
東京都豊島区のJR池袋駅西口から徒歩約3分の繁華街にある雑居ビル。2階に寿司店が入居するビル前にパトカーが3台駆けつけるなど物々しい雰囲気になったのは、7月25日の夕刻だった。
「怒りが爆発した」
「被害者らしき人がブルーシートで目隠しされて救急車に運ばれ、救急隊員が心臓マッサージをしている動きがシート越しにわかりました。警察官が足にビニールカバーをつけて階段を上っていったので“これは事件だよね”と話していました」
と、近隣の飲食店で働く女性は緊迫した様子を振り返る。
搬送先の病院で午後5時30分に死亡が確認されたのは、この寿司店に勤務する従業員・岩田知幸さん(32)。開店準備中の店内で岩田さんを刺殺したとして警視庁池袋署が逮捕したのは同僚の従業員・石岡雅人容疑者(56)だった。
「店にあった刃渡り約30cmの調理包丁で岩田さんの首や胸、腹部などを10か所以上突き刺すなどして失血死させた疑いです。店内にはほかに複数の従業員がいましたが、言い争う声を聞いておらず、いきなり刺した可能性があります。包丁は柄の部分で刃が折れるなど強い殺意が見受けられます」(全国紙社会部記者)
石岡容疑者は犯行直後、近くの交番に「人を刺した」と出頭。警察の取り調べに対し、
「日頃から関係がうまくいっておらず、怒りが爆発した」
と供述している。
同店の営業時間は午後5時から翌朝4時まで。板前4、5人とホール係3人ほどで回していたようだ。
「石岡さんも岩田さんもホールスタッフです。お客さんを席に案内したり、注文取りやドリンクの提供などを担当していて寿司は握りません。石岡さんはもともと別の店舗で働いており、約3年前に池袋西口店に異動してきました。
ふたりの仲が悪いのは店では知られていたようです。石岡さんは仕事をきっちりこなし、岩田さんはキビキビとはしていませんでした」(常連客の男性、以下同)
容疑者の“意外な一面”
石岡容疑者は穏やかな性格で、キレたり後輩を叱る姿は見たことがないという。
「石岡さんといえば、高校野球マニアですよ。地元の千葉や、埼玉の予選をよく観戦して、試合展開や球児の特徴を教えてくれました。“きのう観戦に行ってきましたよ。9回裏に……”と楽しそうに話していたのに。毎年、甲子園に行っていましたし、事件は本当にショックで信じられません」

石岡容疑者は千葉県船橋市の賃貸アパートでひとり暮らしをしていたよう。間取りは1LDKで家賃は約7万円。最寄り駅まで徒歩で20分以上あり、電車を乗り継いで店まで1時間半以上はかかる。
「ごみ集積場で見かけました。若い住人が多い中、おじさんだったので印象に残っていますね。ごみ出しルールを守らない人が結構いるんですが、しっかりと分別していました」(同じアパートの男性住人)
わざわざ池袋まで通勤していたのは、夜勤にこだわったためかもしれない。平日の日中に試合観戦しても、十分に仕事と両立できる。
千葉予選は今夏、石岡容疑者宅近くの強豪校・市立船橋が決勝戦の延長タイブレークで4点差をはね返し、大逆転サヨナラ勝ち。3年ぶり7回目の夏の甲子園出場を決めた。事件当日は準決勝で、翌々日の日曜日が決勝だった。
「日曜日は店の定休日ですし、事件を起こさなければ観戦に行ったと思います」(前出の常連客)
高校野球の魅力のひとつは、仲間を信じるチームワークにある。エラーをしても「ドンマイ」精神で、責めたりしない。そんな純粋さが好きだったはずの容疑者が、なぜ短絡的に凶行におよんでしまったのか。