
肥満治療医として知られる、よこはまメディカルクリニック院長の土田隆先生。糖尿病や高血圧などの生活習慣病を患う2万5000人以上の肥満患者を減量に導いてきた名医だ。その治療の原点には、自身の壮絶かつ危険な減量体験があった。
強烈なダイエットで身体が極度に衰弱
「私はもともと脳外科の専門医で、勤務医だった20代のころはかなりの激務でした。ストレスで暴飲暴食を繰り返し、ひどいときは昼に病院食、15時に病院の近くの店でハンバーガー、夜に同僚とカツ煮込み定食、家に帰って焼きそばを食べるといった調子。ウイスキーも3日で1瓶空けていましたね」(土田先生、以下同)
もともと163cm、55kgだった体重は70kg台まで増加。そして、32歳のころには遠洋漁業のシップドクターとして乗船。
船内で提供される豪華なフランス料理を毎日3食、3か月間食べ続けた。運動ができない環境も重なり、体重はついに88kgまで増えてしまう。
「下船後、あまりにも身体が重いので血液検査をすると、中性脂肪や血圧、コレステロールなどすべての数値が最悪の状態で、“このままでは死ぬな”と思ったんです」
それからダイエットを決意し、どうせなら自分の身体でどれだけ早く体重を落とせるか実験しようと考えた。
「まずは、1日の摂取カロリーを500~600kcalまで抑えました。出勤前にお弁当を1つ買って、それを1日かけて少しずつ食べるんです。初めはきつくても、すぐに慣れてきて。
減量を始めて3か月間は飲み会にも不参加で断酒し、付き合いで外食に行っても野菜だけで我慢。加えて仕事後はテニスやジョギングを日課に、運動も欠かさず行いましたね」
すると6週間後には体重が18kgも減少。しかし、身体が衰弱してテニス中に足元がふらつくようになり、最高血圧も100mmHgを下回ってしまう。
「それでも減量を続けた結果、減量開始から3か月でマイナス33kg。体重は55kgまで減りましたが、まるで病気にかかったようなしんどさで。この方法は普通の人には無理だと考え、それから完全栄養食置き換えダイエットや単食ダイエット、8時間ダイエットなど、あらゆる減量法を試しました」


腹六分目に抑えて3か月でヤセる
試行錯誤の結果、食事量を減らす食事療法が最も効果的だったが、極端に短期間でヤセたり、運動せずに減量したりするとリバウンドしやすくなることがわかった。
「逆に減量期間が長すぎてもだれて挫折しやすくなります。いろいろと試した結果、3か月でヤセるのが最も効率的だとわかって。どうヤセるかというと、とにかく食事量を“もう少し食べたい”と感じる、腹六分目で抑えること。
デスクワークの多い現代人は日中の運動量が少なく、消費カロリーも上がらないため、満腹まで食べると体重は増える一方です。とはいえ食事を減らしすぎても、身体が省エネモードになって消費カロリーが減るため、腹六分目を下回るのは逆効果です」
いきなり六分目まで減らすのが難しい人は、まず腹八分目を目指し、2週間後に腹六分目まで減らすなど、段階的に減らしていくのがおすすめ。
「食事量を簡単に減らすコツは、普段どおりの量を用意し食卓に並べ、2~4割残すこと。残した分を目で見て意識するのがポイントです。残った分は翌日に回せば、料理する手間や、食材も無駄になりません」
ただし、減らすのはご飯などの炭水化物が中心で、おかずなどのタンパク質を減らすのはNGだ。
「タンパク質が不足すると、筋肉が減って代謝が落ち、逆にヤセにくい身体になってしまいます。また、動物性タンパク質は脂肪が多く、食べすぎると肥満を招くため減量中は低カロリーな植物性タンパク質を積極的にとることがポイント。
そこでおすすめなのが、大豆タンパクが豊富にとれる高野豆腐です。私は減量中に、高野豆腐とかつお節、干ししいたけ、唐辛子を粉末にして混ぜたふりかけをよく食べていました。また料理が面倒なときは、高野豆腐をトースト代わりに食べることも」

また、減塩と水分摂取も効率的にヤセるための手助けになる。
「塩分のとりすぎは血液の濃度を高め、血流を悪化させます。脂肪は血液に乗ってエネルギーとして使われるため、血流が悪化すると脂肪がたまりやすくなり減量を妨げてしまうんです。
血流を良くするには減塩とあわせて、1日2リットル以上の水分をとることも大切。血液をサラサラにして、しっかり脂肪を排出させましょう」
塩分には脳が美味しいと感じて食欲を増進させる働きも。
「塩やしょうゆをできるだけ使わない食事を作ると、一気に食欲が落ちて自然と体重が減ります。3か月続けるうち薄味に慣れて、物足りなさも減ってくるはず」
夕食前に30分のウォーキングを
以上のように食事に気をつけていれば、確実に体重は減っていく。しかし減量後のリバウンドを防ぐには、やはり運動が欠かせないと土田先生。
「食事でタンパク質をしっかりとっても、運動しなければ筋肉が減って代謝が下がり、リバウンドしやすくなります。減量後も蓄えたエネルギーを燃やす場所をしっかり確保することが、リバウンドを防ぐコツですね」

とはいえ筋トレやハードな運動が苦手という人も多い。そこで土田先生が患者さんにすすめているのが、夕食前のウォーキング。
「夜はエネルギーを使わない時間帯なので、夕食のカロリーはそのまま脂肪になりやすいんです。そのため運動は夜がベスト。ただし、夕食後だと食べたカロリーが消費されるだけなので、空腹時に身体の脂肪を燃やしておくのがポイントです。
僕は毎日夕食前に1時間半歩いていますが、きつければ1日30分でもOK。より効果を高めるために、お腹を引っ込めて背すじを伸ばして歩いてみてください。普段使われていない上半身の筋肉が刺激され、エネルギーの消費量を増やせます」
上半身には大胸筋、腹筋、広背筋など大きな筋肉があり、姿勢を正すだけで脂肪燃焼効果も高まる。
「余力があれば、1日2回、中身の入った500mlのペットボトルを持ってラジオ体操をやってみてください。ラジオ体操は全身運動で血流アップが期待でき、ペットボトルでの筋トレも兼ねるので非常に効率的なエクササイズです。
年をとると筋肉が固まって血流が悪化し、脂肪がつきやすくなるので、中高年は全身運動で柔軟性を高めることも忘れずに」
土田先生自身も、腹八分目とウォーキング1時間半を継続し、現在の67歳まで大きなリバウンドをせずに、57kg前後を維持しているそう。
「それでも5〜6kg程度の体重の増減はよくあります。今年も冬に5kg太りましたが、腹六分目に抑えて元に戻しました。増えた体重を1年間放置すると戻りにくくなるため、3か月以内に戻すようにしましょう。
頑張りすぎは継続が難しく逆効果になることもあるので、たまには食べすぎてもかまいません。3歩進んで2歩下がるでも必ず結果は出ますから」

土田 隆先生●よこはま土田メディカルクリニック院長。日本医師会認定産業医、日本体育協会公認スポーツドクター。肥満、高血圧、糖尿病を中心に、患者の生活・ニーズに合った治療を実践。生活習慣改善などをテーマに講演、雑誌、テレビなどの出演多数。
取材・文/井上真規子