『あんぱん』の主演・今田美桜と北村匠海

 最近、テレビCMを見ていて「あれ、この人『あんぱん』ののぶを射止めた人では…」という機会が、ちょくちょくないだろうか? 演じる中島歩は現在CM出演4社、まさにこれから露出が増えそうな旬の俳優だ。

中島歩演じる一等航海士・若松次郎

『あんぱん』毎週月〜土、朝8時〜(NHK総合)ほか放送中

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』の主人公・のぶ(今田美桜)は当然、嵩(北村匠海)と結婚するものと思っていた視聴者の予想を裏切り、思いがけず結婚してしまった相手が、中島歩が演じている一等航海士・若松次郎だ。

 次郎はのぶの見合い相手として登場。最初は互いに結婚を考えていなかったが、のぶの真っすぐな人柄に惹かれた次郎が求婚。のぶが愛国と反戦の狭間で苦しんでいることを知った次郎の「そんなに重い荷物をいくつも担いでいたら、船やったら沈没してしまいます」という、包み込むようなセリフにはグッときた人も多いに違いない。

 中島のこれまでの出演作がパッと思い浮かばない人もいるかもしれないが、同じ朝ドラの『花子とアン』で蓮子(仲間由紀恵)と駆け落ちした若い男役といえば、思い出す人も多いのではないか。

 それが2014年放送で、その後すぐブレイクするかと思ったら、意外なほど長い雌伏の期間を経て、今再び脚光を浴びているといえる。その証拠が昨年から立て続けに出演が決まった4本のCMだ。

 2024年4月に始まったのが、KINCHOで知られる「大日本除虫菊 蚊に効く虫コナーズプレミアム」。ご存じ長澤まさみと喫茶店に行き、虫コナーズを物干し台などに吊るすように言われ、困惑する男性の役だ。

 2024年8月には芝浦機械「ALWAYS 芝浦マシーン」もスタート。「すごいやつを作り出したやつを作り出したやつもすごいよな」と、どんどん自分の世界に入っていく阿部寛の手を握り、「先輩、また芝浦マシーンのこと考えてます」と諫めるシーンは記憶に残っている人も多いだろう。

 2025年2月からは「サントリー 翠(SUI)ジンソーダ」で杉咲花と共演。翠(SUI)ジンソーダを店員の杉咲に試飲させる居酒屋の店長役で「ジンだけに…いや違うな、ジンなのに…」というセリフが耳に残る。

 続く2025年3月からの「はみだせ!うみだせ!旭化成」ではついに主演。壁をぶち破って現れる女子社員など、熱すぎる社員たちに困惑するキャリア入社組の社員を演じている。

 どのCMも「あれ、これ中島歩なのかな?」と思わせるくらいナチュラルで、強すぎない個性が彼の魅力だろう。

再ブレイクのきっかけ

『あんぱん』(NHK公式HPより)

 そんな彼の再ブレイクのきっかけとなったのが、2023年と24年にBS松竹東急で放送した『A Table!』という連続ドラマだ。吉祥寺の外れを舞台に、夫婦ふたりの気ままな暮らしを市川実日子と演じていた。ふたりは本で見かけた料理などを一緒に作るのだが、そのシーンはほぼアドリブのように自然で、他愛もない会話を交わしながら、ふたりの暮しが永遠に続いていくような空気感はとても魅力的だった。

 BSなので、そこまで視聴者は多くなかったと思われるが、クリエイターたちの目には留まった様子。「そうか、この人がいたか」という感じでまさに再発見され、最近の起用につながっているように見える。

 筆者は『A Table!』でインタビューさせていただいたが、演じていたヨシヲそのままの、出世とか活躍とかにこだわっていないような、のんびりとしたしゃべりの中にも感性の鋭さを感じさせられた。明治期の作家・国木田独歩の玄孫であり、俳優デビュー作が美輪明宏演出・主演の舞台『黒蜥蜴』という経歴もどこか浮世離れして魅力的で、この人はこれから注目されるだろうなと思ったものだ。やや古風な顔立ちだからこそ、30代になってちょうど魅力と年齢が合致してきたように見える。彼の人柄に興味を持った方はぜひ配信などで『A Table!』を観ていただきたい。

 史実では、次郎のモデルになった人物は終戦後、日本に帰還するものの病死しており、『あんぱん』でも、後にのぶと嵩が結ばれることは既定事実。次郎は退場時にはどんな言葉をのぶに残すのか? “次郎ロス”が起こるのは間違いなさそうだ。

 だがそんなファンに吉報なのは、7月クールに早速、フジテレビ系のドラマ『愛の、がっこう。』への出演が決まっていること。主演の木村文乃の恋人で、ハイスペックな銀行員を演じる模様。中島目当てでこの番組を観る視聴者も多いに違いない。

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、著書に『風景印ミュージアム』など。歴史散歩の会も主宰。