
「日本とブラジルの人々が、寄り添い合う未来を思い描いております。大切な友人、アミーゴとして─」
日本とブラジルの外交関係樹立から130周年という節目に際し、秋篠宮家の次女、佳子さまはブラジルへの公式訪問に臨まれた。6月11日に開かれたブラジル政府主催の歓迎式典では、公用語であるポルトガル語を交えながら、両国の友好を願われた。
現地で絶賛された佳子さまのブラジル訪問
「佳子さまのご滞在は、6月4日から17日まで。移動日を除いた10日間で8つの都市を回られました。各都市で開かれた記念式典や食事会に出席されたほか、ルーラ大統領との面会、日系人や日本語を学ぶ大学生との交流など、目まぐるしいスケジュールをこなされました。多忙な中でも常に笑顔を絶やさず、現地メディアからは“天性の気品がある”と大絶賛されたのです」(テレビ局関係者)
6月6日にサンパウロで開かれた歓迎行事を主催した「ブラジル日本文化福祉協会」で評議会会長を務める日系2世の山下譲二さんは、当日の佳子さまのご様子について、こう振り返る。
「1100人を収容できる大講堂が両国の旗を手にした人たちによって埋め尽くされ、佳子さまが入場されると、熱烈な拍手が沸き起こりました。
その後『日本移民資料館』を視察された際には“ブラジルの日本人移民の方々が辿ってきた歴史がはっきりとうかがえる素晴らしい資料館でした”“今回のブラジル訪問で貴重な歴史に直接触れることができ、とても感動的でした”というお褒めの言葉をいただきまして、感無量でした」
皇室の方々によるブラジルご訪問は2018年、結婚前の小室眞子さん以来。遠く離れた位置関係にしては、高い頻度だ。皇室の方々が積極的に足を運ばれるのは、ブラジルに住む270万人もの日系人の存在が大きい。
サンパウロ大学の法学部博士教授で、日系2世の二宮正人さんは「ブラジルへ移住した日本人移民にとって、皇室は常に故国である日本の象徴だった」と説明する。
「戦前に移住した移民の多くは、数年の間ブラジルでお金を稼ぎ、日本へ帰国するつもりでいました。しかし、大多数の人はその夢を果たすことができず、ブラジルに残ったのです。
当時は、日本人移民が安心して受診できる医療機関がブラジルにありませんでした。1930年代、そんな移民の健康状態に心を寄せてくださった皇室から、現在の価格で約1億円のご寄付があり、日系人のニーズに対応した病院を創設することができたのです」
皇室とブラジルの関係
以降も、皇室はブラジル日系社会に思いを寄せ続けた。1958年の移民50周年という節目には、三笠宮ご夫妻が皇族として初めて訪伯されている。
「1967年には、当時、皇太子ご夫妻だった上皇ご夫妻がご訪問くださいました。おふたりにはその後も2回、足を運んでいただいています。1995年には黒田清子さんが、2008年には当時皇太子だった天皇陛下にお越しいただきました。
2015年には秋篠宮ご夫妻が、2018年に小室子さんが来伯されるなど、皇室の方々は両国や日本人移民の大事な節目には必ずブラジルを訪れてくださいます。絶えず日系社会に温かい心配りをいただき、感謝の気持ちでいっぱいです」(前出・山下さん)
前出の二宮さんは1975年、赤坂迎賓館で行われた晩さん会で昭和天皇の通訳を務めて以降、皇室の方々が訪伯の折に通訳を担当している。日系人との交流をより近くで見てきた二宮さんには、忘れられない瞬間があったという。
「1978年、当時皇太子ご夫妻だった上皇ご夫妻が来伯された際のことです。サンパウロ市内のサッカー競技場で歓迎式典が行われ、ブラジル中から7万人の日系人が集まりました。
このとき、私は通訳として陛下が乗っておられたオープンカーの助手席に座っていたのですが、あの熱気や臨場感は忘れられません。陛下も大変な歓迎ぶりに非常に驚かれたものと拝察いたします」

この際、ちょっとしたハプニングがあったという。
「式典の前、両陛下はサッカー競技場から車で20分ほどかかる『移民資料館』を訪問されていました。陛下は熱心に質問を投げかけておられ、周囲は“式典に遅れるのではないか”と、気が気でない思いだったのです。
開始時間が迫る中、私はご移動を促さなくてよいものか大統領に尋ねました。すると、大統領は“熱心にご覧になられているのだから急かすようなことはやめよう”と。結局、競技場には20分遅れて到着したのです」
皇室の方々は代々、ブラジルに心を寄せてこられた。「今回の佳子さまのご訪問で、そうしたご姿勢を踏襲したお振る舞いが随所に見られた」と語るのは『皇室の窓』(テレビ東京系)で放送作家を務める、つげのり子さん。
「佳子さまは6月12日、ブラジル政府主催の昼食会に出席されました。その際“わが家ではブラジルのイペーが花を咲かせています”とおっしゃったのです。イペーとはブラジルの国花。
そして、美智子さまは過去に、この花を通じて日系移民の方々のご苦労を追想する歌を詠まれています。佳子さまは、ご家族から日系人への労いと敬愛の念を受け継いでいることを伝えたかったのではと拝察いたします」
“前例のない”親密交流
前出の二宮さんも「美智子さまをはじめとする女性皇族のみなさまがお持ちだった心遣いを、佳子さまも引き継いでおられると感じた」と言う。

「佳子さまには、6月6日のサンパウロでの歓迎式典でお会いしました。車いすに乗った高齢の日系人とお話しした際、膝をついて目線を合わせておられ、かつてご訪問いただいた女性皇族のみなさまのご姿勢を彷彿とさせました。
ただ佳子さまは、これまでより、さらに一歩も二歩も進んで、より近い距離で交流されていた印象です。高齢の日系人女性と交流された際、膝をついてお近くでお話をされただけでなく“ハグ”までされたのです」
これは周囲にも大変な驚きだったと二宮さんは続ける。
「佳子さまの目を見つめたり、こちらから握手を求めてはいけないと、事前に説明されていたのですが、佳子さまはあまり気にされていないご様子でした。美智子さまのお振る舞いを受け継ぎながらも、より距離が縮まっている気がいたしました。
今も海外にいる日系人にとって、皇室は象徴であり日本そのものです。だからこそ、距離が近づいていることは最大の喜びです」
愛されプリンセスの親密交流は、今後もブラジル日系社会で語り継がれるだろう─。