※画像はイメージです

「中年以降の筋力低下は大きな問題です。日常の忙しさで運動機会が少ないことに加え、体力の衰えで疲れやすく、また、すぐには筋トレ効果も出ないことからやる気が続かないのです」

健康と老化防止には筋肉が欠かせない

 と話すのは、各種アスリートへのトレーニング指導やトレーナーの育成を行う、坂詰真二さん。

「筋トレをすることで、日常の動作がラクになり、血流が良くなって慢性的な疲れが和らぎます。筋力を低下させないことは、人生の後半をアクティブに楽しむために必須です」(坂詰さん、以下同)

 しかし、坂詰さんが提唱する筋トレ(次ページ参照)は、ハードなトレーニングではなく、特別な運動能力も必要としない“ゆるさ”が特徴だ。

「シンプルな反復で難易度が低く、自宅でできるものばかりです。運動が苦手な人、運動経験が少ない人ほど、効果が出やすい傾向があり、シニア世代でも無理なく続けることができます」 

 筋肉を鍛えるのは、引き締まった理想のスタイルを手に入れるためだけではない。

「筋肉量のピークは20代。その後は1年で0・5~1%ずつ減っていき、40代になると筋肉量は20代の90%まで落ちます。基礎代謝が低下することで脂肪が蓄積し、中年太りや生活習慣病のリスクが高まっていきます。60代になると、筋肉量は20代の70%までダウン。

 このように筋肉が減れば関節や骨に負担がかかり、歩行に支障が生まれ、要支援や要介護リスクが高まる“ロコモティブ・シンドローム”に陥るおそれも出てきます。手遅れになる前に、筋トレ習慣をつけておくのが得策。50代はそのカギを握ります」

 冷えの予防や免疫機能のアップ、メンタルの安定も期待でき、さらには脳の血流促進のため、認知機能向上にも役立つという。特に、夏場は積極的にやってほしいと坂詰さん。

「基礎代謝が向上するとともに体温調節機能が改善されて、暑さに耐えやすい身体に。また、筋肉は水分を多く含むので、筋肉量が増えると水分保持能力が上がり、脱水のリスクが減ります」

全身の筋肉の約7割が下半身に集まる

「全身の筋肉を一気に鍛えるのは大変なので、優先順位を決めて行います。まずは下半身。人間は二本足で立って上半身の重みを支え、姿勢を保ちながら活動するので、下半身には大きくて強い筋肉がたくさん集まっているのです。その量は身体全体の60~70%にも。ところが、強いがゆえに衰えやすい」

 現代人は座っている時間が長く、歩く時間が少ないため、年齢とともに下半身の筋力低下が顕著に。

「下半身の筋肉が衰えると、筋肉が身体を支えられず、転倒したりつまずきやすくなったりします。日頃からウォーキングをしているからと、筋トレの必要性を感じない人もいると思いますが、ウォーキングだけでは残念ながら下半身の筋肉を十分に鍛えることはできません。

 特に、速筋という立ち上がりや階段の上り下りに必要な筋肉は、ウォーキングのような有酸素運動では使われないため鍛えにくい。効率的に筋肉を増やすには筋トレや負荷の高い運動を心がけて」

坂詰真二さん

 そこで、坂詰さんが推奨するのがダンベルやバーなどの重りを一切使わないスクワット。毎日行う必要もないという。

「筋トレはやればいいというわけではなく、頻度が多すぎると逆効果。トレーニングによって強く刺激された筋肉は、疲労が蓄積して育たないんです」

 筋トレ後は身体を休め、糖質やタンパク質などの栄養摂取を心がけて、回復を促そう。疲れが取れたら、前回よりも少し負荷をかけてトレーニングを。この繰り返しで、筋肉は順調に成長する。

 効率的なサイクルは48時間~72時間、つまり毎日よりも、2、3日おきにトレーニングをしたほうが、むしろ結果が出やすい。行う際は正しい方法とフォームで継続することが重要。

