7年前のドラマ『昭和元禄落語心中』をミュージカルで舞台化した山崎育三郎 撮影/廣瀬靖士

「今から7年前にNHKのドラマ『昭和元禄落語心中』('18年)に出させていただきまして。いろんなドラマに携わらせていただいた中で最も苦しく、つらい思い出のほうが多い作品ではありましたが、作品自体が役者をその世界に誘い、引き上げてくれるエネルギーを持っていて、作品が自分を天才落語家・助六にしてくれるという感覚がありました。それは僕の中ですごく大きなことでした。“これを舞台にしたい”と思うようになりました」

 と、山崎育三郎。ドラマから7年。ついにミュージカル『昭和元禄落語心中』が2月28日に初日を迎える。

落語はとても音楽的。歌を歌うことと、とても似ている

 同じ日に7代目・有楽亭八雲に弟子入りしたふたりの少年。陽のオーラで人を魅了する破天荒で天才肌の助六(山崎育三郎)と、陰がありながらもまじめでひたむきな菊比古(古川雄大)。切磋琢磨の中で生まれる友情、羨望、執念、因果、人間の業……。落語の魅力とともに描き出す。

 落語とミュージカル。どこか対極のようにも思えるが、

「落語と歌を歌うことは、とても似ていると感じました。落語は時に早くしゃべったり、引いてみたり、声の強弱をつけたり。これがすごく音楽的で。歌も気持ちが途切れないように、細い糸をずっとつなげていくように歌っています。長く落語をしゃべっていると歌っているのと同じような感覚になる。だから、落語から歌への導入は自然にいくと感じました。実際に稽古に入って、それを実感しています」

 また、ブロードウェイのチームと一緒に仕事をすることの多い山崎は、“君たちは日本のミュージカルは作らないのか?”とよく聞かれてきたという。

「僕のミュージカルデビューは12歳。小椋佳さんにオーディションで選んでいただきました。小椋さんが日本オリジナルミュージカルを作るべく結成したチームで、そこでゼロからミュージカルを作る過程を見て僕は育って。それが自分の原点でもあります。いつかオリジナルミュージカルを日本でやりたい、それを海外にも持っていきたい。そんな夢をずっと持ってやってきまして、ようやくこの作品が夢の第一歩となりました」

ドキドキ&ワクワクを感じなくなったら多分この仕事を辞める

 本作は山崎と古川、明日海りおの3人で舞台をやる話が持ち上がり、山崎が熱い提案を演出家にしたことで実現したという。

ふたりには絶大な信頼感があります。やっぱり、大劇場の真ん中に主演として立つという孤独感や乗り越えるべき壁、苦しみ……すごく大きなものがあるんです。立った人にしかわからないものを、全員が経験している。背負っているものがふたりにもあるので、とても心強いです

山崎育三郎主演のミュージカル『昭和元禄落語心中』。共演は古川雄大と明日海りお 撮影/廣瀬靖士

 4月には6年ぶりのアルバムをリリースする。ドラマ、トーク番組のMCなど、テレビ出演も精力的。そして、舞台に途切れることなく立ち続ける。言わずと知れたミュージカルスターゆえに、『レ・ミゼラブル』『エリザベート』など人気作の再演であろうとも観客は十二分に喜ぶだろう。しかし、昨年の舞台『トッツィー』では女装を披露。そして本作。攻めの姿勢を崩さない。

「いちばん大事にしたいのは“自分がワクワクするかどうか”ですね。どんな仕事でも作品でも、そう。挑むときに、自分自身がいちばんドキドキ&ワクワクするものかどうか。それしかないですね。それを感じなくなったら多分辞めますね、この仕事を(笑)。そんな気持ちはお客様にやっぱり伝わると思うし。12歳のときの“うわ、ミュージカルって素敵だ!”と思ったあのワクワクを消したくないんですよ」

 大人の色気が漂う山崎だが、心はずっと少年のまま――。

30代のうちにやっておきたいこと

僕は元野球少年で野球が大好き。昨年は阪神タイガースと日本ハムファイターズの始球式&国歌斉唱をやらせていただきまして。きっかけは、イチローさんの引退試合だったんですけど。名前と背番号の入ったユニフォームも作っていただいて、それを自分の部屋に飾っています。30代のうちに、というのはさすがに難しいと思いますが(笑)、全球団制覇が目標。今2球団なので、今年も何球団か時間の許す限り伺いたいです!」

ミュージカル『昭和元禄落語心中』 【東京】2/28〜3/22、東急シアターオーブ 【大阪】3/29〜4/7、フェスティバルホール 【福岡】4/14〜23、福岡市民ホール・大ホール
https://rakugoshinju-musical.jp/

撮影/廣瀬靖士 着物スタイリング/森 由香利