森田正光さん

 親しみやすい人柄と、わかりやすい解説で、お天気キャスターとして長年にわたりテレビやラジオで活躍している森田正光さん。75歳を迎えた現在も、週1回の生放送のレギュラー番組をこなすなど精力的に活動している。しかし、1年前の4月、肺腺がんの疑いで肺の10%を切除する手術を受けている。

健康への意識は人一倍。早期発見で事なきを得る

「メキシコに皆既日食を見に行く予定があって、向こうで病気をしたら周りに迷惑がかかると思い、旅行の1か月前に人間ドックを受けたんです。すると数日後に、医師から直接連絡をもらって“肺がんの疑いがある”と」

 その後紹介された別の病院の精密な検査で、初期の肺腺がんの可能性が高いことが判明する。肺腺がんは肺がんの一種で、たばこを吸わない人や女性、若い人にもみられ、肺がんの中でもっとも発生頻度の高いがんだといわれている。

「それまでなんの自覚症状もなかったですし、がん家系でもなかったので、がんの疑いと聞いて驚きましたね。ただ私は死に対する恐怖感はないんです。若いときには死が恐ろしくて、それでかえって死ぬことに興味を持ったんですね。

 周囲の年長者や亡くなる方を見てきたり、宇宙の果てはどうなっているか、なんて天文学的なことを意識して考えていたら、死ぬことや年齢を重ねることは自然の成り行きだと受け入れられるようになっていったんです」

 本人はいたって冷静に、「この場合は手術するのがいちばん有効」と何のためらいもなく治療の方針も受け入れた。しかしその知らせは、家族を少なからず動揺させた。

「兄からは“正光が死んじゃったらどうしよう”って泣きながら電話がかかってきました。僕自身はまったく心配していなかったので困りましたね(笑)」

 そんな家族の心配をよそに、むしろ手術で受ける初めての全身麻酔に、「受けたらどうなるのか楽しみで仕方なかった」と好奇心からワクワク感さえあったという。

「とはいえ手術をしたらメキシコで日食が見られない(笑)。それで帰国するまで待ってもらって手術を受けました」

 手術は左わき腹から胸腔鏡を通して病巣の切除を行い、所要時間は4時間程度。初期でも肺の1割を切除することになったが、翌日には院内を歩くことができた。

「さすがに術後は傷口の痛みもありましたし、2~3日は空気を吸っても酸素が入ってこないような感覚があって。この状態が続くのは嫌だなと思いましたね」

病気も健康管理も前向きに好奇心で乗り越える

 幸い痛みなども日に日によくなり、約1週間で退院。入院中は家族以外の見舞いをほぼ断ったこともあり、「休暇をもらったように、かえってゆっくりと休めてよかった」とどこまでもポジティブに語る。そして退院後は、健康をより意識した生活を送るようになった。

「30年くらい前から歩数計をつけてよく歩くことを心がけていたんですが、入院したらやっぱり筋肉が落ちちゃって。使わないとどうしても弱くなっちゃうので、いまも毎日7000~1万歩は歩くようにしています」

肺腺がんの疑いを告知されてから出発した皆既日食を見るためのメキシコ旅行(本人提供)

 2年ほど前から始めたサウナも有効だと実感している。

「60代や70代の人だとサウナの水風呂って怖くて入れない人も多いと思います。僕もそれまで一度も入れなかった。でも、流行っていると知って好奇心で試してみようって。

 お医者さんの書いた本のルールどおりにやってみたら、身体にいいっていうことをだんだん実感してきたんです。特に手術をしてからはリハビリの一環として自分なりに気をつけながら入っているんですが、血圧も下がって呼吸も長くなったんですよ」

 サウナでは必ず自分の身体と対話をしながら、きちんと脈拍も測るなど、無理をせずに楽しむのが自分流と話す。

 食事ではタンパク質を意識するようになったそう。

「タンパク質は重要だけど年を取ると不足するからと、人にすすめられて毎朝プロテインを飲むようになりました。肉でもいいんですが、プロテインのほうが簡単なので。手間をかけずに健康になりたいと考えるタイプです」

 過去にはお酒にまつわる武勇伝もたくさんあったというが、10年ほど前から量を控え、めったに飲まなくなった。

「2035年9月2日に北関東で皆既日食が見られるんですよ。その日を健康で迎えたいと思ったのが始まりです。85歳まで健康に生きるためにはどうしたらいいかを、60代半ばごろから考えて過ごしています」

 生活習慣病の検査を半年に一度のペースで受けているのもその一つだ。ちなみに、長年の嗜好や習慣まで変えさせてしまう“皆既日食”の魅力を聞いてみると─。

「それまで青空だったのが、(太陽と月が重なって)ダイヤモンドリングがバーンと現れた瞬間、一気に真っ暗になって空に星が瞬くんです。風が吹いて一瞬にして気温も下がって、鳥や虫が鳴きだし……。映像で見るのと体験するのとでは、ぜんぜん違って人生観も変わるほどです」

生成AIの魅力を語る森田さん

 30年ほど前にこれを初めて体験して以来、1回体験するともう1回体験したくなる“日食病”にかかってしまったと笑う。

「皆既日食を見るために世界中に出向いているので、手術を後回しにしてメキシコに行ったのは当然の選択でした」

胸腔鏡でもやはり術後の痛みはつらかったと語る森田正光さん

 森田さんにとって皆既日食は“推し”のようなものだという。世界中を“追っかけ”することが生きる喜びとなる。そのために、体調を整え、健康であることは何よりの前提なのだ。

 また最近では、意外にも生成AIにハマっている、と森田さん。

「一昨年からChatGPTを始めたんですが、使う人に合わせて徐々にカスタマイズされていくんですね。ここ半年で急激に進化してきて、何か質問すると、常識的な答えが返ってくるんですが、それとは別に僕に合わせた“本音”も教えてくれるんです(笑)。新しい視点が持てるし、頭も使うので認知症予防にもいいと思っています」

 今回の病気を通して、人との接し方や考え方も大きく変わったという。

「昔はすごい頑固でね。自分が正しいと思ったことは曲げない部分がありました。でも入院中に自分と向き合う時間ができて、自分も間違っていたところがあったと反省したり、1人で何でもできると思ったら大間違いだということに気づけました。

 人にもっと優しくなろうと思って、いろいろな価値観を認めて肯定するようになったら、自分も楽しくなりましたね」

 いまは、社会への恩返しも模索しているそう。

「今年から大学の客員教授も務めることになって、若い人と触れ合えるのも楽しみです。もう一つ、沖縄で島バナナの栽培もしているんですが、それを使ったデザートの販売なんかも考えています。

 健康あってこそですが、いままでの人生では受け取ることばかりだったので、これからは社会貢献として、自分の経験や知識、新しい価値などを社会に広げていけたらと思っています」

 好奇心旺盛でさまざまなことにチャレンジし続ける森田さん。人生100年時代、元気なシニアのお手本として、さらなる活躍に期待!


取材・文/荒木睦美 

森田正光 気象予報士、お天気キャスター。株式会社ウェザーマップ 会長。公益財団法人日本生態系協会理事、学校法人桑沢学園東京造形大学客員教授、一般財団法人島バナナ協会代表理事。現在は『Nスタ』(TBS系)の金曜日のお天気コーナーを担当