
江口のりこ演じる五月女恵が、焼肉や遊園地など、通常誰かと行くような体験を一人で味わう『ソロ活女子のススメ』。2021年にスタートし、先頃シーズン5が終了。テレビ東京のドラマとしては『孤独のグルメ』に続く、定番深夜ドラマとなっている。どちらもテーマは「単独行動」。そこには生涯未婚率が高まる現代において、一人で生きていくヒントも隠されていそうだ。
男のソロとは違った単独行動

このドラマが始まったのは2021年4月。コロナ禍で団体行動よりも単独行動が推奨され、もともと一人で行動したかった人たちにとっては、動きやすくなった時期ともいえるだろう。
主人公の恵は人間関係で傷つくことがあり、人と距離を置きたいと出版社の勤務形態も正社員から契約社員に変えて、ソロ活を始める。その内容はソロ博物館のような身近なものから、ソロフレンチフルコースのようなハードルの高いものまで様々だ。
かく言う筆者(50代・男性)も、通算するとソロ活歴は長い。これまで恵が体験してきた約50個のうち、4割くらいは経験済みだし、一人で遊園地のメリーゴーランドに乗ったことだってある。そんな私からすると、恵の感想に深く頷くこともあれば、男のソロとはちょっと違うなと感じることもある。
そもそもソロ活がスポットを浴びるのは、世の中に家族や友人、恋人と一緒でないと出来にくいことがあるからだ。ひと昔前の代表が焼肉。「男女で焼肉を食べるのは仲が深まった証拠」などと言われ、一人で食べに行くのはとても恥ずかしいこととされていた。だけど恵は、友達同士で行くと「とりあえずタン塩」となりがちなのを無視して、いきなりせんまい(牛の胃)というマニアックなメニューを注文する。筆者だって網が汚れるのなんか気にせず、最初からハラミばかり注文したい。近年、焼肉ライクなどが好調なのを見て、時代は変わったなと思う。
要は周りから「友達や恋人もいない寂しいヤツ」と思われるのが恥ずかしいから、単独行動できない人が世の中には多かったのだ。
それを『孤独のグルメ』が、食堂という切り口でまず突破してくれた。大衆食堂は一見、一人で入りやすそうに見えるが、意外に常連さんの巣窟なことがある。筆者も一度、何の気なしにカウンターに座ったら、テーブル席の常連客らしい3人から、ずーっと「こいつ何なの、見たことないし」みたいな会話を背中でされて、えらく居心地悪かったことがある。だけど『孤独のグルメ』の五郎(松重豊)は、そうした常連客ともほど良い距離を取りながら食に邁進する。
それを女性で、食以外にも広げたのが『ソロ活女子のススメ』といえよう。恵はシーズン1でボウリングに行き、一人で心底ボウリングを楽しんでいる人を見て、あることに気づくのだ。実は筆者も20代の頃、全く同じ経験をしたことがある。友達とのゲームで火が点き、翌日は一人で自主練に出かけたのだが、いざとなると「単独で練習に来るなんて、よほどの達人では?」と周囲に注目された挙句、思いっきりガターで馬鹿にされるのではと手足が強ばってしまった。でも恵も感じたように、人は思うほど他人を気にしていないのだ。隣のレーンでガターしようが、誰も見ちゃいない。それがわかってから、だいぶ人生が楽になった気はする。
一人だからこそ可能な自由
そして恵のソロ活には、「一人だからこそ可能な自由を楽しむ」という、前向きな側面もある。例えば動物園では、無理に全部の動物を見ようとせず、好きなワシばかりずっと見物する。筆者も博物館などでは、ある展示を見て、思い出して前の部屋に戻ったりするので、同行者からは「先に行ってるから、出口で集合ね!(怒)」と言われやすい。だから相手のペースに合わせて見学して、後日また一人で見に行ったりするのだ。
シーズン5で恵は「レトロなものを見て何とも言えない気持ちになるのは、自分もいつか同じように朽ちていくからか」と独白していたが、一人だとそんな、普段は考えない哲学的な思索にふけれるのもいい。
恵を見ていて学ぶのはソロ活をする時の“態度”で、誰に対しても泰然としているのだ。筆者など一人でいるとつい、「この籠、使ってもいいですか?」と自分からヘコヘコ店員に話しかけてしまったりするが、そんなのは見りゃわかるから必要なし。話しかけられても「はい」「そうですか」と淡々と答え、でも拒絶している風ではない自然さは、ぜひ参考にしたいものだ。
そして恵は、よく話しかけられる。夜景クルーズや銭湯、高級ホテルなどで、ソロ活の先輩と思われる年上の女性や男性に、これまでの人生が垣間見えるような話を聞かされ、傾聴する。でもそれはその場限りのこと。シーズン5最終回では、シーズン1の工場夜景クルーズで出会った女性ふたりとまさかの再会を果たすが、連絡先を交換するわけでもなく「また会えますよね。それまでお元気で」と別れていく。それくらいの関係が大人にはちょうどいい。
テーマパークや喫茶店など、その場を愛しすぎているベテランに、うんちくを語られるケースも多い(恵は心の中で彼らを“美術館の妖精”などと呼んでいて、小手伸也や要潤などが演じている)。時々ディープ過ぎるきらいもあるが、彼らの話は総じて面白い。
こんなふうに話しかけられる経験は、ソロ活男子は少ないと思う。筆者も20代の頃こそ、たまに親切なおじさん、おばさんに話しかけられたこともあったが、立派なおじさんになった今は、まあ話しかけられない。稀に話しかけられると、変に政治的主張のあるお爺さんだったりして、慌てて逃げることになる。この辺が男と女の違いかなと思う。
…いや、きっと男女差の問題だけでなく、筆者自身が話しかけやすい空気を発していないのだろう。恵も恐らく、人懐こい風貌ではないのだが、どこか話かけても良さそうな隙間があるに違いない。私はシーズン5まで観てきたが、まだその極意がつかめないので、ぜひシーズン6も放送していただき、マスターしたいと思っている。シーズン5の最終回では、「どこに行っても一人で行動する女性が当たり前にいるようになった気がします」「○○女子みたいなの、最近言わなくなってません?」というセリフがあり、恵も正社員復帰を決めるなど、シリーズ完結とも、継続とも取れる終わり方だったが、こんなソロ活おじさんもいるので、ぜひ継続で願いたい。
これからの時代、人はますます家族を作らなくなり、孤立化が進んでいきそうだ。そんな中、個人がそれぞれきちんと独立していながら、ちょっとした会話は交わせるくらいの“ちょうどいい距離感”(番組では「リスペクト」という言葉を使っていた)。そんなものを『ソロ活女子のススメ』は教えてくれていた気がするのだ。