
「(路上喫煙禁止が)市内全域に拡大されてから、最近では勤務地周辺のコインパーキングで喫煙している方も多く見かける様になりました」
「(堂島公園の公衆喫煙所は)昼休み時間帯は、待ち時間もあり大変混雑しており、市の職員の方も多く見受けられます」
こちらは、ある大阪市民が市議会に寄せた陳情の冒頭部分である。
1月27日、大阪市全域が路上喫煙禁止となり起きたことは「喫煙難民」の大量発生と数少ない喫煙所の「大渋滞」だった。
大阪市は350か所の喫煙所を用意したと胸を張ったが…
前編では、格闘家・朝倉未来の会社が喫煙所を設置したことを紹介したが、その陰で大阪市の分煙事情がお粗末な状況にあることをお伝えした。

まず路上喫煙全面禁止に際して大阪市は目標数140か所を大幅に上回る喫煙所約350か所を用意したものの、この約4割がパチンコ店であり、1施設で複数登録している場所もあるのだ。また登録場所には偏りがあり、喫煙所“空白地帯”が生じているなど、これはまさに「数字のトリック」といえるものだった。
また、4月1日大阪府受動喫煙防止条例が完全施行となり、30平方メートル超の飲食店も原則屋内禁煙となったものの(詳しくはこちら)、店へのバックアップも不十分で、「喫煙専用室設置」のための補助金は申請が煩雑な上、かかったお金の4分の3の助成にとどまっていたこともお伝えした。
現在習慣的に喫煙している人は国民全体で15.7%、さらに働き盛りの年代、30〜49歳の男性に至っては30%強となる(2023年、厚労省国民健康・栄養調査)。彼、彼女らの「休息場所」を一気に減らすからにはそれなりの対応が必要だ。
そんな中、冒頭のような陳情が市議会に提出された。要望としては、「大阪市庁舎や各区役所の敷地内に、市民がいつでも無償で利用できる公衆喫煙所を設置していただきたい」というものだった。
3月21日、それに対する質疑が大阪市議会で行われたのだが、内容は驚くべきものだった。

「結論から述べると、大阪市は喫煙所の設置を拒みました。その理由は、大阪府受動喫煙防止条例において、“第1種施設の管理権原者は特定屋外喫煙場所を定めないよう努めなければならない”とされているからだそうです」(大阪市在住ジャーナリスト)
第1種施設とは、健康増進法で定められた学校、各種養成施設、病院、診療所、助産所、薬局、施術所、介護老人保健施設、介護医療院、行政機関の庁舎などのこと。
市役所は行政機関の庁舎で第1種施設にあたるので府条例の努力義務を踏まえ設置しないのだという。
「努力義務」ながら条例を盾に敷地内への喫煙所設置を拒む大阪市
しかしながらその健康増進法では、第1種施設においても「屋外において受動喫煙を防止するための必要な措置が講じられた特定屋外喫煙場所を定めることができる」とされているのである。
思わぬところで生じた、国の法律(健康増進法)へ上乗せ条例(大阪府受動喫煙防止条例)した結果、自分たちの首を絞める形となった。
「質疑では、大阪府受動喫煙防止条例の『第1種施設の管理権原者は特定屋外喫煙場所を定めないよう努めなければならない』という規定はあくまで努力義務だと市側は答弁しています」(同ジャーナリスト)
努力義務であれば、市民の切実な陳情に際し、市役所敷地内に喫煙所設置は可能ではないのか!? 自民党の木下吉信市議が市側にこう迫る。
「努力義務であれば大阪市でも設置していただくことは不可能ではない、可能だと思いますので、ぜひともその設置に向けてご検討いただきたいと思いますけれども、いかがですか?」
そして市側の答弁はこうだ。
「お答えいたします。府条例におきまして、第1種施設には特定屋外喫煙場所を設置しないよう努めなければならないとされていることから、設置していないものでございます」
市側はその後も「第1種施設には特定屋外喫煙場所を設置しないよう努めなければならないとされていることから、設置していない」という答弁を繰り返し、木下市議は「レコードが行ったり来たりしているような、そんな質疑になってます」と呆れるが、続けてとっておきの“ネタ”を放出した。
「府庁のね、別館の駐車場のところ、それから議会棟の前、ここにね、実は喫煙所が設置されているんですよ。 大阪府条例の制定の本丸である大阪府庁なんです。(中略)管理権原者として大阪府は努力してくれへんのですか?どういうことなんですか?説明してください」

