2025年6月5日ブラジル訪問中、サンパウロにあるイビラプエラ公園の「開拓先没者慰霊碑」に献花(代表撮影・共同)

《はじめて3人そろって沖縄県を訪れることができ、うれしく思います。今日は午後に国立沖縄戦没者墓苑で花をささげ、先の大戦において激しい地上戦が行われ、多くの尊い命が失われた沖縄の人々の苦難を思い、犠牲となられた方々に哀悼の意を表しました。

 平和の礎では、国籍を問わず、また、軍人、民間人の別なく、沖縄戦でのすべての戦没者の氏名が刻まれ、今年も新たな名前が加えられていることについての説明をうかがうとともに、眼前に広がる海を眺めながら、平和の火を実際に見て、沖縄の人々の平和に対する深い思いを改めて感じました。

 平和祈念資料館では、沖縄戦に関する実物資料、写真パネル、沖縄戦体験者の証言などの展示を見て、凄惨な沖縄戦の様子や、当時の人々の苦難について、改めて理解を深めました。はじめて訪れた愛子も、苦難の道を歩んできた沖縄の人々の歴史を深く心に刻んでいました。戦争を体験された方や、遺族となられた方々のお話をうかがい、みなさんが経験された想像を絶するような苦難の一端に触れ、深く心が痛むとともに、戦争の悲惨さや平和の大切さについて、思いを新たにいたしました。(略)

 戦後80年を迎える節目の年に、沖縄県を訪れ、沖縄戦で亡くなられた方々や戦争によって苦難の道を歩まざるをえなかった方々に思いを寄せつつ、平和の尊さを心に刻み、平和への願いを新たにしていきたいと思います》

戦後80年、天皇、皇后両陛下と愛子さまが沖縄県を訪問

沖縄県を訪れ、対馬丸の犠牲者の慰霊碑「小桜の塔」に花を供えた愛子さま(2025年6月5日)

 今年は、戦後80年にあたり、6月4、5日の両日、天皇、皇后両陛下と長女、愛子さまの3人は、先の大戦の激戦地である沖縄県を訪問した。愛子さまが沖縄を訪れるのは初めてのことだった。

 4日午後、3人は、沖縄戦の犠牲者が祀られている、糸満市の国立沖縄戦没者墓苑を訪れ、献花台に白いユリの花を供え、深々と頭を下げた。戦没者の名前が刻まれた「平和の礎」を視察し、沖縄県平和祈念資料館では、戦争体験者らと懇談した。そして、この日の夜、両陛下は冒頭のような、平和への強い思いにあふれた感想を公表した。

 5日、天皇、皇后両陛下と長女、愛子さまはアメリカの潜水艦に撃沈され、子どもたちなど約1500人が犠牲となった学童疎開船「対馬丸」の慰霊碑「小桜の塔」(那覇市)を訪れ、花を供えて拝礼した。その後、近くにある対馬丸記念館で遺品や遺影などを視察した。

約1500人に上る犠牲者

 戦火から沖縄の子どもたちを救おうと、終戦1年前の1944年8月21日夜、対馬丸は沖縄・那覇港を出港して長崎を目指した。翌22日夜10時過ぎ、鹿児島県トカラ列島の悪石島北西約10キロの洋上で、アメリカの潜水艦ボーフィン号の魚雷攻撃を受けて沈没した。対馬丸には、学童や一般の疎開者、教員らが乗船していたが、現在、判明している犠牲者は、約1500人に上るとされる。

 今回、両陛下らと懇談した、記念館を運営する公益財団法人・対馬丸記念会代表理事で生存者の高良政勝さんは、4歳のとき、家族11人で対馬丸に乗り込み、9人が犠牲となる中、17歳の姉と2人だけ生き延びた過酷な体験を持つ。両陛下と愛子さまは、高良さんたちの話に熱心に耳を傾けていた。

 対馬丸が撃沈されてから80年の節目だった昨年、この連載で対馬丸の悲劇を紹介したことがある。その中で、'14年8月、秋篠宮ご夫妻の次女、佳子さまは家族と一緒に、東京で開かれた「学童疎開船を語り継ぐつどい2014」に出席し、対馬丸事件の生存者に会い、犠牲者たちに黙祷を捧げたと触れている。

 この年の11月、49歳の誕生日を前にした記者会見で、「両陛下(筆者注、現在の上皇ご夫妻)から戦争や慰霊についてどのようなことをお聞きになり、どのように受け止められていますか。また、お子様にはどのように伝えていますでしょうか」と記者から尋ねられた秋篠宮さまは、次のように答えた。

「私が本当に子どものころから、たびたびに両陛下から戦争の話を聞きました。(略)非常に頻繁に沖縄戦の話を聞き、またそれに関連する映画を見たりいたしました。その後もたびたびに戦争のときの話を聞く機会があり、私たちは、戦争というものを二度と繰り返してはいけないということを強く思ったわけです」

「両陛下にとって、戦争の記憶を風化させることがないようにするという気持ちが非常に強くて、それが国内、それから海外での慰霊というものにもつながっていると私は理解しております。

 子どもたちについてどのように伝えているかということですが、私たちも時々戦争の話を自分が知っている範囲で伝えることはあります。一方、子どもたちが御所へ伺ったときに、折々に両陛下から、その当時のことについてのお話がありました(略)今年が学童疎開船対馬丸の悲劇から70年という節目の年ということもあり、その行事に家族で出席をしたわけです」

両陛下から学ぶ佳子さま

「学童疎開船を語り継ぐつどい2014」で、生存者が描いた絵などを見学する秋篠宮ご一家(2014年8月16日)

 この会見後の'14年12月、成年に際しての記者会見で佳子さまは、

「祖父母としての両陛下についてですが、お若かったころのご自身の経験などをよくお話ししてくださいます。日本をはじめ海外についての歴史や自然・文化などについてお話ししてくださることもあり、学ぶことが多いと感じております」

 と答えている。上皇ご夫妻から学んだ悲惨な戦争の記憶をしっかりと受け継ぎたいという佳子さまの強い決意を感じる。今回、両陛下と一緒に、沖縄を初めて訪問した愛子さまも、おそらく同じ気持ちを抱かれたことだろう。

「日本から移住された方々とそのご子孫が、さまざまな困難に直面しながらも、日々努力を重ねてこられたことに、そしてブラジルの社会に貢献してこられたことに改めて深く敬意を表します」

 6月4日から南米のブラジルを公式訪問した佳子さまは、友好親善の大役を無事に務め17日に帰国。最初の訪問地、サンパウロで、佳子さまはイビラプエラ公園にある「開拓先没者慰霊碑」に献花し、深く頭を下げていた。

 そして、日系の方々が開催した歓迎式典に出席し、佳子さまは、前述のように挨拶している。世界中の人たちが仲良くなることは、平和な世界を築く上での大きな一歩となる。今年11月、愛子さまは初めて、ラオスを公式に訪れる予定だが、佳子さまや愛子さまたちが、平和への思いをしっかり持ちながら、国際親善に取り組むことはとても意義深い。活躍を大いに期待している。