映画『RRR』(c)2021DVVENTERTAINMENTSLLP.ALLRIGHTSRESERVED.

 日本社会の現状に、「遅れてる! 海外ではありえない!」なんて目くじらを立てている人もいますが……。いえいえ、他の国の皆さんも基本は一緒!「衝撃」「笑える」「トホホ」がキーワードの世界の下世話なニュースを、Xで圧倒的な人気を誇る「May_Roma」(めいろま)こと谷本真由美さんに紹介していただきます。インド映画『RRR』が、イギリスで歓迎されない理由とはーー。

人種間の“溝”

 イギリスの歴史教育は、光の側面しか教えないので、インドの植民地支配についても同様です。そのため、ここ日本でも大ヒットを記録したインド映画『RRR』は、イギリスでは他国とはちょっと違う形で紹介されています。

 同作は、イギリス植民地時代のインドが舞台で、イギリス軍にさらわれた幼い少女を救うというストーリーです。平たく言えば、イギリスが悪役。中国における抗日映画の日本軍のように描かれています。イギリスにとっては耳の痛い話ですから、そもそも『RRR』が取り上げられることはほぼなく、紹介されるにしても、「現在のモディ政権の愛国的な考え方を推進するために作られた」という文脈で扱われ、むしろインド国内の不安定化を懸念する形で報じられるほど。なんとも都合よく解釈するわけです。

映画『RRR』(c)2021DVVENTERTAINMENTSLLP.ALLRIGHTSRESERVED.

 興味深いのは、イギリスに移住したインド系住民も『RRR』にさほど好意的ではないという点です。彼らは、「イギリスは文化が進んでいるから、自分の子どもによい教育を受けさせられる」などと考えていて、インド的ナショナリズムを思いのほか嫌がっています。実際、イギリスでインド文化を紹介する際も、シタールなどの古典音楽やヨガ、アーユルベーダといった、政治性が出ないものが中心です。

 ただし、イギリス人との対立がないというわけではありません。先日、インド発ロンドン行きのエア・インディア機の墜落事故が起きましたが、イギリスでも大きく取り上げられました。実は、事故で亡くなった乗客の多くが、イギリス国籍を持つインド系の人々。そのため、イギリス人が亡くなったと世界的に報じられているわけですが、イギリスのネット上では、「彼らはイギリス人ではなくてインド人だ」「エア・インディアの事故なのに、なぜイギリスの事故のように報じるんだ」という批判的な意見が噴出しています。

 一方、イギリス国籍を持つインド系の人々は、「私たちはイギリス国籍なのだから、イギリス政府が責任を持って助けるべきだ」と強い調子で要求。これを受けて白人系のイギリス人からは怒りの声が上がり、移民問題における人種間の溝が深まる事態となっているほどです。なお現在、インド系住民は総人口の約2・5%といわれています。

 事故で生き残った唯一の男性も、イギリス国籍を持つインド系住民です。今後、彼の言動は、インド系住民たちに大きな影響を及ぼすかもしれません。

谷本真由美 たにもと・まゆみ 1975年、神奈川県生まれ。著述家。元国連職員。ITベンチャー、コンサルティングファーム、国連専門機関、外資系金融会社を経て、現在はロンドン在住。X上では、「May_Roma」(めいろま)として舌鋒鋭いポストで人気を博す。著書に『世界のニュースを日本人は何も知らない』シリーズ(ワニブックス【PLUS】新書)など著書多数。