
7月3日、NPB(日本野球機構)が、読売ジャイアンツの阿部慎之助監督に対して厳重注意と制裁金10万円を課した。前日の阪神タイガースとの試合における審判の判定への抗議、退場処分されたことへの追加処分となる。
7月2日の甲子園での試合を0−1で落とした巨人だが、阪神の勝利を決定づけた「1得点」をめぐって、両軍ファンの間では現在も論争が起きている。
八回裏の阪神の攻撃、ツーアウト二塁・一塁のチャンスで大山悠輔選手が打ったショートゴロを泉口友汰選手がファンブル。その隙に、二塁ランナーの森下翔太選手が一気に本塁を狙ったプレー。
ホームで構えた甲斐拓也捕手とのクロスプレーになり、タッチを掻い潜りつつベースに触れるも判定はアウト。しかし、阪神・藤川球児監督の「リクエスト」によるリプレイ検証で一転、判定が覆って森下のホームインが認められる。
ベンチで雄叫びを上げてガッツポーズを繰り返す森下と、勝ち越しに喜ぶ阪神ナインの一方で、当然ながら「タッチ」をアピールしていた甲斐は納得いかない表情。ベンチから飛び出して審判団に猛抗議した阿部監督だが、まもなく退場が言い渡されたのだ。
「タッチした、してない」ファン間で論争
在阪球団を担当するスポーツライターによると、
「翌日の『スポーツ報知』紙面では、まさに甲斐がタッチする瞬間を捉えたと思わせる角度の写真を掲載し、巨人ファンがSNS上で“証拠”として拡散。一方、リプレイ検証でも確認されたスロー映像では、甲斐のグローブは森下に触れていないようにも見えます。
またアウト判定の直後、“森下は項垂れるような表情だった”に対し、“キャチャーマスクが腰にぶつかった際の苦悶の表情だった”などと、互いのファンも一歩も引かない様相。“伝統の一戦”に新たな遺恨を残しそう」
奇しくも同日、パ・リーグの試合でも本塁クロスプレーをめぐる「リクエスト」が起きていた。

みずほペイペイドームで行われた、福岡ソフトバンクホークスと北海道日本ハムファイターズの試合。日ハム先発の左腕・加藤貴之投手がホークス打線を0点に抑え続け、0ー1のリードで迎えた九回裏。ワンアウト三塁・一塁の一打サヨナラの場面で打席に入ったのは山川穂高選手。
初球を捉えた打球がレフトフェンスを直撃すると、三塁ランナーがホームインして同点。そして逆転サヨナラとなる一塁ランナー・緒方理貢選手もホームにヘッドスライディングすると、郡司裕也捕手に送球が返ってきてクロスプレーに。
新庄監督は審判団に抗議せず
際どいタイミングながら主審の判定は「アウト」、日ハムは難を逃れたように思われたが、ソフトバンク・小久保裕紀監督がリクエストを要求。するとリプレイ検証の結果、判定が覆って「セーフ」となり、日ハムは2−1でサヨナラ負けを喫したのだ。
山川のサヨナラ打に沸くホークスナインと、ドーム内のファン。まさかの敗戦となった新庄剛志監督だが、審判団に異を唱えることなく颯爽とベンチを後に。それでも試合後、報道陣の取材に応じると、
「セーフかいっ!いや〜、アウトに見えましたけどね。審判が言うなら仕方ない。(加藤は)いいピッチングしましたけどね。完封返しをしたかったけど、こればっかしは(苦笑)」
覆された判定に悔しさを滲ませつつも、九回まで好投を続けた自軍の加藤を労ったのだ。
同じ日に起きた両リーグでのクロスプレーをめぐる「リクエスト」。互いに敗戦の将になった阿部監督と新庄監督だが、前者は審判に食い下がって退場処分になったことで大きく報じられ、結果としてファン同士を対立させる騒動を招いている。
一方の新庄監督、スポーツマンとしての潔さが際立ったように見えるがーー。

身を挺して抗議する必要があった
「阿部監督の抗議もチームスポーツの指揮官として当然のことで、しかも自身も捕手だけに甲斐選手の気持ちは痛いほどわかる。選手が“絶対にタッチした”と言うのならば、選手のプライドを守るためにも身を挺して抗議する必要があったのでしょう。
今回の一件はビデオ判定による結果とはいえ、審判による判定に至った説明があってもよかったように思います。1点が試合を決める展開で、なぜ“アウト”が一転して“セーフ”になったのか、あの場で説明することで少なくとも阿部監督、場内を落ちるかせることはできたのかなと。
それと私個人の捉え方ですが、新庄さんのようなスマートな監督もいいですが、阿部監督の身体を張った抗議は、選手にも“監督のために次こそ”との気持ちを奮い立たせる“プレー”になったことでしょう」(前出・ライター)
試合後、自身が受けた退場処分を振り返り、
「してはいけないことをしてしまった。審判にも、選手にも申し訳ない。必死にやっている選手がいて、自分を失って熱くなってしまった」
反省しきりだった阿部監督。さらに翌3日、試合前のメンバー表交換の際に審判団、そして試合を途中で妨げてしまったことへのお詫びか、藤川監督にも帽子をとって深々と一礼した阿部監督。この潔い態度もスポーツマンのお手本だろう。