
「万博で世界中から人がきた時、『日本って綺麗だな』と感じて貰いたいと想い、そうした街づくりには一人一人のマナー向上に加えて、『SMOKING DOWN』のような喫煙所が必要であることを実感しました」(朝倉未来のコメント)
4月1日、格闘家の朝倉未来が代表を務める会社が、大阪市北区曽根崎に喫煙所『SMOKING DOWN』をオープンした。
喧嘩自慢から現役のプロまで出場する、朝倉が仕掛けた大人気の格闘イベント『Breaking Down』を意識したネーミングであり、プレスリリースでは、吉村洋文大阪府知事と横山英幸大阪市長もオープン祝いと感謝のコメントを寄せた。

路上だけでなく4月からは飲食店でもさらなる喫煙規制が
しかし、華やかな話題の影で大阪の分煙事情は、かなりお寒い状況にあると言って良い。
現在、開催中の大阪・関西万博も何かと物議を醸しているが、この万博を見据えて、大阪市は今年1月27日より市内全域を路上喫煙禁止とした。
それまで路上喫煙禁止地区は御堂筋、大阪市役所周辺などの6か所だったが、大阪市内全域の市が管理する「道路・広場・公園その他公共の場所」での喫煙が禁止された。路上喫煙防止指導員が巡回し、路上喫煙を行った場合は1,000円の過料徴収の対象となる。
また、4月1日より、大阪府受動喫煙防止条例が完全施行となり、府下の客席面積が30平方メートル超の飲食店も原則屋内禁煙、罰則として5万円以下の過料が課されるようになった。健康増進法では客席面積100平方メートル超は原則屋内禁煙、100平方メートル以下は経過措置として喫煙か禁煙を選択できるようになっていたが、この府条例では100平方メートル以下、30平方メートル超も原則屋内禁煙となる。喫煙もしくは禁煙を選択できるのは30平方メートル以下の店のみとなった(詳細はこちら)。
それによって何が起きているのだろうか、例えば堂島公園内の公衆喫煙所は、そのエリア唯一の喫煙所ということもあり、昼休み時間帯は大変混雑し、大阪市職員も多く見られるという。混雑する喫煙所にあぶれたスモーカーたちが喫煙所周辺で喫煙、また、コインパーキングの敷地など条例の及ばない場所での喫煙も後を絶たないという。
現在習慣的に喫煙している人は国民全体で15.7%、さらに働き盛りの年代、30〜49歳の男性に至っては30%強となる(2023年、厚労省国民健康・栄養調査)。その人たちの居場所を急激に減らす施策であることは確かだ。
用意された喫煙所のうち4割はパチンコ店、喫煙所「空白地帯」も
ただし、大阪市は「路上喫煙全面禁止」に対する手当として、スモーカーたちの「受け皿」となる喫煙所の整備には取り組んでいた。市は、昼間人口308万7000人のうち喫煙者は63万人と推計し、その中で路上・公園等でよく喫煙するとアンケート回答した喫煙者の割合を踏まえると、約13万5000人が利用できる喫煙所数として120か所、さらに万博開催による観光客の増を見込んで民間の既存喫煙所の改修による一般開放20か所、計140か所という設置目標値を定め、喫煙所の整備に取り組んでいたのだ。

