SNSを通じて、いつの間にか洗脳されているかも……

 日本社会の現状に、「遅れてる! 海外ではありえない!」なんて目くじらを立てている人もいますが……。いえいえ、他の国の皆さんも有名人や王室のゴシップや下ネタは大好きで、若者はおバカなことをしでかすし、高齢者は変なこだわりで周囲を振り回すし、しょーもない男女のケンカも日常茶飯事なんですってば! そんな世界の下世話なニュースを、Xで圧倒的な人気を誇る「May_Roma」(めいろま)こと谷本真由美さんに紹介していただきます。SNSを利用して政治に介入する、恐るべき手段とは……。

TikTokを“政治利用”

 前回の連載で、欧州で韓国発祥の食事系動画『モッパン』が流行していることに触れました。大食いや早食いにチャレンジする若者が急増し、死亡例も増えていることから、こうしたSNS上の動画(主にショート動画)にどう対応するか、欧州各国で議論が盛んになっているのですが、実はその影響は「食」だけにはとどまらないのです。

 2025年2月にドイツで連邦議会総選挙(日本の衆議院・参議院選挙のように国民が投票する選挙)が行われた際、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が得票率20・8%(前回比約2倍)を獲得し、第2党に大きく躍進しました。しかも、若年層のドイツ人の投票行動を調査したところ、極端な政治的主張のある政党に傾倒し、多くの若者がAfDと左翼党を支持したことが判明したというのです。その背景にあるのが、何を隠そうTikTokです。

 彼らは、TikTok上で若者の代弁者であるかのように振る舞い、単純化されたメッセージを繰り返し発信することで、政治に疎い若者層から支持を集めることに成功。その結果、左右問わず極端な思想を持つ若者が増えたというわけです。私たちが想像している以上にSNSは厄介なんです。

恐ろしい「国外からの介入」

 恐ろしいのは、そうした動画─SNS上で特定の行動(「いいね」やフォロワー数の水増し、情報の拡散など)を自動的または人力で大量に行うための組織的な仕組みを「ボットファーム」と呼ぶのですが、これらを作成し発信しているのが、ドイツ国外(!!)からだということ。

 主に、IPアドレスで東欧や旧ソ連の国にあると表示される「ボットファーム」の拠点が動画を作成し、ユーザーのおすすめ動画に登場しやすいようにコントロールし、依頼者から報酬を得ている……という実態があります。おそらくこれらの国の人々は雇用が安定せず、貧困にあえいでいますから、よいお小遣い稼ぎになる。おまけに、他国の政治事情なので罪悪感もない……。

年齢階層別 SNSの利用状況(総務省「情報通信白書令和2年版」より抜粋)

 インターネット上の情報流通を止めることはできないですから、真偽が定かではない極端な情報が国を越えてどんどんやってくる。インターネットやSNSを利用すれば、他国が自国の政治に間接的に介入することができる時代に私たちはいるというわけです。

 政治に関心のない層が、「ボットファーム」によって極端な思想に染められてしまうかもしれない。次は、日本の番かもしれません……。

谷本真由美 たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いポストで人気を博す。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。 イラスト/西原理恵子

構成/我妻弘崇