「高齢者の場合は、関節や骨の老化が進み、機能が低下している可能性があるため、関節に違和感や痛みのない範囲でトレーニングしましょう」

 筋トレは何歳からスタートしても遅くはなく、動かさなければ筋力は落ちていく一方。だからこそ、一日でも早く始めるのが正解だ。一生歩ける足腰、元気な身体と気持ちを手に入れるためにも早速、次ページのトレーニングを始めてみよう。
 
※夏場は水分補給を欠かさずエクササイズを

体内の約60%は水分でできている。それを下回ると水分不足になり、筋肉のけいれんや疲労感などの不調が。汗をかきやすい運動中は利尿作用がある、緑茶や紅茶、コーヒーを飲むことは避けて。麦茶やハーブティーなど、ノンカロリー、ノンカフェインであればOK。ダイエット目的なら無糖の炭酸水。満腹感があり食事の前に飲めば食べすぎの予防にも◎

体力に自信がなくても大丈夫 中高年向けトレーニング

家事や仕事の隙間時間でできるトレーニングをご紹介。筋肉や体力に自信がない世代でも、効率的に筋肉を鍛えることができる。最初からがんばりすぎず、慣れてきたら回数を増やしていこう。

一生歩ける足腰を目指す!【階段トレーニング】

中高年向けトレーニング【階段トレーニング】

1~2フロアで1セットとして週2~3回
階段の前に立ち、2段目に左脚をのせる。背筋を伸ばしたまま、やや前傾姿勢で、できるだけ左側のお尻と太ももの筋肉だけで身体を引き上げる。両脚をそろえたら、右脚で同様に上り、左右を繰り返しゆっくり上っていく。

下半身を効率的に鍛えて体幹もアップ【スクワット】

●1セット 4~10回
●休息1分(3セットまで)

STEP1
背もたれがあり安定感のある椅子を用意。座面はクッション性があり硬くないものを選ぶ。まず、浅く腰かけ脚は腰幅に開き手前に引く。手を胸の前で交差させ、背すじを伸ばして身体を前に倒し、両脚に体重をのせる。

STEP2
息を吐きながら1秒で立ち上がり、息を吸いながら2~4秒かけて腰を下ろし元の形に戻る。この動作を4~10回続けて1セットとし、1分間の休息を挟み、できそうならもう1セット。行うのは3セットまで。

「ふくらはぎ」に刺激を与えてむくみも解消【かかと上げ】

●1セット 4~10回
●休息1分(3セットまで)

STEP1
背もたれのある椅子を用意し、壁に寄せて動かないように固定。椅子の一歩後ろに立ち、背もたれを両手で持ち、肘と膝を伸ばす。頭から脚までがまっすぐ一直線になるように意識するのがポイント。右足首を左足首にかけ、息を吐きながら1秒かけてつま先立ちになる。

STEP2
息を吐きながら1秒で左脚のかかとをできるだけ高く上げ、つま先立ちに。息を吸いながら2~4秒かけて元の形に戻る。4~10回繰り返したら、1分間の休息を挟み右脚も同様に。これを1セットとし、行うのは3セットまで。

最新の情報をアップデート!筋トレQ&A PART1

筋肉やトレーニングに関する疑問を坂詰さんがアンサー。正しい知識を知るとトレーニング効果もメキメキ!

Q:どれくらい続ければ効果が出てくる?

A:「まずは2か月。目に見える変化は3か月からです」

「短期間で筋トレを諦めてしまう人に多い理由が、“すぐに効果が実感できない”ことです。実は、筋肉がつくまでは最低でも1か月かかるので、効果が表に現れにくいのです。階段をラクに上がれたり、いつもの荷物が軽く感じたりと、筋力アップを実感できるのもこの期間。

 しかし、筋肉量の増加はゆるやかな状態です。この時期を乗り越えれば、筋肉が肥大するようになり、しっかりとしたハリを実感できるようになります。最低でも2か月、遅い人だと3か月で効果が出るのでコツコツと続けましょう」

Q:筋トレ後にするべきことは?

