※写真はイメージです

 コメの値上がりが止まらない。

 農林水産省の発表によると、4月21~27日に全国のスーパーで販売されたコメの平均価格は5キロ4233円で、17週連続で過去最高値を記録した。これは前年と比べると2倍超の価格にあたり、日々の食卓は大打撃。

 18週目には値下げに転じたが、その額はマイナス19円という微々たるもの。そんな中で5キロ5000円の店も出現するなど、コメはもはや高級品となった感がある。

“令和のコメ&卵騒動”

 値上がりの原因は、昨年の猛暑によるコメ不足の影響といわれるが──。

猛暑だけがこの価格高騰の原因だとするのは説明がつかない」と言うのは、経済アナリストの森永康平氏。ここ最近は毎年のように猛暑が続き、昨年が特別だったというわけではない、と指摘する。

 では、今なぜここまで高騰しているのだろう。

「コメの高騰にはいくつかの要因がある」(森永氏、以下同)

 そのひとつが、「需要と供給の管理の厳しさ」だとしてこう続ける。

日本は長い間減反政策に取り組んできました。2018年に廃止されましたが、その後も実質的には生産調整を行っていた。供給を非常にタイトに管理していて、その一方でコメの需要が上がった

 需要増の背景にあるのが、インバウンドの急増だ。訪日外国人観光客は昨年過去最多を記録し、これによりコメの需要が一気に高まった。

「農林水産省のまとめによれば、コメ不足が話題となった昨年6月末時点のコメの民間在庫量は、前年同月比で41万トン少ない156万トンとなり、比較可能な'99年以降で最も少なかった。

 例年は新米が出るまでの1年分の在庫を持つ運用だが、昨年は在庫不足のために新米を通常より早い時期から消費せざるを得なかった

 もうひとつの価格高騰の要因に「投機的な動き」を挙げる。

「価格高騰を見越して業者がタイミングを計る動きがあり、これが作用した。近年はJAを通さずネットなどで直接販売する生産者や業者も増え、出し控えが価格に反映された」

 コメ不足対策として、政府は備蓄米の放出を決定。3月から順次放出し、「ブレンド米」として販売をスタートしている。しかし店頭にはなかなか並ばず、消費者の手にはほとんど届いていないというのが実情だ。

「流通が遅れている。政府がこれまで放出した備蓄米は21万トンですが、実際に4月中旬の時点で卸売りに引き渡されたのは約2万トン。1割ほどしか出回っていない。これでは店頭に並ばない」

 店頭には「入荷待ち」の張り紙が続き、在庫があっても「一家族一袋まで」と購入制限する店も少なくない。消費者の焦りは募るばかりだ。

1970年代のオイルショックと同じパターンで、消費者が買いだめに走っている。確かに足りないのは事実ではありますが、店頭で見つけたら今すぐ買っておかなければいけない、という心理が働いている。結果的に店頭のコメがまた品薄になる、という悪循環が起こってきている」

 コメ不足は深刻化し、果てはコメの盗難騒ぎまで頻発する事態に。ついに江藤拓農林水産大臣が「備蓄米を出しても店頭価格が下がらない。責任を重く感じている」と謝罪。しかしこれも「謝罪より米よこせ!」と、SNS炎上の火種となった。

備蓄米の放出でも価格高騰のワケ

※写真はイメージです

 待望の備蓄米も、期待するほど安価にはならない、と森永氏は言及する。

備蓄米にしても、競争入札方式になってしまっている。高く提示した人が買える仕組みですから、結果的に安価なコメがたくさん流れてくるということにはならない。備蓄米の放出によって供給が増え、大幅に価格が下がるだろうと期待するところではあるけれど、そうとは限らない

 コメ不足は消費者はもちろん、各種企業も打撃。セブンーイレブン、ローソン、ファミリーマートの大手コンビニエンスストア3社は、おにぎりの値上げに踏み切った。

「ただ値上げはなるべく抑えようと努力はしています。小売業の動きを見ていても、コメのかわりに麺やパンなどに移行している。

 お弁当はご飯プラス麺のセットにすることで価格を据え置きにしたり、おにぎりにしても、海苔(のり)を減らしたり、海苔なしのおにぎりにすることでご飯の量を変えずに値上げを防いだりと、各社工夫を凝らしていますね」

 備蓄米放出の効果はまだ薄い。今後の政府の動きは?

