を剥がすと謳(うた)う施術だが、どれほどの効果があるのか大いに疑問だという。

「整形外科では超音波画像を用いて癒着が疑われる患部に、生理食塩水を含む液体を注射するハイドロリリースという施術があります。これは筋肉の動きを改善するものですが、それを整体で力を加えただけで達成できるというのは、説得力がありません。

 さらには骨膜リリースやほかの○○リリースというのは、おそらくなんの根拠もないでしょう」

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短期で結果を出すパーソナルジム

「短期間で身体を変えることにこだわると、当然大きな負担がかかります。その結果、さまざまな部位に痛みが出るリスクが高まります。私は肩の専門で診察をしているので、腱板(けんばん)断裂や肩鎖関節炎などを実際に見てきました。

 それだけでなく糖質を完全にカットするなど、極端な食事法を指導されることもあるようです」

 パーソナルトレーニングの健康被害は昨今問題になっており、令和4年には国民生活センターが健康被害例を紹介するほど。

 デッドリフトというトレーニングを指導された30代女性が、腰椎と仙骨を骨折したという報告や、徹底した糖質制限の結果、湿疹が出てしまったというケースもあった。

「これは皮膚科で色素性痒疹(ようしん)という診断だったようです。糖質を制限すると身体は代わりに脂肪をエネルギーとして使いますが、その脂肪が分解されるときに脂肪酸の一部は肝臓でケトン体という物質に変わる。

 このケトン体が過剰になると“ケトーシス”という状態になり、色素性痒疹を引き起こす可能性もあります。極端な方法を選ばず、時間をかけて行うことが大切ですね」

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部分痩せを目指すストレッチ

 年齢を重ねるほど二の腕やお腹まわり、太ももなどの脂肪が落ちづらくなる。それにあらがおうと健康器具を使ったり、ストレッチに励むのは「時間とお金のムダ!」と歌島先生に一刀両断された。

「ダイエット目的でのストレッチは、整形外科医は誰もやらないです。筋肉を伸ばしても痩せることはありません。もちろん運動量の高いストレッチもありますが、それなら運動をしましょう。

 ダイエットを達成するには、基礎代謝を含んだ消費カロリーが、食事で摂取したカロリーを上回る状況をつくるしかありません。その手段として筋肉を伸ばすことは、意味がないですね」

 さらに残念なことに、特定の運動で部分痩せができるという説は整形外科医なら、ほぼ100%否定するという。

「ただ、部分痩せのように見せるだけならできるかもしれません。二の腕のたるみの脂肪だけを落とすのはムリですが、二の腕の筋肉、特に上腕二頭筋と三頭筋を鍛えて筋肥大を起こせばよいのです。そうすれば腕が太く張り、二の腕がタプタプして見えないでしょう」

歌島大輔先生●整形外科医。フリーランス整形外科医として肩関節鏡手術の技術を駆使し、五十肩・腱板断裂などの治療を専門に行う。さらに日本整形外科学会認定スポーツ医や脳科学に基づいたマインドコーチとしても活動し、YouTubeチャンネル「すごいエビデンス治療/整形外科医歌島大輔」やオンラインサロンで情報発信を続ける。

歌島大輔先生●整形外科医。フリーランス整形外科医として肩関節鏡手術の技術を駆使し、五十肩・腱板断裂などの治療を専門に行う。さらに日本整形外科学会認定スポーツ医や脳科学に基づいたマインドコーチとしても活動し、YouTubeチャンネル「すごいエビデンス治療/整形外科医 歌島大輔」やオンラインサロンで情報発信を続ける。

市販の風邪薬や抗生物質を服用

 風邪をひいたときに薬局で簡単に手に入る風邪薬はありがたい。症状が軽いうちに早めに飲んで、治そうとするのが一般的だろう。しかしほとんどの医師は市販の総合感冒薬は飲まないとか。再生医療の研究や普及に尽力する北條元治先生が解説してくれた。

「早めに薬を飲んだから早く治るというわけではありません。自然治癒を待つしかないことを医者は知っているのです。ただし対症療法として熱が上がれば解熱剤、のどの違和感には去痰(きょたん)剤など、症状に合わせて薬を飲むことはありますよ」

 風邪薬は症状を和らげることはできても、風邪そのものを治す効果はない。さらに総合感冒薬は咳(せき)、鼻水、痛みの緩和のために多くの成分が混合処方されており、すべての症状がない場合、不要な成分を取り込むことになってしまう。

 高齢者の場合は抗コリン作用のある成分により尿が出にくくなるリスクや、眼圧上昇や口の渇き、便秘などの副作用にも注意が必要だ。

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 またサリチル酸系解熱剤の成分はインフルエンザ脳症を悪化させるリスクがあり、疑いがある場合は特に控えたほうがよいだろう。