A:「筋トレ後すぐの“ストレッチ”で効果が倍増します」

「実は、筋肉はトレーニング中ではなく、副交感神経が優位になっているリラックス時に成長します。筋トレ後は身体のスイッチをオンからオフに、筋肉を脱力させリラックスするためにも、ストレッチがおすすめです。

 緊張した筋肉をしっかり伸ばすことで、血流が促進され、睡眠中の筋肉の合成がスムーズになり効果が倍増。また、ストレッチは柔軟性を高め、正しいフォームをつくりやすくするので、筋トレとセットで取り組みましょう」

※画像はイメージです

※実は悪影響!トレーニング直後の入浴に注意
熱を逃がそうと皮下や末梢の血流が増え、筋肉の血流が減ってしまうため、疲労物質の除去が遅れてしまう。トレーニング後は、ストレッチで疲労回復を促してから入浴を。疲れが取れやすく、筋トレの効果を最大限に引き出すことができる

Q:筋肉が1kgつくと何歳若返る?

A:「マイナス10歳も夢じゃない!」

「筋肉は10年で約1kg度減っていくといわれています。逆にいえば筋肉を1kgつければ10歳若返るということ。つまり、筋トレは身体を引き締めるだけではなく、身体の内側から若さと健康をサポートしてくれるんです。鍛え、増やした筋肉が関節や骨を守り、しっかりと身体を支えることで、運動能力の低下も防ぎます。

 さらには、骨をつくる骨芽細胞の働きを活発にし、成長ホルモンの分泌を促すため、骨粗しょう症の予防にも最適。肌のターンオーバーを整え、肌トラブルを防ぐといった美容的効果も期待できるので、筋トレは健康と美しさへの最短ルートですね」

最新の情報をアップデート!筋トレQ&A PART2

Q:運動が苦手な人のほうが筋トレに向いている?

A:「運動が苦手な人こそ、効果が出やすいんです」

「運動が得意な人ほど、無意識に全身の筋肉を連動させる動きをしてしまう傾向にあります。そのため、筋トレをしても負荷が分散してしまい実は筋肉がつきにくいんです。一方、運動が苦手な人や運動経験が少ない人は、ひとつの筋肉だけを動かすことが得意で、鍛えたい部位を効果的に鍛えることができます。

 さらには、筋トレ経験がない人は、正しいフォームを忠実に覚えようとするため、余計な動きを加えることなく効果が出やすい傾向もあります。未経験だからと壁をつくらずに、実践する価値がありますよ」

※画像はイメージです

Q:筋肉がつくと病気の予防になる?

A:「体温を上げ免疫力をアップさせます」

「筋肉は熱発生装置でもあるので、減少すると熱の発生量が減ります。結果、身体が冷えやすくなってしまうんです。血液中には、免疫機能を担う白血球があり、体内に侵入したウイルスや細菌を無毒化する働きをしていますが、血流が滞り冷えると白血球の流れも妨げられ、免疫力が低下。

 そのため、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなってしまう。筋トレを行うことで、代謝が上がり身体の冷えを防ぐとともに、免疫機能をサポートできる、いわば“治療薬”みたいなものなんです」

※関節に障害や痛みがある場合は、必ずかかりつけの医師に相談をしてください

坂詰真二さん スポーツ&サイエンス代表。各種アスリートへの指導や後進トレーナーの育成に努めながら、雑誌『Tarzan』(マガジンハウス)や自身のYouTubeチャンネルなど、多くのメディアで運動指導を行う。『眠れなくなるほど面白い 図解 筋肉の話 筋肉のギモンを専門家が解説!』(日本文芸社)など著書多数。

イラスト/内山弘隆 取材・文/小林賢恵