老後おひとりさま女性に深刻さ増す困窮度(※画像はイメージです)

「一人暮らしの高齢女性の約2人に1人が貧困状態に陥っている。にもかかわらず、問題視する人はほとんどいない。社会から取り残された存在といわざるを得ません」

 こう語るのは、中高年シングル女性の自助グループ「わくわくシニアシングルズ」代表の大矢さよ子さん。2015年に同グループを立ち上げ、以来オンラインや対面で交流の場を企画して互いに支え合う活動を行っている。

「女は家庭に入るもの」そんな風潮のシワ寄せ

老後おひとりさま女性に深刻さ増す困窮度(画像提供/PIXTA)

 今年、後期高齢者の仲間入りをするという大矢さんも当事者の一人だ。結婚後、仕事と育児の両立が難しく、25歳から10年以上勤めた正社員の事務職を退職。40代前半で離婚してからはパート職を余儀なくされ、不安を感じて社労士などの資格を取り生計を立てた。そして65歳、受給した年金額の少なさに驚かされる─。こうした苦しい現実に直面したことが、当事者団体設立の原動力になったそう。

「今の60代、70代女性が現役のころは寿退社が一般的だったため、結婚したら会社員を諦めて専業主婦になる人が大半でした。再び働きに出ても家事育児を担うべく扶養内パートに就き、小遣い程度の稼ぎに甘んじていました。そんな状況下でさまざまな理由からシングルになり、老後を迎えた女性の生活が苦しくなるのは避けられないのに、支援の目が向けられていないんです」(大矢さん、以下同)

 2021年の国民生活実態調査をもとに社会福祉学専門の東京都立大学・阿部彩教授が分析したデータによると、65歳以上の高齢単身女性の貧困率は44%。同男性30%の1・5倍にのぼる。大矢さんいわく、この数字は母子家庭の貧困率とほぼ同率(厚生労働省調査)でありながら、母子家庭のように手当などないのが実情だ。一方、就職氷河期世代にあたる40代、50代の単身女性にも警鐘を鳴らす。

「中高年シングル女性は不安定な雇用がベースにあり、離婚・未婚の割合は約3人に1人と、昔より確実に多くなっています。10年後、20年後には老後貧困の急増をもたらし、自身もその一人となりかねないのです」

 では、高齢単身女性の貧困には、具体的にどのような問題が潜んでいるのか。まず指摘するのは雇用不安の弊害。

「前述のとおり、女性は結婚と同時に会社員を辞め、家庭に入るケースが多かった。再就職は容易ではなく、離婚がその道をより険しくします。結果、パートなど非正規雇用を強いられ、低収入から抜け出せなくなってしまうのです」

 この低収入が負の連鎖を引き起こす。老後の生活を支える貯蓄、年金に悪影響を及ぼすのだ。

「低収入だと貯蓄に回すお金を確保しづらくなります。日々の家計をやりくりするのに精いっぱいで、老後資金を貯められないわけです。年金についても現役のときの稼ぎを基準に受給額が計算されるため、低年収だと老後の低年金につながります」

重くのしかかる住居費補助も不十分で……

老後おひとりさま女性に深刻さ増す困窮度(※画像はイメージです)

 加えて、中高年期の単身女性に対する就労支援が行き届いていないのも見逃せない問題とのこと。

「例えば『教育訓練支援給付金制度』。同制度は失業時の資格取得費用を一部サポートするものですが、45歳未満を対象としています。資格を取得して再就職や収入アップにつなげたくても、年齢ではじかれる中高年シングル女性は利用できないのが現実です」

 一方、支出面では住まいの問題がネックに。賃貸住宅で一人暮らしをする高齢単身女性が苦境に陥っている。

「賃貸の住居費が家計に重くのしかかるからです。住居費を下げたくても、高齢になると賃貸住宅を借りられないケースもあるので簡単には引っ越せません。また、賃料の安い公営住宅に入れればいいですが、厳しい要件などで狭き門になっています。結局、仕方なく高い賃料を払い続けている人が多いんです」