「これはもう絶対にダメ!というレベルですが、風邪のときに抗生物質も飲むべきではありません。風邪のほとんどがウイルス性疾患なので抗生物質が効かない。

 不必要に飲んでしまうと抗生剤が効かない耐性菌を増やすことにつながり、いざというときに耐性菌に侵されてしまうかもしれない。自己免疫でウイルスをやっつけられるのに、わざわざ敵に手の内を知らせているようなものです」

 ただし、二次感染として扁桃(へんとう)炎や、肺炎球菌によって肺炎になっている状態であれば抗生物質を処方することもあるという。

 いずれにしても世界的には耐性菌の問題から抗生物質の投与を控える傾向にあるが、日本ではいまだに気軽に用いる風習があり、北條先生は警鐘を鳴らしている。

薬理作用を謳う美容液の使用

 加齢によるシミやたるみなど肌の悩みは尽きないが、美容整形はまだまだハードルが高い。わらにもすがる思いで使う美容液も、悲しいことに劇的な効果は証明できないようだ。

「シワが薄くなる、たるみをなくす、リフトアップをするなんていう美容液は意味がありません。特に予防ではなくシミを取るなどと薬理効果を謳うものは、医師なら使わないでしょう。

 たとえ1日に1滴塗布するもので、1日あたりにかかる金額は数百円というものでも、20ccだと数万円になる。高価なものでも、金額に見合ったエビデンスはありません」

 表皮は体表面(外界と接している部分)から順に、「角質層」「顆粒層」「有棘(ゆうきょく)層」「基底層」と呼ばれる層に分けることができる。爪や毛髪同様、生命反応を完全に失ってしまった部分(切っても痛くもかゆくもない部分)が「角質」。

 薬機法では、化粧品が角質層より奥まで浸透すると謳うことを禁じていることからもわかるとおり、角質層より奥に成分を届け、肌の引き締めやたるみを改善するためには医療技術を用いる必要があるのが現状だ。

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食品を使ったスキンケア

 ヨーグルトパックで美肌になる、きゅうりパックで目元のむくみを取るなど食品を使ったスキンケアは古くから行われてきた。口に入れてもよい食品を使ったスキンケアは、添加物もなく安心な気がするが……。

「私が皮膚科に勤務していたとき、米ぬかや米麹、ヨーグルトやはちみつパック、ヘチマやアロエなど食品を使ったスキンケアで、肌トラブルになった方がわんさか訪れた。食べられるものだから肌に良いというのは大間違いです」

 オリーブオイルクレンジングなど食品成分が含まれた化粧品は不純物を除去して精製しているが、食品をそのまま肌に塗ると刺激になることが多い。

 前述のきゅうりにはソラレンという物質が含まれており、塗ったまま紫外線を浴びるとシミの原因になってしまう。

 さらに10年ほど前に健康被害が多発した“茶のしずく石鹸”では、製品に含有された小麦由来のタンパク質を肌から吸収し、もともとアレルギーのなかった人まで小麦アレルギーを発症した。このように食べ物を使ったスキンケアは食品アレルギーや重篤なアナフィラキシーショックを起こす危険もある。

北條元治先生●東海大学医学部非常勤講師、医学博士。信州大学医学部付属病院勤務を経て、ペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行う株式会社セルバンク設立。翌年には肌の再生医療専門のRDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を供与。現在も再生医療の普及に従事している。

北條元治先生●東海大学医学部非常勤講師、医学博士。信州大学医学部付属病院勤務を経て、ペンシルベニア大学医学部で培養皮膚を研究。2004年、細胞保管や再生医療技術支援を行う株式会社セルバンク設立。翌年には肌の再生医療専門のRDクリニック開設に際し、培養皮膚の特許を供与。現在も再生医療の普及に従事している。

 日々医学論文に目を通し、科学的に正しい根拠を示しながら健康や生活に関する情報を発信しているのが、柳澤綾子先生だ。親世代から受け継いできた生活の知恵のなかには、現代の知識で再検証すると正しくないことも多いという。

擦り傷、切り傷ですぐに患部を消毒

 転倒して擦り傷を作ったり、料理中に切り傷ができると、染みるのを我慢しながら消毒液を塗って化膿(かのう)を防いできたが、これは大きな間違いだそう。

「傷口をヨード系消毒液で消毒した場合と、生理食塩水で洗浄した場合の差を調べた実験では、確かに消毒液を使ったほうが傷口の細菌数は減少していました。

 しかし4日後に患部の細菌感染率を見てみると、消毒液を使った場合の感染率はなんと100%。それに対して、生理食塩水で洗った場合はまったく感染していませんでした」

 これは消毒液が傷を治すために必要な繊維芽細胞の増殖を抑制していたり、細菌と戦うために必要な白血球や、免疫機能を持つマクロファージにとっても悪影響を及ぼす可能性があるからだそう。

「ケガをしたときはまず砂利などの異物が入り込んでいないか確認し、傷口を生理食塩水で洗浄することが大切です。もちろん流水でも大丈夫なのですが、浸透圧の影響で生理食塩水が一番染みないんですよ」