そして、“Xデー”となる1月27日に一体いくつの喫煙所を整備したのだろうか。
「1月27日時点で公設の指定喫煙所が51か所、補助制度を活用した民間の指定喫煙所が119カ所で合計170か所。さらに以前から設置されていた公設の指定喫煙所が7か所、民間の指定喫煙所を無償で一般開放したところが123か所あり、合わせて300か所。また、喫煙可能な飲食店や商業施設など情報提供喫煙所(※注)13か所を含めると全体で313か所の喫煙所を整備したと公表しました。2月27日の大阪市議会における横山市長の答弁によると、2月17日時点で350か所になったとのことです」(同府政担当記者)
※注…大阪市指定喫煙所以外でも、関係法令等を遵守した喫煙が可能な場所(飲食店や商業施設など)の情報を市に登録することにより市の公式サイトに情報を公開していくというもの。詳しくはこちら。
140か所を目標に掲げて結果は350か所。数字だけみれば上出来だったと言える。ただし、実態は“カラクリ”あり、あるいは“数字のトリック”といえるものだったという。
「何しろ4割にあたる140か所がパチンコ店であり、1施設、1店舗で複数の喫煙所を登録している箇所もあります。中には1店で7か所も登録しているパチンコ店も。また、登録箇所には偏りがあり、喫煙所が見られない“空白地帯”もいくつか。御堂筋や堺筋といった大阪を代表するオフィス街周辺も空白地帯となっているのです。浪速区など公設喫煙所がない区もありますし、カーディーラーの中など、誰でも利用できるわけではない施設もカウントされているのです」(同府政担当記者)
こういった実態には当然「数字稼ぎ」という声が上がっているが、横山市長は会見でこう述べている。
「数字をごまかしているつもりはなくて、提供いただいている箇所数を公表しているだけ。適切な場所に適切に配置できるように対策を進めていきたい」

大阪市のJR福島駅は1日の乗車人員約2万7千人だが、ちょうど喫煙所「空白地帯」にある。同駅付近の住民によると、
「路上喫煙が多いのは以前からですが、吸い殻のポイ捨てがひどいです。4月に飲食店が禁煙になってからは今度は夜の路上喫煙者が増えました」
それだけではない。先に、大阪府受動喫煙防止条例の完全施行で客席面積100平方メートル以下、30平方メートル超の店も原則屋内禁煙になったと述べたが、これによって新たに4000店舗ほどが原則屋内禁煙の対象になったと見られている。
飲食店への助成制度は煩雑な上、踏み込みが不十分
もちろん、飲食店が全面禁煙化、あるいは喫煙専用室を設置する際の補助金制度はあった。
とりわけ「喫煙専用室設置」の場合は上限額300万円に対する一部補助があるが、国の助成100万円と合わせたものなので、大阪府としては最大125万円しか補助をしない。
「ただし、補助率は4分の3で飲食店の持ち出しがある上、手続きも国の審査に通った後、さらに府に申請が必要で、府のプロセスも約3か月はかかるという煩雑さで、2024年度単体で575件の飲食店が利用意思を表明したものの、同年度内に対策がなされたのは半分以下の211件だったそうです」(同府政担当記者)
喫煙者や煙を気にしない人を相手に商売している飲食店にとっては死活問題だ。在阪テレビ局の報道では、条例を見据え店内を禁煙にした店では売上が3割減ったという例もあるという。また、専用室を設置するにしても客席をつぶさなければならないケースも多々だ。
飲食店から閉め出されたスモーカーは当然屋外に喫煙所を求めるわけだが、屋外喫煙所の整備補助も十分なものではない。
「大阪府は、2025年4月1日から公衆喫煙所を設置する民間事業者に対する補助制度を新設しました。新たに喫煙所を整備する場合は、屋内喫煙所1施設当たり300万円、屋外喫煙所1施設当たり700万円を上限として設置経費の50%を助成するというもの。こちらについても一見踏み込んだ助成に見えますが、“ランニングコストや賃料の補助はないのでわざわざ喫煙所にするメリットがないのではないか”という声がありました」(同府政担当記者)
確かに、東京都千代田区の「公衆喫煙所設置助成事業」では、新規の設置経費については700万円を上限に、5年経過後の更新経費として300万円を上限(いずれも助成率100%)に助成金を出すだけでなく、設置後も賃料または賃料相当額の10割と諸経費の8割を合わせて年間264万円を上限に補助するというもの。賃料まで出すということで、店舗の一部を喫煙所に改装するという自営業者も出てきているのではないか。そちらに比べると踏み込みが足りないという印象は否めない。
そんな中、大阪市の1月27日の路上喫煙全面禁止以後、“破綻”する分煙事情を象徴するような「陳情」が市民から上がり、3月21日、大阪市議会が紛糾する場面があった。後編では、その陳情についての市議会の質疑と、さらに深まった分煙問題について取り上げていきたい。