「アメリカとの関税交渉で、アメリカからコメの輸入を増やすという話もあります。ただ難しいのが、あまり輸入に頼ると、今度は国内のコメ農家にしわ寄せが来てしまう。それにアメリカと仲がいい間はいいけれど、もし関係が悪化して、日本に輸出しないとなったらどうなるか。

 いろいろリスクがあるので、海外から輸入するにしても、国内の農家への所得補償など、対策をしないといけない。そう考えると、政府が今できることはほとんどないと思います

 問題は山積みで、事は簡単には運ばない。コメの価格はこの先下がる見込みはあるのだろうか。

このまま今の勢いでずっと上がり続けることはないと考えています。備蓄米の流通網の流れが少しスムーズになってきているので、そういう意味では、多少落ち着いてくるのではないでしょうか。

 すぐに以前のような値段に戻るというのは期待できないけれど、価格自体は下がっていく可能性はある。

 これから少しずつ状況が変わってくるのではないかと予測しています」

空の棚が埋まったと思えば、価格は倍近くに…… ※写真はイメージです

物価の優等生も価格高騰で高嶺の花

 コメと並び、今消費者を悩ませているのが卵の高騰だ。農林水産省の発表によると、3月の卵の全国平均小売価格は1パック286円で、前年比20%増、8か月連続で価格が上昇している。卵の高騰の原因は何なのだろう。

昨年秋から今年の2月ぐらいにかけて鳥インフルエンザが発生して、800万羽以上が殺処分された。これは日本全体の飼育数の6.5%にあたり、それが供給不足につながった

 とはいえ、鳥インフルエンザの発生は今回に限ったことではない。これまでもたびたび起こってきたが、ここまでの価格高騰は記憶にないところでもある。

ウクライナ情勢の影響で飼材価格が高騰し、それが卵の価格に反映されている。あとは円安も影響しています。今回の高騰は、どちらかというとコスト高が大きく影響しているかもしれません」

※写真はイメージです

 近頃は1パック300円超えも珍しくなくなってきた。長年「物価の優等生」といわれてきた卵だが、その認識自体がすでに危ういものになっているようだ。

「かつて養卵産業は規模がどんどん拡大していたけれど、頭打ちになってきた。限界がきていたところへ、コストが上がってきて、価格転嫁せざるを得なくなってきました。

 消費者からすると、値上げは勘弁、というところではあるけれど、事業者にしてみれば、コストが上がった分くらいは価格転嫁させてほしいという話になる。私たち消費者としても、多少は仕方ないよねと、受け入れざるを得ない部分がそろそろ出てきた気がします

 利幅の減少や後継者不足など、現場の問題はこの先配慮する必要があるだろう。しかし、ここまでの高騰となると、消費者としてはやはり苦しい。はたしてこの状況はいつまで続くのか。元の価格に戻ることはあるのだろうか。

「原油の価格も一時期に比べるとだいぶ下がってきて、為替も円高方向に動いているので、多少は飼料にかかる価格も落ちてくるはず。

 また鶏がひなから育ち、卵を産み始めるまで5~6か月かかるといわれているので、そう考えると、今年の6~7月あたりから生産量が戻ると見込んでいます。夏くらいから少し価格が落ち着いてくるのではないでしょうか

 ようやく明るい兆しが見えてきたようだ。と思いきや、「安心するのはまだ早い」と森永氏は警鐘を鳴らす。

例えば、また今年の夏が猛暑になると、親鳥が弱って鳥インフルエンザ発生ということもありうるでしょう。もしくは中東で地政学的リスクが高まれば、原油価格が上がって飼料の値段に反映されることも考えられます。

 なのであくまでも値下がりは現時点での希望的観測。不測の事態がなければ、夏以降、価格は徐々に下がっていくでしょう

 日本人の食卓に欠かせないコメと卵。気兼ねなく頬張れる日はいつになる?

森永康平さん●証券会社、運用会社でアナリストとして株式市場や経済のリサーチ業務に従事。現在は(株)マネネ代表取締役社長。

森永康平さん●証券会社、運用会社でアナリストとして株式市場や経済のリサーチ業務に従事。現在は(株)マネネ代表取締役社長。


取材・文/小野寺悦子