なんのことはない、条例を定めたはずの大阪府は柔軟な対応を行い、2か所の喫煙所を設置しているのだという。
これに対し市側は「大阪府庁舎には府条例制定前から周辺に2か所喫煙所が設置されていることは認識しております」としながらも、「当該喫煙所は第1種施設である府庁舎の敷地ではない場所に設置されている」と答弁。つまり第1種施設ではないのでセーフという理屈だ。ただしそこは「大阪府が管理している所有地」であるのは確かなのだという。
続けて木下市議は、「大阪府下の衛星都市の市会議員にいろいろ聞いたら、市役所の来庁者用駐車場に喫煙所を作って職員も市民も利用してますよ。 こんな市町村、役所がいっぱいある。全部調べたわけではありませんが、私が調べた範囲で43、府下の市町村の1/3以上の役所で、屋外の喫煙所を設置してしている」と指摘し、改めて「(市庁舎への喫煙所)設置の検討をしていただけませんか?」と問いただした。
しかし、市側は「府条例におきまして、第1種施設には特定屋外喫煙場所を設置しないよう努めなければならないとされていることから、現在設置の予定はございません」と従来の見解を繰り返すのだった。
大阪府「庁舎敷地外であれば各自治体判断で喫煙所は設置可能」
週刊女性PRIMEは木下市議が指摘した府庁舎の喫煙所について、大阪府に、【1】「府庁舎に喫煙所が設置できた背景をお教えいただけますでしょうか」【2】「自治体管理地における喫煙所設置は可能でしょうか」との質問を投げかけた。
まず【1】については、
「大阪府では、平成20年(2008年)から庁舎敷地内を終日禁煙とし、平成22年(2010年)からは庁舎周辺での喫煙自粛を呼びかけてきたが、大手前庁舎周辺における路上喫煙に対して苦情があったことから、庁舎敷地内終日禁煙の方針を堅持しつつ、大手前庁舎周辺における受動喫煙防止をより一層進めるために、庁舎敷地外の府管理地に喫煙スペースを設置したものです」
そして、【2】については、「庁舎敷地外であれば健康増進法にも大阪府受動喫煙防止条例の努力義務にも抵触しないので各自治体の判断で喫煙所の設置は可能です」とコメントした。
第1種施設は避けることになろうが、それ以外なら自治体管理地での喫煙所設置は可能なのである。
大阪市は世界一厳しいといわれる喫煙規制を敷く一方で、喫煙所設置へのこの消極性である。週刊女性PRIMEでは、東海大学名誉教授で、神奈川県「たばこ対策推進検討会」座長の玉巻弘光さんにこの度の一連の大阪市の対応について見解を聞いた。
「大阪府条例に喫煙場所設置に関する努力義務としての禁止条項があるとしても、大阪市内公道すべてを禁煙とするというドラスティックな規制を新たに導入する以上、そのような市規制がなかった時期に制定された府条例を根拠に喫煙場所設置を拒むということは不合理でしょう。公道禁煙にするのであれば、代替措置として喫煙場所を十分に設ける必要があります」
さらに、玉巻さんは、市の姿勢に別の方向性からも問題点を提起する。令和6年度に大阪市は約308億円の市たばこ税収入を得ているのだ。これは47都道府県の県庁所在地の中で最多である。
「市のたばこ税収を考えると、整備する気になるかならないかだけでやろうと思えばできる。大阪市は東京23区と比べ小さな公園が少なく、そういう意味では土地の手当が難しいのかもしれません。しかし区役所の敷地、公民館などの行政財産の敷地は随所にあるので、そのような場所に整備することはできるはず。路上もダメ、そして庁舎敷地内もダメ、これでは300億払っている人への道理が通らないでしょう」
あの飛田新地も公費に頼らず喫煙所を設置していた
実は、朝倉未来の会社が喫煙所をオープンした12日後、あの有名な歓楽地「飛田新地」(大阪市西成区)でも喫煙所がオープンしていた。飛田新地料飲組合が私費で設置したものである。これまでは利用客用の灰皿を設置していたが、路上喫煙全面禁止後、路上喫煙にあたることがわかり、開設に踏み切ったものだという。

消極的な行政をよそに、しびれを切らして喫煙所を置く民間。大阪市は『府条例があるからできない』ではなく、どうすれば足元の市庁舎や区庁舎近辺の喫煙所不足の問題を解決できるかを考え、設置していくことが自分たちが作った条例記載の“市の責務”を果たすということではないだろうか。万博会場では当初禁煙としていた会場内に、新たに喫煙所を設置する判断をしたという。ピーク時の来場者が20万人を超える大型イベントなだけに妥当な判断だろう。こうした実態に沿った臨機応変な対応を行政にも望みたい