Xで日々“毎食の二郎”の記録を投稿しているアカウント『直系二郎大好きマン』

《2023年全人類で最もラーメン二郎を多く喰った個体/2023年二郎747杯/2023年度二郎1000杯》

1日4杯、ラーメン二郎を食す男が独白

二郎を「地球上で一番旨い飲食物」と語る『直系二郎大好きマン』氏。1日10杯食べた際の『X』の投稿

 なんともアブラっぽいプロフィール。『X』にて日々 “毎食の二郎”の記録を投稿している『直系二郎大好きマン』氏のものだ。一般的に食事は1日3食。最近ではこれでも多いという意見もある。しかし、彼は3食どころではない。

「今年の現段階だと364杯です」

 取材開始早々、事もなげにそう話す。取材日は4月初旬。ひと月平均120杯以上、1日4杯程度『ラーメン二郎』を食べている計算だ。

『ラーメン二郎』。店自体は昭和の時代からあるが、近年その驚くべき麺と野菜の量、脂っぽさ、“呪文”と呼ばれる特殊な注文方法などで他のラーメンと一線を画し、大人気となっている。ラーメンではあるが、「ラーメンではなく二郎という食べ物」とも言われる、ジャンクフードの横綱ともいえる量・カロリーの食べ物……。

「今日はお昼の早めの時間に『小岩』に行きまして、そこから『京成大久保』っていう千葉県の店舗に移動して、そこで2杯食べまして。(取材場所まで)思ったより早く帰って来れたので『新宿小滝橋通り』に行ってきました」(『直系二郎大好きマン』氏、以下同)

 それぞれは港区・三田にある『三田本店』の支店。取材は17時より行ったが、その時点ですでに二郎を計4杯“キメて”現れた。この男性、何者なのか。

退社後に“二郎回り”

「現段階で'24年に食べた二郎で一番美味しかった」という3月21日の『ラーメン二郎桜台駅前店』。ちなみにメニューは『小ラーメン+生たまご+ネギ×2』、コールは『アブラ』(直系二郎大好きマン氏撮影)

「休みが平日になることもありますが、週休2日の普通の会社員です。'95年生まれの28歳。基本的には社内で仕事をしていて、合間の外に出られるときに食べに行ったり、日中に外に出られない日は退社後に“二郎回り”が始まって、そこから3杯くらい食べたり。早く退社できた日はそこから4〜5杯とか。夜10時までやってる店舗も複数あり、目黒店は夜11時までやってますし、『新宿歌舞伎町』は深夜2時半までやっているので。日々ローテーションで変えていけば夜からでも回れなくはないですね」

 まるで義務かのように二郎を複数回る日々。頼むのは基本的に『小豚(しょうぶた)』。一般的なラーメン店における“並盛りのチャーシュー麺”にあたるのだが、麺は普通のラーメン店の2倍以上となる300グラム程度から、豚はチャーシューというより“肉塊”と呼ぶべきものが乗る。

「今年の1月7日だったと思いますが、その日が10杯でこれまでの1日の最高ですね。『一之江』で2杯食べて、『めじろ台』で1杯、都内に戻って『桜台』。ここまでが昼なんですけど、夜は『藤沢』で2杯食べて、『関内』で2杯食べて。その後に都内に戻って『歌舞伎町』で2杯ですね」

 都内の端にある店舗からスタートし、都内を横断するように逆端の店舗へ。そこから神奈川へ。最後に都内の最も遅くまで営業している店舗へ。この日、単純に店舗移動だけで200キロ以上の移動距離……。目的は二郎を食すこと、以上。

「なぜ、それほどまでに二郎を食べるのか?」。彼に最も聞きたいことはここだ。この質問はいくつかの観点に分けて尋ねた。

「なぜ、それほどまでに二郎を食べるのか?」その1

 1日に複数杯も“二郎を食べたい”と思う欲求について──。

「二郎は今全部で44店舗あって、すべてが一緒の味だったらこんなにいろいろ行きたいと思わないんですけど、44店舗全部違います。最初は休みの日に遠くの店舗も含めて2、3店舗回って、平日は1杯とかだったんですけど、ただやっぱり1日に1杯1店舗だけだと何か物足りない、とまではいかないんですけど、いろんな店舗の味を知っておきたいというか……」

「何度も行かなくても、1回全店回ればそれぞれの店の味を知ったことになるでしょ」。そう思う人も少なくないだろう。しかし、ここに二郎の二郎たるゆえん、ハマる人はハマる中毒性のようなものがある。

「44店舗もありますし、店ごとに味も変わりますし、同じ店でもちょっとずつ変わってくる、変わる日がある。1日1杯しか食べないとしたら1か月30杯になってしまうので、それだと回りきれない店舗が当然出てきます」

 “変化”の確認は、突発的なメニュー、期間限定で出される特別メニューなども含まれるが……。

「ネットを見て、“なんか豚が変わった気がする”とか“麺が変わった”と言う人がいるんですよ。それを確かめに行きたい。またそういった変化を自分で気づくことも多い。“なんか前回と違うな”とか。それが“ブレ”のときもあれば、店側が明らかにちょっとずつ変えてきてるなとか。半年くらい行かなくても変わらないっていうのもあると思うんですけど、結構日々変わる店舗もあったりして。それを自分で気づきたいっていうのはありますね」

