
縊死、集団自死、孤独死などが過去に発生した「訳アリ物件」。そこで見聞きされた“怪奇現象”は眉唾物か、真実か。物理学者や音声分析の専門家の協力を得て、本格調査を行っているのが児玉和俊さんだ。「“念のこもった家”に不思議なことが起こります。それは事故物件だけでなく……アナタの家も、もしかすると……」
オバケの存在を科学的に分析
事故物件とは自死、殺人、孤独死などの死亡事故が起きた、いわくつき物件のこと。赤の他人が非業の死を遂げた場所に気持ち悪さや抵抗を感じる人も多く、嫌厭されやすい。その心理的瑕疵を払拭すべく物件に潜入し、“オバケ調査”を行っているのが、株式会社カチモードの代表を務める児玉和俊さんだ。
「オバケ調査は、家主や管理会社からの依頼で事故物件の資産価値を回復するため、物件を科学的に分析し、異常がないことを証明する目的で行っています。調査では22時から翌6時まで物件に滞在し、映像、音声、電磁波、室温・湿度、大気圧、風力、騒音、サーモグラフィーという8項目を確認。
さらに室内や建物に構造的な不備がないか、特殊清掃やリフォームによる修復はきちんと行われているかもチェックし、使用や心理面で問題がないという調査報告書を発行します。調査の項目は物理学の大学教授や、映像、音声分析の専門家などの協力を得て決めました」
しかし、まれに科学的分析でも説明できない事象が起こる物件もあるそう。
「温度計が異常な数値を示すなど、不思議なことが起こる物件は確かにあります。異常が出た際には依頼主と相談のうえ、さらなる調査を進めたりと状況に応じて対応しています」(児玉さん、以下同)

こうしたオバケ調査を始めるきっかけになったのが、不動産管理会社に勤務していたときの不思議な体験だった。
「管理会社に転職して1年半たったころ、査定で行ったワンルームマンションで、入居中のはずの302号室の電気メーターが止まっていることに気づいたんです。
変だなと思い、階段脇の壊れたキーボックスから鍵を取り出して室内に入ると、部屋中に真っ黒なすす汚れがあり、壁や天井、ロフトの奥までL判の写真を剥がしたような白い焼け跡が無数にあって。靴箱からは白い跡と同じ大きさのお札が出てきたので、急いでオーナーに電話したんです」
すると、そこは2件続けて首つりがあった部屋だと聞かされる。さらに、2件目の事故があった直後、前のオーナーはなぜか部屋中にお札をはり、開かずの間にしたうえで売却したので、鍵もないのに入れるわけがないと電話で一蹴されたのだ。
「翌日再び302号室へ行くと鍵もキーボックスも見当たらず、証拠に撮った写真データも真っ黒につぶれていて。どうして入れたのか、今もその謎は残ったままです」
その後、訳アリ物件に行くと302号室と同じにおいを感じるようになったそう。
「ゴミ臭とも腐敗臭とも言い難い、けれども後ずさりしたくなるような他人の家のすえたにおいがするのです。それまでオバケや心霊現象に縁はなく、何かが視えた経験もないのですが、このお札の部屋をきっかけに、わかるようになってしまいました」
驚きで声も出せず息を飲んだ調査とは
管理会社には15年勤め、延べ7000室の物件管理をしてきたが、他にも理由のつかない現象が起こる部屋や建物を20数件は見てきたという。
「そうした物件を自分で徹底的に調べて異常がないことを証明できれば、賃料を戻せるかもしれないと思いまして。独立後、異常現象を科学で解明するオバケ調査を行うことにしたんです」

オバケ調査を始めて間もない2年前の夏、忘れられない体験をした。
「不動産オーナーの知人であるHさんからの調査依頼で、一人暮らしの70代男性が孤独死した築30年の戸建て物件に訪れたときのこと。物件は孤独死した男性の息子が相続し、いい思い出がないから早く手放したいと破格の200万円で売りに出していたそう。
それをHさんが購入し、貸し出すために調査を依頼してきたんです。実際に訪れると見栄えの良い戸建てで、いくら事故物件とはいえ安すぎると違和感を覚えました。男性が孤独死した1階の居間は特殊清掃後にもかかわらず遺体のシミや腐臭がまだ残っていて。とにかく、売り急いでいる感じがしました」
それでも安さの理由が気になり詳しく聞くと、20年前にも2階で母親が死亡していた。亡くなった場所はHさんも知らないという。
「2階を見て回るうち、和室の天井に楕円形の大きなシミを見つけて。その真上には屋根裏部屋があるとわかり、もしかしたら母親はここで死んだのでは? と直感しました」
その夜、1人で調査を実施。室温の確認もあるため、夏でもエアコンはつけない。室温は32度を超えていた。
「深夜1時30分過ぎ、夜中にもかかわらず室温計が急に36度まで上昇したんです。そしてパキッと家鳴りがしたと思ったら、ドンッ!! という大きな音が天井から鳴り響いて。
何か重いものが落ちたのか?と思い、意を決して2階へ駆け上がりましたが、どの部屋も空っぽ。もしかして音がしたのは屋根裏?と思い1階へ戻った瞬間、再びドンッ!! とさっきより大きな音がしたんです。あまりの驚きで声も出せず息をのみました」
そして音の出どころはやはり屋根裏であると確信した。
「その後、室温も下がり無事に朝を迎え、Hさんと合流して屋根裏に入ると、畳2帖分の空間の床に、小柄な人が膝を抱えて寝転んでいるような形のシミを発見。そこは、あの302号室のにおいがしました」
本能的に違和感を覚えたらやめるべき
屋根裏部屋のある和室は、母親が死んだ20年前には息子の部屋だったと思われる痕跡があったことから、一つの仮説が浮かび上がってきた。
「亡くなった場所がわからない母親は、20年前、息子にここへ閉じ込められて息をひきとったのではと。ドンッという音は、霊になった母親が助けてほしくて屋根裏の床を叩いているんじゃと思い……」

Hさんに昨夜の話をして録画映像と音声を確認すると、あの大きな音だけが、なぜか録音できていなかった。
「私が驚いて2階へ駆け上がる様子は映っていたので、迫真の演技だねと言われてしまって。しかし数日後Hさんから電話があり、気になって自分も物件に泊まったら本当に屋根裏から音がして逃げ帰った。すぐに手放したいから1階の事故だけを告知して売却すると言ってきたんです」
それなら屋根裏を塞ぐ工事だけでもしたほうがいいと伝えたが、すぐに売買された。
「購入者は告知事項にない、いわくにいつ気づくのか。今でもふと頭をよぎります。戸建てを購入する際は、屋根裏部屋の有無を確認するのがいいかもしれませんね」
そこで、最後に児玉さん的視点から内見の際に確認しておくべきポイントを聞いた。
「本能的に違和感を覚えたらやめるべき。人間の第六感というんですか。部屋の不具合や居心地、周辺の環境など、最初に感じた違和感はずっと残るものです。また、事故物件は原則発生から3年程度は契約者に告知をする義務があり、隠蔽する業者はほぼいないとは思いますが、気になる方は契約時に確認をとることをおすすめします」
取材・文/井上真規子
児玉和俊さん 株式会社カチモード代表取締役。賃貸不動産経営管理士。賃貸不動産管理業界で7000室以上の不動産管理に関わった経験などをもとに、事故物件の資産価値を取り戻すためのコンサルティングを行う。著書『告知事項あり。』(主婦の友社)は今年ドラマ化された。