酸味とみずみずしさが際立った初代のヨーグルト。食べ比べることで、同じヨーグルトなのに歴然とした違いが

 5月15日は「ヨーグルトの日」。ヨーグルトの健康効果を広めたウクライナの免疫学者、イリヤ・メチニコフ博士の誕生日とのこと。

 日本人の健康志向の高まりなどを受けて、いまや日々の食生活に欠かせないヨーグルト。市場には、機能性を謳うものから濃厚なギリシャヨーグルト、デザート感覚のスイーツ系など、さまざまなタイプが数多く出回っている。中でもプレーンヨーグルトは、カロリーが控えめでヘルシー。そのまま食べるのはもちろん、料理にも応用したりと消費者からの需要も高い。

ヨーグルト発売の経緯

 ところで、日本で最初に発売されたプレーンヨーグルトは、55年前の大阪万博(日本万国博覧会)が契機となって生まれたことをご存知だろうか。

「それまでのヨーグルトは、大正6年(1917年)に発売された『チチヤスヨーグルト』に代表されるように、甘みや香り、ゼラチンなどが入った加糖タイプが主流でした。それが、1970年に開催された大阪万博のブルガリア館で提供されていたヨーグルトを、明治乳業(当時)の社員の方が試食して、“ぜんぜん違う!”と感動したことがプレーンヨーグルト誕生のきっかけになったといいます」

 そう教えてくれたのは、ヨーグルトをこよなく愛し、ヨーグルトに関する著作もあるヨーグルトマニアとして有名な向井智香さん。

 ちなみに、ブルガリア館には昭和天皇も訪問され、試食をされている。その翌日、宮内庁からブルガリア館に「ヨーグルトをとても気に入られたので再訪したい」と連絡があり、その後、現在の上皇ご夫妻や当時10歳だった天皇陛下もヨーグルトを召し上がったというエピソードも残っている。

 “本場の味を再現したい”という職員の思いから、メーカーでは持ち帰ったサンプルを研究し、試作を重ね、何度もブルガリアに足を運び、1年後に日本初のプレーンヨーグルトとして『明治プレーンヨーグルト』を発売。その後、ブルガリアの国名使用許可を得て、1973年に『明治ブルガリアヨーグルト』に名称を変更している。

食べ比べるとぜんぜん違うそのお味

 発売から50年以上、現在までに何度もリニューアルを繰り返し、少しずつバージョンアップしている『明治ブルガリアヨーグルト』。実は本社のブランド担当者でさえ当時のヨーグルトを食べたことがなく、“ぜひ食べてみたい!”と通常の工場ラインではなく、特別に研究所に小ロットで再現してもらったという。

 そこで週刊女性PRIMEでは3200種以上のヨーグルトを食べてきたマニアである向井さんに、54年前と現在のヨーグルトを食べ比べてもらい、気になる味の違いを教えてもらった。

『明治ブルガリアヨーグルト』といえば、比較的酸味が強いイメージがあるヨーグルト。初代の発売当時も、「牛乳が腐ってる!」「酸っぱい」などのクレームが入ったこともあったそうだが、果たして……。

「やっぱり酸味はしっかりありますね! 舌いっぱいに、端から端まで酸味が広がる感じがあります」

 と、ひと口めから酸っぱさにやや驚いた表情を見せる向井さん。

『明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン』(左)と1973年発売の『明治ブルガリアヨーグルト』のパッケージ

「ただ、お酢のようなキツい酸味とか、むせたりチクチクするような酸っぱさではなくて、柑橘系に近いフルーティで爽やかな酸味です。昔は、シュガーが付いていたので、入れないと食べられないくらいキツイのかなと思っていましたが、好きな酸味でした」

 食感の違いはどうだろう。

「口当たりも、想像していたよりもザラつきやごろつきもなく、なめらかでクリーミーです。酸味のせいか軽くて爽やかでみずみずしさがあります」

 普段、通常の『明治ブルガリアヨーグルト』もよく食べているという向井さん。改めてこちらも食べてもらうと……。

「あれ、ぜんぜん違う! 食べ比べたら、比べ物にならないくらいキメが細かくてザラつきも一切ないです。スプーンですくうとちゃんと固形なのに、口に入れるとすっと溶けていくんです。味は、酸味はあるけれどミルクの甘みがフワッと広がって、リッチなミルクの味がしっかり味わえます。さらに酸味がそれを引き締める感じがあります」

たとえるならばガラケーとスマホ?

 新旧を食べ比べて改めて感想を聞いてみると――。

「例えると、昔のガラケーで撮った写真と今のスマホで撮った写真くらい、ビックリするほど違いがあって驚きました。日本人は酸味が苦手な人が多い印象なので、現在のもののほうが万人受けする気はしますが、ヨーグルトらしさのアイデンティティとして、酸味や爽やかさを残しているところが明治さんだなと思いました。

 初代のほうはより酸味が際立っていますが、これがたまらない! という方も一定数いると思います。発売の予定があるならば、私はその日の気分で、新旧どちらも味わいたいです。料理に使ったらどうなるのかも気になります」

 残念ながら今のところ再現商品の発売の予定はないようだが、今回の食べ比べを通して、メーカーのプレーンヨーグルトへの愛を感じた、と向井さん。

「『明治ブルガリアヨーグルト』は、単にフレイバーなど原料の“足し引き”で変化を出すのではなく、菌の種類や発酵時間、ミルクの殺菌温度や脂肪球の細かさを変えるなどといったマニアックな改良を重ねているんです。細かな調整で元々のポテンシャルを引き出して進化させて、プレーンヨーグルトの歴史を作っているのはすごいなと思います」

 普段、何げなく食べているヨーグルトにも、知られざる歴史や、メーカーの人々のたゆまぬ熱意や努力が隠れている。年に1度の記念日に、そんな背景に思いを巡らせてみるのもいいかもしれない。

向井智香さん●ヨーグルトマニア。2011年にギリシャヨーグルトを食べたことをきっかけにヨーグルトの魅力にハマり、現在は毎日1kg以上のヨーグルトを食べ、SNSで味の感想をはじめ商品レビューを発信。一般社団法人ヨグネット代表理事。著書に『ヨーグルトの本』(エムディーエヌコーポレーション)が。

お話を伺ったのは……向井智香さん●ヨーグルトマニア。2011年にギリシャヨーグルトを食べたことをきっかけにヨーグルトの魅力にハマり、現在は毎日1kg以上のヨーグルトを食べ、SNSで味の感想をはじめ商品レビューを発信。一般社団法人ヨグネット代表理事。著書に『ヨーグルトの本』(エムディーエヌコーポレーション)が。


撮影/佐藤靖彦(向井さん) 取材・文/荒木睦美 写真協力/株式会社 明治(ヨーグルト)