 二郎は大手チェーンのように明確なレシピを共有しているわけではないため、各店舗で味が異なる。また二郎のスープの主原料は豚骨そして豚肉になるが、それには当然個体差があり、意識的でも無意識的でも味は日々微妙に異なる。他の飲食店であれば、本店と支店で味が違うとなれば不満に思う人も多いだろうが、玄人のジロリアン(二郎愛好家)はその差を“ブレ”と捉え、それを含めて楽しむ人も少なくない。全店舗を回るスタンプラリーなど、とうの昔に終え、終わらない“日々の変化”のスタンプラリーを行っているといえる。

「評判では“違う”っていっても、自分が食べたら“そんなに変わらないな”ってときもあるし、やっぱり自分が食べてみてこそで、“百聞は一食にしかず”みたいな感じですよね。何も変えていなくてもブレるときもあると思いますし、明らかに変えてきているときもあるので、美味しいのはもちろん、それを知るのが楽しい」

 自分にとってあまり良しと思わない“ブレ”があったとしても、「それはそれで嬉しい(笑)。こういうときもあるんだ!という感じ」だという。某タレントは「白って200色あんねん」と言ったが、二郎も店ごとに44食。それどころか日々によってタイミングによって全然違う、という。

「なぜ、それほどまでに二郎を食べるのか?」その2

『小』でも300グラムという量の二郎。それを複数杯。それほど食べる胃袋について──。

初めて二郎を食べた高校生のときから、食べようと思えば2、3杯食べられたと思います。もともと量を食べられる体質だったんだと思います。そこから毎日食べるようになって、慣れなのか明らかに食べられる量が増えていきました。

 また、消化が早いのか、食べてから空腹になるのが他の人と比べて早いなと感じます。あと多少満腹感があってもまだ食べられるので、リミッターのようなものが人より多いのかもしれません」

「なぜ、それほどまでに二郎を食べるのか?」その3

 行列店ばかりの『二郎』を平日も複数杯。会社員であれば仕事があるはずだが、そんなに食べる時間があるのか?

「仕事がある日でも日中に外に出られる日は貴重な時間なので、“絶対回ろう”と隙を見て行ったりします。夜まで会社を出られない日は、しょうがないんでそこから……。また1日中会社を出られない日でも、出勤前に『三田』(朝8時開店)に行くという手があるので(笑)。あと昼休みに会社から行ける店舗もあるので、これで2杯食べれば、あとは夜1杯食べるだけというか。

 二郎の営業時間は全店完全に頭に入っています。中休みがある店舗が多いですが、通し営業の店もあるので、仕事中もずっと考えてます。“この時間帯、ここに行けるな”とか、今の時間は行列がすごいから避けたほうがいいなとか」

「なぜ、それほどまでに二郎を食べるのか?」その4

 大量の麺、そして脂、塩分……どう考えても身体には良いとは思えない食事だが、健康との兼ね合いについて──。

 ちなみに二郎“以外”のものは食べるのか?

「全体の9割、9割5分が二郎ですが、たまに食べますね」

 あくまで主食は二郎。

「一般的には健康によろしくなさそうなものを食べてるので、健康的なものを。夜中に納豆食べたりとか。人との会食のときとかはあまり炭水化物を食べないように……」

 日々の二郎×複数杯に対して、夜中の納豆。たまの糖質制限。焼け石に水どころか溶岩にスポイトで水を垂らした程度に思えるが……。

「体重維持をするために『16時間断食』を意識しています。もし毎日10杯とか食べていれば太ると思うんですけど、平均して1日3、4杯で、例えば前の日の夜に食べたら、次の日の日中は一切食べないようにすると、かなりの時間食べないことになります。それで体重を気合で戻している部分が大きいですね。空腹感はあるけど、今は身体のために大切なことをしていると思って。なので、今(の取材を受けている時間)は自分を食べている感じです(笑)」

 二郎は高カロリー食とあって、ファンはふくよかな人が多いと思われがちだが、行列に並んでいるのはそういった人が多いということはない。1日3、4杯食べている『直系二郎大好きマン』氏も中肉中背の一般的な男性の体形である。

「健康診断は異常ないですね。会社の健康診断もありますが、1年に1回だけだと不安なので、自主的にも受けに行くようになりました。そちらも問題ありませんでした。またなるべく運動はするようにしています。少しでも歩けるタイミングがあれば歩く。二郎を回るときもなるべく歩くようにします。多少の距離があっても二郎から自宅まで歩いたり。また基礎代謝が高くないと太ってしまうので筋トレも。不調が身体に表れるといったこともないですね」

 愚問すぎるかもしれないが、最後に二郎の魅力を尋ねた。

「やっぱり店舗によって全然違うところに魅力を感じていることが大きいですね。本当にそこに取り憑かれている感じ。二郎でしか得られない満足感、ほかで代替は利かないです」

 普通の人、また特に食に気を使っている人から見れば、異常にしか見えない食生活。糖質、脂質、塩分……そのすべてが過剰だろう。しかし、二郎を愛する者にとって“二郎でしか摂取できない栄養素”がきっとある。それを人は“中毒”と呼ぶのかもしれないが、健康を害すことなく自分の趣味をこれだけ愛することができるのであれば、それはきっと幸せだろう。

 取材を終え、『直系二郎大好きマン』氏と別れると彼は雑踏に消えた。今日もどこかの二郎に向かう。

 あなたも「ニンニク入れますか?」。