 以上のように、雇用不安から低収入を招き、低収入を起点に低貯蓄、低年金へ。そこに重い住居費の支出が追い打ちをかけるという老後貧困の姿が見て取れる。

「私たちが行った中高年シングル女性の生活状況実態調査でも、その構図は色濃く表れていました」

 大矢さんがそう話す調査とは2016年と2022年に実施したもの。直近は中高年単身女性約2300人を対象とし、回答を得ている。

 調査結果によると、正規雇用に就く人は全体の半数に満たない。非正規雇用約4割、自営1割強のうち、半数以上が年収200万円未満。低収入の中、住居費の支払いを6割以上が重荷としている。そして65歳以上の高齢者219人の年金月額は10万円未満が54%にのぼり、生活の苦しさから4割強の人が70歳を超えても働いている。

「回答者は皆さん、将来に不安を感じています。『病気や介護が必要になったらどうするか』『仕事を続け、十分な賃金を得られるか』『低年金・低貯蓄で高齢期に生活できるのか』と。また、おひとりさまの難題として、病院や介護施設に入るときに求められる『身元保証人』の確保を心配する人も少なくありません。子育て世代には手厚い支援をしながら、中高年シングル女性の不安は解消しようとしない。調査結果を通じ、私たちが社会や政治に無視され続けていると実感しました」

一人なのは自己責任そう自分を責めないで

 国は何もしていないわけではない。2024年4月、困難女性支援法を施行。貧困やDVなど困難な問題を抱える女性への支援に関する同法に基づき、全国の自治体に環境整備を働きかけている。

「中高年シングル女性が安心できる“居場所”が必要。でも実現にはまだ時間がかかるでしょう。国に対しては老後貧困対策として、最低賃金のアップと家賃補助の強化を第一に強く求めたいです」 

 中高年シングル女性に特化した支援がないと同時に、特化した相談窓口も見られない。現状では各市区町村が設ける女性専門の相談窓口などの利用をすすめる。

「まずは不安の内容を整理することです。例えば賃貸住宅に住み、失業などで家賃が払えなくなるのが不安なら、住居確保給付金という制度が使える。病気になって働けなくなるのが不安なら、社会保険に入っていれば傷病手当金という制度が使える。不安を具体化し、解決できる制度をリサーチして知っておくことで安心できるでしょう」

 困窮し、不安を抱える当事者女性に向け、自分の努力が足りないなどと自己責任の考えに陥らないで、と大矢さん。

「シングル女性を排除したり、生きづらくしたりしている社会保障、国の制度のほうに問題があるわけですから。同じ境遇の人たちとつながり、支え合い、生き抜いていきたいと思います」

シングルシニア女性のリアルボイス

「生活に余裕なく、生きるのが不安」

「70歳を過ぎてがんが見つかり、今は仕事を辞めて療養しています。自宅で介護サービスを受けながら、孤独にこれからの人生のことを考える日々。今後治療費や介護費が尽きてしまったら、この家で一人這ってでも生きるのか……。正直不安ばかりの毎日です」(70代、A・Kさん 無職)

「ケガをして働けなくなったとき、生活保護の相談に行きましたが、話を聞いてもらえず、『ケガが治るまででも』と言ったら、『キャッシュカードで借金をして、治ったら返済すれば』と言われて驚いた。せめて話を聞いて、窓口や制度について教えてほしかった」(60代、M・Dさん 非正規職員)

「夫からのDV被害に長年悩み、離婚しました。生活保護をもらいながら母子家庭をなんとか卒業。50歳を過ぎたら一人で生計を立てられるようにしたいと思っていたのですが、なかなか雇ってくれる働き口が見つからず、保護生活から抜け出すことができません」(70代、О・Yさん 無職)

「うつ病で働けなかったころに借金をしてしまい、今は給料を各種支払いと返済に充てると手元にお金が残らない。手術をした右手に再発の兆候があるが、病院に行くお金がない。炊き出しに並びたいが電車賃がない。国費で全国におとな食堂をつくってほしい」(50代、Y・Sさん 非正規職員)

教えてくれたのは、大矢さよ子さん

大矢さよ子さん。中高年シングル女性の自助グループ「わくわくシニアシングルズ」代表。編著書に『シニアシングルズ 女たちの知恵と縁』(大月書店)がある。

1950年生まれ。中高年シングル女性の自助グループ「わくわくシニアシングルズ」代表。編著書に『シニアシングルズ 女たちの知恵と縁』(大月書店)がある。