
小泉農林水産大臣になってから電光石火のスピードで出回り始めた「備蓄米」。5キロ2000円台とリーズナブルな価格で流通しているけど、その味はどんなもの? 古米の食べ方や品質についての疑問をコメの専門家、お米マイスターに聞きながら一般消費者の備蓄米に対する意識を調査 !
食べる派と食べない派はほぼ同数の結果に
「とにかく、今はコメの価格を下げることに集中する」
“令和の米騒動”の中、農林水産大臣に就任した小泉進次郎議員が繰り返している言葉だ。政府が凶作や不作時のために保存してある備蓄米を放出。
より早く消費者の手にと、一般競争入札から随意契約に切り替えた結果、6月5日にはスーパーなどの店頭に5キロで税込み2000円前後で並んだ。
安くコメを購入できることはうれしいが、備蓄米は古米や2年前の古古米などで、品質や味についてはどうなのだろうか?
そこで全国30代~60代の男女、300人にアンケートを実施。備蓄米を食べたいと思うか、食べないなら、その理由を調査した。
結果は、食べる(すでに食べた)人は148人、食べない人は152人と、ほぼ同数の結果に。食べたいと思っている人の意見としては、
「テレビで見ていると、みんなおいしいと言っているのでどんな味か試してみたい」(愛知県・男性・61歳)
「古古米とはお米としてどんな感じなのか興味がある」(神奈川県・女性・54歳)
反対に食べないと答えた人は、
「おいしくなさそう」(神奈川県・男性・59歳)
「高くても品質とおいしさにこだわりたい」(山形県・女性・56歳)
と、味についてのこだわりが垣間見られた。この結果について、五ツ星お米マイスターで、コメの販売を手がける(株)スズノブの代表取締役、西島豊造さんは、
「思っていたとおりの結果ですね」
と語る。毎年、当たり前のように新米を食べてきた日本人、という意識でいると意外に思えるのだが「年齢によっても違う」と、西島さんはこう続ける。
「お年寄りになればなるほど、備蓄米=まずいというイメージがあります。新米こそおいしいコメだと。若い人は価格が高騰している“ブランド米”にこだわりがない。こだわっているのは高齢の、保守的な人たち(笑)。若い年代の人たちは安ければカリフォルニア米でも買うし、コメがなかったらパンや麺類を食べるじゃないですか。
若い年代は、海外旅行先でコメを食べている人も多く、国産米のように粘り気の多いお米でなくてもおいしく食べられることを知っています。今回のアンケートも、年代を若い層とお年寄りで分けたら、全然違う結果になると思いますよ」
確かに、備蓄米を食べないと答えた人で、
「普段からお米をそんなに食べないから」(東京都・女性・37歳)
「新しいお米が少々高くても、それがおいしいはずだから」(沖縄県・女性・54歳)
買い溜めして家庭で保存したコメは備蓄米よりひどい状態に
食べたいという人でも、
「普通の米とあまり変わらないと思っているから」(宮城県・男性・46歳)
「古米のほうがおにぎりに向いていたり、実はメリットもある」(大阪府・女性・43歳)

年代で結果を見てみると、その裏にコメに対する思い入れの違いが透けて見える。
「今回のコメ不足だって、騒いでいるのは年齢の高い層が中心でしょう。コメ不足は去年の夏くらいから始まっているので、コメに対しての“こだわり”を持っている人はそのときに買いだめをしたかもしれない。でも家庭で保存したそのコメ、備蓄米よりひどい状態になっていますよ。完全に賞味期限が切れていますから」(西島さん)
白米は精米直後から酸化が進行して、長期間保存しておくとカビや虫の発生リスクが高まる。だいたい春夏は精米後2週間~1か月、秋冬で1か月〜2か月くらいがおいしく食べられる目安だという。
「ニュースなどで、備蓄米を買おうと早朝から並んでいる映像が流れていますが、消費者にはある種のイベント的な興味もあると思います。だって、一生に1回のことですよ(笑)。備蓄米を放出したら来年にはないわけだし、これから備蓄するコメは、産地、品種が違うものになるだろうから。
平成5年に冷夏の影響でコメ不足が起きました。そのときにタイ米を緊急輸入したのと同じです。何年か後には“こんなにまずいの食べたよね”という話をするような感覚。でも、今はネットなどで情報が飛び交う時代なので、どうすればおいしく食べられるか簡単に知ることができます。またとないイベント、という気持ちで楽しんでいる人もいるのでは」(西島さん)
備蓄米をめぐっての動きはますます加速している。6月10日、小泉農林水産大臣は追加で令和3年産と2年産の備蓄米合わせて20万トンを放出することを発表。令和2年産となると、古古古古米になるのだが……、
「古古古古米についてはわからないけれど、古古古米については炊いて試食しました。でも、においが思った以上にダメだった。これは拒絶する人は多いかな……、と。
ただ、水加減やすすぎ方で炊き上がりの8割以上はカバーできます。料理の仕方、おかずとの相性によっておいしく食べられますし。備蓄米のとぎ方や炊き方、保存の仕方は最低限、消費者に提示していかないといけないですよね」(西島さん)
今回の“令和の米騒動”では、コメの流通など、これまでも指摘されていた問題に再びスポットが当たった。
「前大臣のときは3か月たっても出回らなかったのに、小泉大臣になったらどうしてこんなに早く放出されているのか。信用できないコメを口に入れたくない」(東京都・男性・65歳)
「あまりに政府関係者が無能すぎるので、これからはできるだけ農家から直接コメを買いたい」(山口県・男性・63歳)
農家に支払う概算金を上げてこなかったツケ
こんな声もアンケートでは上がってきた。これからのコメの流通・販売はどうなるのだろうか? 西島さんはこう話す。

「農協にコメを出さない農家も増えてくるでしょう。だって、企業が現金を持って直接買いつけに来てくれて、しかも農協よりも高い価格で買ってくれるから。農家にしてみればそちらを選びますよね。20年前から農家に支払う概算金を上げてこなかったツケが回ってきたんです。
ただ農協の販売網がないと続けていけない小さな産地もあるので、農協をなくすことはできません。根本的な仕組みを変えなくてはいけない状況ですね」
そしてコメの価格などは多極化していくだろうという。
「銘柄にこだわって“高くてもこのコメが欲しい”という人もいれば、ブランド、産地は関係なく味と価格はこのくらいで、と考えている人もいます。売るほうも、スーパーのように安さを売りにするところとお米屋さんとの格差もあるでしょうし。お米屋さんの中でも私のところのような専門店もあれば、リーズナブル系の専門店もあります。
もう、コメは日本の主食ではないことを消費者の動きが示していると思います。特別な存在ではなく、普通の食品になっている。それぞれのニーズに品種や価格を合わせ、高いコメから安いコメ、生産者がこだわったコメなど、これまで以上に多極化していくと思います」(西島さん)
取材・文/蒔田 稔