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家でも分厚い靴下をはく

 多くの女性が悩まされる冷え性。春先にかけても足先が冷える、末端冷え性の人も多いだろう。分厚い靴下をはき、モコモコのボアがついたブーツで外出、帰宅しても靴下はそのまま……そんな人は注意が必要だ。

「冷え性を和らげるには血管を緩めて血流を改善すると良いのですが、締めつけのきつい靴下やブーツを履き続けると、逆に血流が阻害されてしまいます。

 さらに足裏は想像以上に発汗量があり、その汗が靴下の中で蒸発しきれず湿った状態が続くと、よりいっそう足が冷えてしまいます」

 冷えだけでなく衛生面にも問題がありそうだが、ではどうしたらよいのだろうか。

「帰宅したら靴下は脱ぎ、足首を締めつけないタイプのものにはき替えましょう。動脈が体表近くを走っている足首は、血流を妨げないことが重要です。おすすめは締めつけのないふわふわしたレッグウォーマー。通気性がよく、暖かいものがよいでしょう」

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お酒を飲まない休肝日を設定する

 家での晩酌や、友人や同僚との付き合いなどお酒の楽しみは尽きないもの。休肝日を設けて身体をリセットすれば、少しは健康に良い気もするが……。

「肝臓は栄養素を分解・合成する代謝機能、有害物質を排出する解毒作用、そして胆汁の生成・分泌を行うほかに、500種類以上もの仕事をしています。

 お酒を飲まないだけでは休まらないので、暴飲暴食をせず日々バランスのよい食事を心がけ、肝臓に負荷をかけないようにすることが大切です」

 では1日どのくらいなら、お酒を飲んでもよいのか。

「これまでの研究から、日本酒3合を毎日5年間飲み続けるとアルコール性肝障害になるといわれています。これはビールなら大瓶1本、ウイスキーならダブルを1杯、25度の焼酎なら0.6合、ワインならグラス2杯程度の量に相当します」

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貧血予防のための鉄分の多いひじき

 女性に多いといわれる貧血。めまいや疲れやすさの原因が実は鉄不足からくる貧血だったという話もよく聞く。

 そもそも貧血とは、鉄分から作られるヘモグロビンが不足している状態や、体内の貯蔵鉄であるフェリチンが不足した潜在性鉄欠乏症のこと。だからこそ昔から“鉄分が多いひじきを食べなさい”などと言われていた。

「文部科学省が発行する『日本食品標準成分表』2015年発行の改訂版で、以前は100gあたり55mgあったひじきの鉄分がなんと6.2mgになり、突然9分の1の値に激減したんです。その原因は製造方法にありました。

 そもそもひじき自体が鉄分豊富だったわけではなく、昔は鉄製の釜で作られていたのがステンレスにかわり、含有量に変化が起こったそう。同じ理由で切り干し大根も、ステンレス製カッターの普及で含有量が約3分の1に減りました」

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 ならば鉄不足にはどんな食材がよいのだろう。

「レバーや赤身肉、納豆や豆腐などの大豆加工食品、小松菜にアサリやシジミも良いですね。ひじきの例からもわかるとおり、調理の際に鉄鍋や鉄瓶を使ったり、お湯を沸かすときに鉄玉を入れるのも良いですよ」

睡眠周期に合わせ6時間の睡眠

 睡眠にはサイクルがあり、夢を見るレム睡眠と大脳を休めるノンレム睡眠が1.5時間周期で変動しているというのは周知の事実。

 忙しいときでも、眠りが浅いレム睡眠に切り替わるタイミングで起きれば、すっきりと目覚められるといわれているが、正しいのだろうか。

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「そもそも6時間では睡眠時間が足りません。アメリカ睡眠医学会発表の指針では、18~64歳は7~9時間、65歳以上は7~8時間を推奨しています。

 寝不足は記憶力の低下だけでなく、ホルモン分泌や自律神経にも悪影響を及ぼすんですよ。4時間睡眠を2日間続けると、食欲を抑えるレプチンの分泌が減少し、逆に食欲を高めるグレリンが高まります。

 慢性的な寝不足が続くと糖尿病や心筋梗塞、狭心症といった生活習慣病にかかりやすいことも研究でわかっています」

 当たり前に取り入れてきた健康習慣にも見直しが必要だ。

柳澤綾子先生●医師、医学博士。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員、国立国際医療研究センター元特任研究員。集中治療・麻酔科専門医指導医。年間500本以上の論文を読破し、著作本『身体を壊す健康法』では、世界中から有益な情報を見つけて解き明かしている。

柳澤綾子先生●医師、医学博士。東京大学医学系研究科公衆衛生学客員研究員、国立国際医療研究センター元特任研究員。集中治療・麻酔科専門医指導医。年間500本以上の論文を読破し、著作本『身体を壊す健康法』では、世界中から有益な情報を見つけて解き明かしている。

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取材・文/植田沙羅