「今だったら考えられないね。毎回、突き飛ばしたり殴ったりのシーンがあり、必ずちゃぶ台をひっくり返しちゃうんだから、今ならテレビ局にすぐ抗議がきちゃうでしょ」

 開口一番、小林亜星は『寺内貫太郎一家』についてそう語った。“ガンコ親父”貫太郎とその家族、それを取り巻く人々の日常をコメディータッチに描き、『時間ですよ』『ありがとう』と並び’70 年代を代表する国民的ホームドラマと称された。

 平均視聴率は31・3%を記録した同ドラマだが、貫太郎を演じた音楽家の小林は、実はこのドラマが俳優デビューだった。

「話がきたときは、冗談じゃないよって思ったね。ただデブの役者がほしかっただけだと思います。なかなかデブの役者っていなかったからね。ほかの役者さんにも依頼したみたいだけど、みんな断られて僕のところにきたみたいです。そのころはTBSの仕事を何本かやっていて、お得意さんだから断れないし、だんだん追いつめられて、引き受けました」

 音楽とお芝居、同じ芸能界ではあるが、曲を作るのとセリフを覚えるのはまったく違う作業。小林はこのドラマのために長髪だった頭を丸刈りにして、メガネを黒縁タイプにした。それは脚本家の故・向田邦子さんの描く“寺内貫太郎”のイメージそのものだった。

 ケンカのシーンは演技ではあっても、お互いケガは絶えなかったという。実際に長男役の西城秀樹は投げ飛ばされて腕を骨折している。あれから40年、“貫太郎”は今の時代を嘆く。

「今は毎回暴力シーンのあるホームドラマなんてできっこないけど、最近のテレビはドラマもバラエティーも面白くないね。だから、テレビはあんまり見ないんですよ。僕が年をとっちゃったからかな。今の夫婦は夫が優しくて、妻の誕生日に花を買って帰ったりするけど、すぐに離婚しちゃうじゃないですか。貫太郎は花なんか買わないけど、別れることなんて頭にない人です。暴力もふるうけど、本当に奥さんのことを思っている人だよね。あのころは実際にそんなガンコ親父が残ってたね。今はあんまり面白い時代じゃなくなっちゃったね」