
【今の自分が置かれている状況を考えると協会の中ではなく外から相撲を発展させたいと思った。相撲に愛され相撲を愛した25年だったが、日本相撲協会を退職して新たな夢に向かって進みたい】
6月9日、大相撲史上最多の優勝45回を誇る、平成を代表する大横綱「白鵬」こと、元宮城野親方の白鵬翔氏(40)が日本相撲協会を退職。それに伴って開かれた記者会見で冒頭、協会退職の理由とこれからの“夢”を語った。
白鵬氏が掲げたのは、世界規模でのアマチュア相撲の発展と、将来的に「SUMO」の五輪競技採用を目指す「グランドスラム構想」。世界中から少年力士が集う「白鵬杯」を、さらにスケールアップさせた世界大会開催も視野に入れる。
新会社役員に就任予定の元電通マン・森井理博氏ら同席のもと、白鵬らによる10分ほどの挨拶から始まり、以降は記者との質疑応答も行われた会見。ところが、30分を回る頃には挙手もまばらになり、1時間を予定していたところ約15分を残して終了。白鵬自身の口から語られる、待ち望まれたはずの“退職”騒動はまさかの“時短”になったのだ。
「自身が退職に追い込まれた恨みつらみ、はたまた確執も噂された相撲協会との真相やら知りたいことは山ほどありました」そう悔しがるのは、会見場に“入れなかった”、角界のお家騒動を取材するスポーツライター。
白鵬の回答に切り込まない記者たち
質疑応答では、閉鎖された宮城野部屋の再開の遅れ、9人の弟子が引退したこと、一部で報道された伊勢ヶ濱親方こと元横綱・照ノ富士との確執、そして“指導方針”を指摘された協会との間にあった“ズレ”などには、それぞれに肯定否定をしつつもシンプルな回答に終始した白鵬氏。
そして不思議だったのは、白鵬氏の回答にさらに切り込むことなく、「ありがとうございました」と口を揃えて質問を終わらせた記者たち。中継を見守った視聴者もどこか“消化不良”を覚えたかもしれない会見だが、事前に白鵬側からの“牽制”がーー。

【子どもたちも見ている会見ですので、本件以外に関する質問はお控えいただけますようお願いいたします。手短に1社1問ずつお願いします】
記者との質疑応答前、女性司会者がアナウンスしたのは「子どもたちも見ている」との“お達し”と、質問は「1社1問」との注意事項。
先のライターの見解によると、
「白鵬サイドにしてみれば、“くれぐれも事を荒立てるような質問はしてくれるなよ”と釘を刺し、また“1社1問”としたことも時間の都合もありますが、延々と追求されることを嫌ったようにも思えます。
そもそも会見の案内が送られたのはテレビや新聞、スポーツ紙といった、普段から相撲に関わる主要メディアのみで、週刊誌やフリーの記者をシャットアウトした閉ざされた会見。もちろん、フリーの中には“場を荒らす”ことが目的のような記者もいますが、いわゆる“お抱え”記者を集めた会見に真実を見出せるはずもない」
子どもが目指すのは大相撲か白鵬か
そんな“忖度”漂う会見場で唯一と言っていいほどの、鋭い質問を向けていたメディアも。手を挙げたのはアメリカ『AP通信』の記者だった。
【白鵬さんが色々、相撲の素晴らしさをいっぱいおしゃってましたけども、ユー、あなたはチョイスとして(相撲協会の)外に出ることを決めたわけです。それは、どうして中でできなかったんでしょうか?
それからアメリカ人でも今は日本の文化、お相撲にたいへん興味をもってる人がいっぱい私たちの読者にもたくさんいるんですけども、その子どもたちに“相撲をやりたい”っていう人がいたらどんなアドバイスをあげますか?(相撲界に)入っても大丈夫なんでしょうか。それとも親方のところにいけばいいんでしょうか】
白鵬が目指す「グランドスラム構想」をはじめ、相撲協会に属していては実現不可能な改革なのか。そして将来、力士を志す子どもたちは「大相撲を目指したほうがいいのか、それとも白鵬が創設する“団体”に入ればいいのか」、なるほど、会見を「見ている子ども」を意識した質問だ。すると、

「答えになっていない答え」
【そうですね、え〜、アマチュア相撲というのが84カ国というものが登録されてまして、実際に年に1回、世界大会も行われています。そこに25から30カ国が参加しております。そこの先にはワールドゲーム、コンバートゲームがあります。
ここにも相撲が、国際大会に出ております。もっといえば、世界に150ヵ国に“横綱”が、チャンピオンがあります。そういったベースがあるもとで日本相撲連盟、国際相撲連盟とも連携して、今活動しているところであります】
AP通信記者の問いに「答えになっていない答え」で、答えを濁した白鵬氏。すぐに司会者が「ありがとうございます。他にご質問のある方は〜」と、これ以上の追加質問を受け付けずに次の質問に写ったのだった。
6月10日、AP通信によって配信された同記者の執筆記事では、白鵬の退職までの経緯と会見での模様が伝えられた後、次の言葉で結ばれている。
《大相撲は非常に厳格なルールと伝統を重んじており、そのために他のトップ力士も大相撲以外でのキャリアを求めることもある》