
近年、日本各地で豪雨や台風による被害が深刻化している。ゲリラ雷雨、集中豪雨、強大化する台風―。「地球温暖化が要因のひとつ。その意味では猛暑も災害です」と話すのは気象の専門家。異常気象は、もはや「まれな現象」ではなく「日常」として降りかかってくる脅威だ。今夏、防災意識を最大級に高めて命を守ろう。
朝の集中豪雨の発生頻度が過去47年間で7.5倍に
「地球温暖化で雨の降りがより激しくなっています。スーパー台風や集中豪雨、“ゲリラ雷雨”などが増え、一方で暑さも災害レベル。8月は注意が必要です」
警鐘を鳴らすのは、気象庁気象研究所主任研究官・学術博士の荒木健太郎さん。雲研究者として第一線で活躍している。
昨年の夏も、台風や記録的な豪雨が相次ぎ、各地で浸水被害や土砂崩れなどが起きた。特に注意したいのは、台風から遠く離れた場所でも、地形や前線の影響で大雨になる場合だ。
「遠隔豪雨(遠隔降水)という現象があり、台風が遠くにあっても油断せず、常に最新の気象情報を確認してください。“前線が台風に刺激されて活動が活発化”と表現されることがありますが、正確には台風由来の多量の水蒸気が流入して前線の近くで雨雲が発達するのが主な要因です」(荒木さん、以下同)
遠隔豪雨の後に台風の本体がやってくると、さらに雨量が増えて大規模な水害が発生することもある。積乱雲が連なると狭い範囲に長時間強い雨が続き、雨量が100~数百ミリにもなる集中豪雨が起こることがある。
「線状降水帯とは、積乱雲が次々と連なって発生し、長時間にわたって狭い範囲に集中して大雨をもたらす現象です。同じような場所で雨が降り続くため、集中豪雨の原因となります」
大雨には発生しやすい時間帯があるという。
「明け方から朝にかけて集中豪雨が発生しやすいです。最近の研究により、梅雨の九州では明け方から朝の集中豪雨の発生頻度が、過去47年間で7.5倍にもなっていることが判明しました」
まだ寝ている人の多い暗い時間帯。周囲の状況を確認しにくく、避難所などへの移動にも危険が伴う。
「高齢者や乳幼児が家族にいるなど、避難に時間がかかりそうな人は、大雨が予想される場合、前日の明るいうちから避難するのがベストです」
ハンディファンだけを使用すると逆効果になる場合も
“ゲリラ雷雨”と呼ばれるような局地的な大雨は、ピンポイントで発生日時を予測するのは難しい。しかし、雲の様子で危険を察知できることがある。
「積乱雲の発生や接近を知らせる特徴的な雲(頭巾雲、乳房雲、かなとこ雲など)が現れたら、スマホなどでレーダーの情報を確認して雨雲の動きを把握する習慣をつけましょう。特に、雷の音が聞こえたら、すでに積乱雲が近くに迫ってきているサインです。速やかに屋内に避難してください。
多くの人が“雷の音と雷光までの時間が何秒か”で、雷雲がまだ遠くにあると思いがちですが、これは大きな誤解。雷鳴が聞こえたら、いつ落雷してもおかしくない状況です。すぐに建物か自動車の中に避難しましょう」
昨今では夏の暑さがひどくなっている。最高気温が35℃以上の猛暑日が増えており、熱中症による死者が年間1000人超の年も珍しくはない。猛暑も災害と考え、適切な暑さ対策をする必要があると荒木さんは話す。
「地球温暖化の影響で、今後も一層の暑さへの備えが重要になります。特に高齢者は体温調節機能が低下しているため熱中症にかかりやすい。住み慣れた自宅での発生が多いので、ご家族は冷房の使用状況を確認し、遠方であっても電話などで連絡を取り合うことが大切です」
暑かったら我慢をせずに冷房を使い、こまめな水分補給、汗をかいたら塩分補給も忘れずに。我慢すると命が危ないことを肝に銘じたい。
暑さ対策のグッズとして、手で持って送風できるハンディファンがよく使われている。しかし、気温が35℃以上のときに使うのは注意したほうがよいそう。

「特に暑い日には、ハンディファンだけを使用すると、逆効果になる場合もあります。人間の身体は汗が蒸発するときの気化熱で体温を下げようとします。ハンディファンだけだと身体の表面の温度は下がっても体内の温度を下げる効果は低く、体温調節を十分にできない。
気温が35℃以上では送風される空気そのものが熱いため、温風を当て続けると熱中症の危険度が高まります。濡れたハンカチやタオルを首に巻き、気化熱を利用するなど、ハンディファン以外の対策も併用しましょう」
ちなみに、ハンディファンを落とした場合、バッテリーが破損していたら火災の危険性があることも留意したい。
避難所に行くことだけが“避難”ではない
熱中症の危険度の目安として、湿度や日射、気温などをもとに計算した暑さ指数を確認しておこう。
「環境省の熱中症予防情報サイトで最新の熱中症警戒アラートの発表状況や暑さ指数を確認し、日中の暑さ対策の参考にしてください。午後には翌日の情報も出るので、天気予報とあわせて確認することで、より効果的な対策が可能です」
暑さ指数が28以上で激しい運動は中止で、31以上では運動は原則中止が推奨される。暑さ指数33以上では熱中症の危険度が極めて高く、このようなときは熱中症警戒アラートが発表される。
もし、熱中症かもという症状が出たら無理せず対処を。
「めまいや筋肉痛だけでなく、ちょっとした気分の悪さや不快感も熱中症の可能性があります。暑い日に不調を感じたら、涼しい場所で水分をとり、休息を」
豪雨などの災害に遭った場合、避難所に行くことを想像する人が多いかもしれないが、避難所に行くことだけが“避難”ではない。
「自宅が危険ではなく、備蓄が十分ある場合は、自宅にとどまる在宅避難がよいでしょう。プライバシーが守られ、感染症の危険性が低く、寒さ・暑さ対策をしやすいです」
災害時、気にしてほしいのはトイレの問題。
「トイレは食事と同様に切実です。トイレが使えなくなることも想定し、非常用トイレの使い方を知っておいてください。災害時は1人1日5回のトイレ使用を目安に、まとめて買える袋や凝固剤などの非常用トイレセットを用意しておきましょう。
庭に穴を掘るなどはやめてください。衛生上の問題があり、すぐに汚物だらけになって大変なことに。環境にも影響します」
異常気象が常態化する昨今。まずは日常的に、雲の変化や気象情報をこまめにチェックし、家族で避難について話し合っておくことが大切だと荒木さん。空を見上げたとき、その雲が私たちに何を告げているのか知っておこう。
こんな雲が現れたら注意!



荒木健太郎さん 研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。専門は雲科学、気象学で、気象災害をもたらす雲のしくみの研究に取り組んでいる。映画『天気の子』などの気象監修も手がけるほか、テレビなどの出演も多数。