身体と心の不調を引き起こす「目の日焼け」対策

「紫外線は目にも悪影響を及ぼします。ドライアイや白内障につながるだけでなく、自律神経や筋肉に作用し、精神的な疲労感や筋肉疲労をも引き起こします」

目から受ける紫外線が脳にも悪影響

紫外線は脳にダメージを与える

 そう話すのは、眼科医の有田玲子先生。シミやシワ、皮膚がんのリスクなど、紫外線による肌への影響は広く知られ、近年では老若男女問わず日焼け止めを塗る人も多くなってきた。しかし紫外線が目にもたらす弊害は、まだあまり認知されていない。

日光を浴びることで、目は紫外線を取り込みます。そして目の表面にある角膜や水晶体で紫外線の多くを吸収しますが、一部は目の奥の網膜まで達します。そもそも網膜とは、脳から発生した組織。だから網膜に届くということは、脳まで達しているといえるのです。

 脳は自律神経の中枢で、すべての指令を出していますが、そこに紫外線が届くと、活性酸素が発生します。活性酸素はDNAを傷つけたり細胞に炎症やダメージを与え、タンパク質を変性させてしまう怖いもの。

 それが大量に発生すると、自律神経と筋肉の両方に作用してしまいます。だから日差しを浴びすぎると身体が疲れるだけでなく、精神的にもだるくて無気力になるのです。これを紫外線疲労と呼んでいます」(有田先生、以下同)

失明につながる病気の危険性も

脳のダメージによる影響は自律神経や運動神経にも及び疲労状態に※写真はイメージです

 紫外線は波長の長さにより主にUV―BとUV―Aに分けられるが、それぞれ目に及ぼす影響は異なる。

「波長が比較的短いUV―Bは、目の表面で炎症を起こします。角膜が傷だらけになって充血し、目が開けられないほどの痛みや、涙が止まらなくなる、角膜炎が主な症状です。ほかには目の乾きや見えにくさを感じるドライアイ。これらはいわゆる、目のやけどのような状態ですね。さらには結膜という白目の組織が、黒目である角膜まで入り込み視力低下や乱視の悪化を引き起こす、翼状片という病気にもつながります。老眼や白内障が進行し、視力が低下する可能性はあります」

 一方のUV―Aは波長が長く、水晶体を超えて網膜まで届いてしまう。

「長年紫外線にさらされることで蓄積し、網膜の物を見る中心部に異常を来す加齢黄斑変性症など、失明の危険をはらむ目の病気を引き起こすこともあります」

 さまざまな弊害のある紫外線。加齢により進行する白内障など、身近な目の病気にも関わるだけに、日頃から注意が必要だ。気象庁が観測した、紫外線が人体に与える影響度を表す指標・UVインデックスによると、5~8月が最も危険な時季だということもわかっている。

「まさに今がピークです。特にゴルフやテニスなどアウトドアスポーツをなさる方は気をつけましょう。BBQや海でのレジャーも増えますし、日常での洗濯物を干す、自転車移動などちょっとした時間にも紫外線を浴びるんです。紫外線は1分単位で目に悪影響を及ぼすので、常に目を守る必要があります。目に紫外線を浴びただけで、肌まで日焼けすることもわかっているんです」

紫外線対策は薄色サングラス

紫外線対策は日傘だけでなく、薄色のUV加工サングラスも必需品※写真はイメージです

 具体的な対策は、サングラスが最も効果的だという。しかし意外な盲点もあるので注意したい。

肌には日焼け止めを塗るなど予防が可能ですが、目はそれができず、いわば丸裸の状態。そこでUVカット効果のあるサングラスをかけましょう。カット率は100%に近いほど良いですね。さらにUV―AとUV―Bの両方をカットする“UV400”表記のあるレンズを選びましょう。

 ただし、レンズの色が濃いほど紫外線をカットすると思われがちですが、それは大きな間違い。濃い色のレンズは暗いので、瞳孔が開いてしまいます。瞳孔が開くとより多くの光が網膜まで到達し、脳がダメージを受けてしまう。サングラスは薄い色がおすすめですし、透明のレンズに紫外線カット加工を施した眼鏡も良いです。UVカット加工のコンタクトレンズもあるので、それを装着したうえで、サングラスをかけるのも工夫のひとつです

 そのほかにも、つばの広い帽子や日傘をサングラスと併用する、紫外線量の多い午前10時から午後2時の時間帯を避けて外出するなどの対策があげられる。しかし、それでも大量の紫外線を浴びた場合は、何を行えばよいのだろうか。

「まず冷やすことが大事です。肌が急激に日焼けすると、やけどのような状態になりますよね。目にもそれが起こるので、保冷剤でしっかり冷やしましょう。大量に発生した活性酸素を減らすため、ビタミンCをとることも大切。レモンやキウイ、いちごなどのフルーツや、サプリメントで補うのも良いでしょう」

 ほかには植物油やごま、アーモンドなどに含まれるビタミンE、緑黄色野菜や鮭などに含まれるカロテノイド、ポリフェノールなどの栄養素も抗酸化作用があるといわれている。そして、涙を流すことも重要だという。

「目薬をさすよりも、ご自身の涙で目を潤しましょう。涙には目薬以上に炎症を抑えたり免疫力を上げる効果があり、ビタミンなどの栄養物質も含まれています。そして涙を流すためには、まばたきが重要。涙は水と油からできていますが、まばたきをして上瞼と下瞼がくっつくことではじめて、涙腺からは水が、マイボーム腺からは油が出る仕組み。人間が無意識に行うまばたきにも、重要な役割があるんです」

目の健康を守る“まばたき運動”

 有田先生が推奨する“まばたき運動”を行いたい。これには上瞼と下瞼を囲む眼輪筋を鍛える効果が期待できる。

方法は簡単で1. 2秒間目を閉じる 2. 軽くまばたきを2回行う 3. ギューッと2秒間目を閉じる 4. 目を開いて、まぶしいときのように半眼にする 4. 目尻と眉の間を指で押し上げ、狐目をしながら、瞼を閉じようとするまでが1回だ。

「1セット5回を朝昼晩行いましょう。パソコンやスマホを使うときは、1時間に1回行うのが良いですね。3では眉や目尻にシワを寄せるのではなく、上瞼を意識して、瞼に力を込めましょう。4では下瞼を上にあげるよう意識、5は上瞼を固定し、強制的に動かす筋トレだと思いましょう」

 人間のまばたきの回数は1日約1万5千回、1分間で20回程度とされるが、パソコンやスマホを使うと1分間に4回ほどまで減ってしまう。

「デジタル機器を使うことで、上瞼と下瞼がしっかりくっつかない不完全瞬目が増えているという報告もあります。これは眼輪筋の衰え、つまり瞼の運動不足が原因です。不完全瞬目が増えると涙の表面が凸凹になり、ドライアイになって視力が低下したりピントが合いにくくなってしまいます。紫外線対策としてだけでなく、日頃からまばたき運動でケアを行い、目の健康を心がけることが重要です」

教えてくれたのは有田玲子先生

眼科専門医・医学博士、有田玲子先生。
眼科専門医・医学博士。東京大学眼科臨床研究員や慶應義塾大学眼科学教室非常勤講師を経て2012年に埼玉県さいたま市・伊藤病院の副院長に就任。ドライアイ、特に涙油の専門家で、YouTubeチャンネル「眼科医 有田玲子先生のドライアイ診察室」のわかりやすい解説が好評。

<取材・文/植田沙羅>