井上瑞稀 撮影/山田智絵

「争いや戦争に対する思いがこもった作品だと感じています。正義と悪について、悪ははたして悪なのか。考えれば考えるほど難しくて、きっと終わりのない議論なんだろうな」

 と語るのは、舞台『W3 ワンダースリー』で主演する井上瑞稀。手塚治虫が生み出した普遍的な物語『W3』誕生から60周年。地球の調査にやってきた3人の宇宙人と地球人の星真一が、さまざまな悪と戦うSF活劇が舞台化される。主人公の真一を演じる井上は、原作の漫画を読む前に、あえて先に舞台の台本を読んだという。

原作と舞台の違い

「僕、すっごく影響を受けやすいんです。原作から入るとただのモノマネになっちゃいそうだなと思って、まずは台本を読みました。自分でキャラクターを想像してから原作を読んだほうが、より表現の幅が広がるのかなと思っています。すごく大きなテーマを持った、メッセージ性の強い作品だなと感じました」

 井上にとって、これが初めて触れた手塚作品だ。

「台本を読んで、人の気持ちをちゃんと考えないといけないと思いました。自分の言葉だけを押しつけるのではなく、相手が話している言葉の“理由”がわかる人間でいたいなと思います。争いはそれぞれの正義が対立して生まれるものだと思ったので、相手にとっての正義をちゃんと理解しようとしたいです」

 原作の真一は“乱暴だけど純真な少年”だが、この舞台では、“家で漫画を描くことが好きな少年”という設定になっている。

「舞台の真一は、原作とは違って僕っぽいみたいです。台本の肩書に《主人公のオーラなど1ミリもない》と書いてあって、セリフに“……”が多いっていう(笑)。そんな主人公の成長物語という側面もあると思います」

『KEY TO LIT』の活動は

 物語は、いつまでも争いをやめない地球を存続させるべきか否かを判断するため、宇宙人が調査にやってくることから始まる。60年前の作品を今、舞台化することの意義については、

「この作品が、現代のことのように思えてしまうからじゃないでしょうか」

 と、話す。

井上瑞稀 撮影/山田智絵

「『W3』のような“争いは良くない”と伝える作品は昔からあったのに、今でも世界のどこかで争いは続いている。その事実が、すごく大きいことだと感じています。まだ世界から争いはなくなっていないし、『W3』のメッセージが60年前も今も同じ意味を持ってしまうことが、今、この作品をやる理由なんだろうなと思います。

 皆さんがこれからの未来について考えるきっかけに少しでもなったらうれしいですし、この舞台に割いてくれた時間が有意義なものになればいいなと思います。誠心誠意頑張ります!」

『KEY TO LIT』(キテレツ)として今後の活動については、

「グループ活動っぽい活動はまだできていないので、6月に控えているライブがグループとしての自己紹介になると思います。今のところ、僕にとってそのライブが大きいです。個人活動としては、お芝居は継続してやっていきたいと思っています」

無理せず、自分らしく

 個人活動に、新たなグループ活動にと多忙な毎日で、十分に休めているのか心配になってしまうが、

「休むのも仕事のうちなので、休むときはしっかり休むことを意識しています。あと、喉は特に念入りにケアしています。喉に良いよと教えてもらったハチミツの飴をなめたりとか」

 と、にこやかに話し、24歳にして芸歴15年のプロの余裕を感じさせた。とはいえ、自身を人見知りだと言う井上。仕事で気を張って、精神的に疲れたりするのでは?

「すごく申し訳ないんですけど、人見知りを改善しようとしてないから疲れないんですよ(笑)。改善する努力をしたら疲れるんだと思いますけど……。マイペースのままでいってしまうから、きっと周りが疲れるんだろうなと思います(笑)。

 無理をして自分をつくって、そういうパブリックイメージがついてしまったら、どんどん生きにくくなっちゃうかなって。迷惑をかけすぎない範囲で、自分らしくいたほうが良いなと思っています。その分、僕の周りの人は大変だと思いますけど(笑)」

 わが道をゆくマイペース王子、これからの活躍が楽しみ!

宇宙人が動物の姿になって地球の調査に来るストーリー。自分が動物に変身するなら?

「パンダとか、ちやほやされていいなと思います。特別何かをしているわけではないのに、存在が良しとされているじゃないですか。最高ですよね(笑)。どんな動物になるとしても、人に飼われていたいな。野生で生きていくにはまだちょっと弱いと思うので、守られる存在でいたいです」

井上瑞稀 撮影/山田智絵

舞台『W3 ワンダースリー』
東京(THEATER MILANO-Za) 6月7日~29日
兵庫(兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール) 7月4日~7月6日


撮影/山田智絵 ヘアメイク/浅津陽介 スタイリング/小林洋治郎
衣装協力/DIGAWEL(デニムジャケット)、SEUVAS(シャツ)