
「数十年にわたる政治における怠慢のツケが一気に噴出した結果だったと思います」
7月20日に行われた参議院選挙について、こう語るのは政治ジャーナリストの青山和弘氏。
消費税減税の障壁
バブル崩壊後の約30年のほとんどを自民党が政権を握ったが、賃金は上がらず、円安が進んでしまった。その結果、日本は“後進国”ともいわれるように。
政権与党である自民・公明両党の敗北は、日本経済が成長しない中で生活してきた人たちの不満が爆発したことも原因だと青山氏は分析する。
今回の参院選で大きな争点の一つとなった消費税の減税。減税は行わず、給付金配布を公約として掲げた自民・公明両党は敗北。現金給付のメリットについて、株式会社「第一生命研究所」経済調査部に所属する首席エコノミストの永濱利廣氏に聞くと、
「現金給付のメリットは、比較的迅速に対応できることです」
続けてデメリットの多さを指摘する。
「デメリットは、余分な経費がかかるということです。銀行振り込みを行うと、振り込み手数料がかかります。さらに、給付金を使おうが、使わまいが関係なく、勝手に金融機関の口座に振り込まれますので、経済活性化の効果が乏しくなる可能性があります」

しかし、消費税減税の実現への道のりも簡単ではないようで……。
「消費税減税を実現させるには、法律から変える必要があるんです。国会の衆議院、参議院で過半数を超える賛成を得なければならない。また、準備期間も必要で、早くて2026年4月か、さらに遅れて同じ年の10月以降になる可能性があります」(前出・青山氏、以下同)
この消費税減税には、野党の団結が不可欠だという。
「野党が掲げていた減税率や減税対象は、それぞれバラバラです。法律を通すためには一致できるところを見つけて、過半数の勢力を集めなければなりません。
例えば、立憲民主党と国民民主党は、双方とも消費税を減税するという方向性は一緒です。それならば、お互いに知恵を絞って妥協点を探り出すことができれば、減税は実現するかもしれない。野党の姿勢が問われます」
消費税減税がもたらす経済効果
消費税減税は、実現に時間がかかるものの、経済効果が見込めるという。
「消費税減税は、モノを買った人にのみ恩恵があるものです。なので経済効果は、現金給付より消費税減税のほうが圧倒的にあります」

一方で、全消費税の廃止を掲げたのが、日本共産党、れいわ新選組と参政党。ただし、極端な減税は“論外”だと前出の永濱氏は指摘する。
「極端な減税をしてしまうと、弊害が起こる可能性があるからです。“一律5%”や“段階的な廃止”をすれば、国債の格下げリスクが高くなってしまう。立憲民主党や日本維新の会が掲げる“最長2年行って、また戻す”という案も効果は低いでしょう。
食料品の消費税を下げるのであれば、社会福祉政策として恒久的に下げることが必要だと思います。私が一番望ましいと考えるのは、食料品の消費税を段階的に下げることです」
今回掲げた公約は、実現に向かうのか。敗北を喫した自民党に聞いてみると、
「今後の政策決定にあたっては、野党も含めた、より広範な合意形成が不可欠となります。今回、公約に掲げた給付金の実施時期や財源確保を含む実施方法についても、与野党協議を通じて早期の実現に努めてまいります」
と、回答した。
野党第1党の立憲民主党は、公約どおり時限的に食料品の消費税をゼロにすると明言したうえで、減税実施の時期については、
「来年4月からの実施を目指しています」
との意向を示した。
大幅に議席を増やした参政党は、消費税の段階的廃止を目指すと明言。およそ30兆円必要な財源については、医療費給付の削減、郵政再公営化や国営ファンドによる収益を活用するとした。そのほかの予算を見直したうえで、足らない場合は国債発行で補填するという。
実現のカギは「ほかの党との協力」
各党が選挙前の公約として掲げていた消費税の減税率はバラバラ。前出の青山氏には、消費税の仕組みに対して次のように説明する。
「今の日本には8%の軽減税率があります。しかし、標準の消費税は10%なので、差は2%しかありません。これではほとんど意味がない。世界中を見ても、こんなに差がない国は日本だけなのです。
標準税率の半分だったり、食料品は0%という国も多い。軽減税率を採用している国は標準税率が20%だったりと、日本より高い国が多いですが、それにしても複雑な軽減税率を取り入れているにもかかわらず、その差が2%しかないのは意味がありません」

家計の消費支出に占める食費の割合を指す「エンゲル係数」が43年ぶりに高水準になった。これは“食べるだけで精いっぱい”であることを示しているとも。
「エンゲル係数を考えると、食料品の軽減税率は5%でもいいし、ゼロにしたりと、もっと差をつけていいと私は思います。物価高対策の前に、税の仕組みを改善するべきだと考えます」(同・青山氏)
今回の参院選の結果を受けて、現金給付も消費税減税も実現しない可能性が高いと語るのは、前出の永濱氏。“ポスト石破”の動きも考慮し、このような分析をする。
「今回、現金給付を打ち出した党が選挙で負けたわけです。よって、現金給付の可能性は低いと考えられます。自民・公明両党が、ほかの党と協力し合うことが重要になります。また、石破首相が退任し、次に就任する首相が誰になるかで、政策が変わる可能性があります。
今回の選挙結果を見て、最も自然な流れで協力があり得るのは国民民主党だと考えます。ただ、国民民主党の公約では、消費税減税の優先順位が高くありません。消費税減税ではなく、ガソリン税の暫定税率廃止や、基礎控除の引き上げが実現する可能性があります」
政府の物価高対策は急務だ。参院選で示された結果を見て、成長しなかった30年からどう脱却するのか……。国民の懐を一刻も早く豊かにしてほしい。