
満席の大ホールやアリーナでライブを行う─。一流ミュージシャンにとって、これまで当たり前だったライブという「仕事」が、何やら簡単にはできない世の中になってきているようだ。
音楽シーンの環境が変化
1月からツアーで全国を回っている三浦大知が、4月30日と5月1日に行うライブに触れながら、
《全公演チケット半分余っています》
と、ファンに対して切実な呼びかけをインスタグラムでライブ配信したことがニュースに。また、いきものがかりの水野良樹が自身のXアカウントを削除する理由で、
《15年やったんで、もういいだろって感じ》
と理由をつぶやいたが、
《ツアーのチケットの売れ行きがヤバくて頑張らなきゃいけないこのタイミングでってのが、われながら間が悪すぎる》
とも投稿。ライブ活動の窮状を吐露したのだ。三浦やいきものがかりといえば、『紅白歌合戦』にも複数回出場している、いわば“売れっ子”の人気ミュージシャン。そんな存在でも、チケットが売れないのはなぜなのだろうか。
「現在の音楽シーンの環境が変わってきているんです」
こう話すのは、ライブの制作に携わるイベンター関係者。
ライブをすることの意味
「三浦さんのツアーだと、アリーナ4公演のチケットは1万1000円。6月から始まる、いきものがかりの全国4都市ツアーは9600円と、ほぼ1万円です。以前は邦楽アーティストなら7000~8000円ほどでしたが、軒並み価格が上がっています。
1公演だけを見に行くというのならまだ問題はないのですが、何か所も追っかけていくファンにとっては、手痛い出費になります。そこまでコアなファンでないのなら、YouTubeなどで無料でMVやライブ映像を見ることができます。言ってしまえば、音楽を聴くことにお金を払うという文化が薄れてきているんです」(同・関係者、以下同)
ミュージシャンにとってもライブをすることの意味が変わってきているという。
「以前はCDを発売したタイミングでツアーを組んで、ファンに聴いてもらい、CDを売り上げていくというのが普通でした。そういう意味でライブは、プロモーション的な立ち位置でした」

しかし、配信が中心になってきた今、CDはほとんど売れなくなった。
「実はライブというのはミュージシャンにとって身入りのいい仕事ではないんです。1万人以上を集めるアリーナ公演でも、ステージを組む経費などで下手をすれば利益がなく赤字になる場合も。特にツアーなどで地方を回ると、移動費や人件費といった諸々の経費がかさみます。以前はその赤字もCDの売り上げでカバーできましたが、今やそれも見込めない。よほどのミュージシャンでなければ、ライブだけで収益を上げることは難しいんです」
そんな状況でライブを行うメリットはあるのだろうか?
「収益を上げるのは、ライブ会場で販売しているグッズ関係です。CDが売れない穴をこれで埋めているんです」
チケットの高額化、音楽シーンの変化……。一流ミュージシャンでも集客に困る現状を見ていると、ミリオンセラーを出せば夢の印税生活というのも、今は昔の話となったようだ。
取材・文/蒔田稔