
デビュー13年を迎えた韓国発のアイドルグループ、MYNAME。日本でさらに飛躍したいと考えるメンバーのうちの3人が、大人女性の代弁者である作家の岩井志麻子さんにレクチャーを受けることに……。日本の最強オバハンに、コヌ、インス、セヨンの3人は何を学ぶのか?
韓国のアイドルや芸能人は大変?
7月25日でデビュー13年を迎えた韓国発の実力派アイドル、MYNAME。メンバーは、コヌ(36)、インス(37)、セヨン(33)、ジュンQ(31)、チェジン(29)の5人。多くのボーイズグループが直面する兵役や、魔の7年と呼ばれる解散の危機を乗り越えてきた。
7月2日には7年ぶりとなるミニ・アルバム『VIVID』をリリース。この時期の日本での活動に参加できるコヌ、インス、セヨンの3人体制での作品ではあるが、ダンスナンバーからスローバラードまで“5人のMYNAME”を強く感じることができる楽曲が収録されている。
日本でさらに飛躍したいと語る3人と、18歳年下の夫が韓国人ということもあり、日韓の文化、エンターテインメントに精通している作家・岩井志麻子さんとの座談が実現。MYNAMEを売るための企画会議と化したトークでは、岩井さんが3人の意外な顔を引き出して─。
コヌ、インス、セヨン:ご挨拶します。MYNAMEです。よろしくお願いします。ヒョウではないんですね。
岩井志麻子(以下、志麻子):今日は、人間のアジュンマ(おばさん)です(笑)。
セヨン:ヌナ(お姉さん)でいいと思いますよ。
志麻子:うまいわね、あなた。このアジュンマが20年前に梨泰院のカラオケ店に行って、すごく気に入った推しを見つけたんです。その推しが、二番目の夫。18歳若くて、ものすごい浮気者。いつも浮気をしているうえに「(お金を)ジュセヨ、ジュセヨ」って。
セヨン:ジュセヨは、韓国語で「ちょうだい」ですね。
志麻子:そう。嘘ばっかりつくけど、かわいいんです。こんな話、なんのこっちゃですよね。しかし、韓国のアイドルや芸能人は大変だと思います。最初からパーフェクトでデビューされるじゃないですか。容姿、歌、踊り、パフォーマンスと、すべて完璧でなければ許されない。日本は少し違います。デビューしてすぐはちょっと田舎っぽいというか、歌も踊りもあまり上手じゃない子が、だんだんうまくなって。
セヨン:成長ですね。
志麻子:そうなんです。“私が応援したから成長した”という過程に喜びを見いだす日本人が多い。だからといって、パーフェクトな方に日本に合わせてわざと下手にしろとか、カッコ悪い姿を見せろというのもちょっと違うのでね。どうしたらいいものかと、私も迷うわけです。
セヨン:僕ら、練習生のときに“完璧だ”と思ってデビューしました。でも、やっぱりこの世界は完璧がありません。もっともっと頑張らなきゃダメです。
志麻子:韓国の方は本当に努力家が多いですね。日本人は足りないところに成長の余地を感じて、ダメな部分が“かわいい”と思うんですよ。
日本語の歌詞を間違えてしまうことも
セヨン:先生、こう見えても僕らダメなところが結構ありますから!(笑)
志麻子:ひとつ言えるとしたら、今後は熟女、スンニョを意識するといいです。みなさんのファンはアガシ(娘さん)が多いのではないかと思うんです。ただ、女性はアガシよりスンニョ、アジュンマの期間のほうがずっと長いですから。それに、日本はおばさんに対して優しい。おばさんが若いアイドルに夢中でも、おかしいとか、恥ずかしいとか、そんなのはないんです。今後、イルボン・アジュンマ(日本のおばさん)の市場にも飛び込むべきですよ。

3人:(声をそろえて)はい!
志麻子:おっ、すでに覚悟はあるんですね! 日本のおばさんは“カッコいい”はもちろんですが“かわいい”も欲しい。みなさん、「かわいそう」という言葉にあまりいいイメージがないかもしれませんが、日本はかわいそう=かわいいなんです。
3人:なるほど。
志麻子:頑張っているのに、なかなか結果がついてこないことに対して、がっかりではなく、かわいそう=かわいい、応援しなきゃとなるわけです。ですから、例えば失恋した話とか恥ずかしかったこと、といったダメエピソードをトークに取り入れると、日本ではウケると思いますね。
─今後のMYNAMEに必要なことは“かわいそう=かわいい”トークと提案する岩井先生に、3人がダメトークを披露することに。
セヨン:たまに、日本語の歌詞を間違えてしまうことがあります。
志麻子:みなさん、本当に日本語お上手ですよね。
セヨン:僕たち、日本でデビューする1年以上前から厳しい日本語のレッスンを受けていました。実際にデビューをしたときは、スタッフに韓国語を話せる方がいなかったので、トイレもごはんも「行きたい」「食べたい」と日本語で伝えられないと生活できなかったんですよ。
コヌ:これ、あまり話したくないことなんですけど……。
セヨン:沖縄の話?
コヌ:そう。せっかくの機会なのでお話しします。日本デビューしてすぐのころ、数日休みをもらえて。当時、すごく行きたかった沖縄にインスと僕ともうひとりのメンバーとマネージャーの4人で行ったんです。
志麻子:それはワクワクするでしょうね。
コヌ:はい! お酒を飲んで、おいしいごはんを食べた翌朝、ホテルで朝ごはんを食べたときにトイレへ行って。で、トイレから席に戻るとき、近くに高校生か中学生くらいの子が100人ほどいたんです。その子たちが全員、僕をじっと見ている。「そんなにカッコいいかな」と思っていたんですよ。
志麻子:あなた、確かにカッコいいですから。
コヌ:ちょっと意識しながら、メンバーたちのところに近づいていったら、みんなすごく驚いた表情をしていて。何が起きたんだろうと振り返ったら、長いトイレットペーパーを引きずっていました(苦笑)。日本でいちばん最悪な思い出です……。
日本のサウナで足首にカギをつけてはいけない理由
インス:カッコつけて歩いているのがわかったから、なおさら面白くて。
志麻子:普通のおじさんだったら「ついてますよ」と言えるけれど、カッコいいあなただと言いづらい。とてもいい話。そういうのすごく日本人好きですよ。

インス:俺は、練習やコンサート、ライブが終わると、サウナ行って(筋肉疲労を抑えるために)アイシングをするんです。そう見えないかもしれませんが、結構筋トレを頑張っていて。
志麻子:ご存じかもしれませんが、日本では男の人が男の人を求めて行くサウナがあるんです。ロッカーのキーを足首につけている人は、男性がOKという合図で。
インス、セヨン:えーっ!?
セヨン:初めて知りました。韓国では、みんな足首にカギをつけますよ。よくインスと日本のサウナに行くのですが、その場にいる全員がインス(の鍛えた身体)を見ます!
インス:日本ではカギを手首につけていてよかったです。なぜサウナの話をしたかといえば、最近、日本の面白い文化を体験しました。ダメエピソードではないんですが、イベントなのか、サウナで裸のままみんなで一緒に歌ったんです。
志麻子:日本のサウナには熱波師というのがいて。
セヨン:タオルで熱い風を送ってくる人ですよね。
志麻子:そう。韓国のサウナにもいます?
インス:いないです! だから、驚きました。
志麻子:「エピソードを作るために、サウナで足首にカギをつけてみたら?」とは、さすがに私も言えないですわ。日本だとペ・ヨンジュン様の『冬のソナタ』から韓流ブームが始まりましたよね。日本女性は韓国ドラマも好きだから、みなさんは俳優でも活躍してほしいです。
セヨン:僕ら演技もやっているので、先生の力でぜひ日本のドラマに出演させてください!
志麻子:そうね。あと、トロット! 日本でいう演歌ですね。ああいうジャンルも歌ってほしい。韓国の演歌や歌謡曲の流行が日本にも入ってきていますから。
インス:先生が僕たちのコンサートにいらしてくれたらセヨンがトロットを歌います!
セヨン:ぜひ来てください。先生、これまでお話を聞いていると、少し変わった男性に惹かれる印象ですが、僕らのコンサートを見たら(男性の好みが)変わるかもしれません。
岩井志麻子がいちばん気に入ったメンバーは
志麻子:ファンは「キャーツ!」って感じですか?
セヨン:それだけじゃないです。(トークが)めっちゃ面白い人もいるし、カッコいいだけじゃないので。
─メンバー自ら楽曲制作やプロデュースを行う、歌やダンス、パフォーマンスの実力だけでなく、日本語でのトーク力が格段に高いのがMYNAMEの魅力。それは、13年ステージに立ち続けてきた彼らだからこそできること。
志麻子:韓国には、(外国人専用の)カジノがあるでしょ。私、カジノのディーラーになる勉強をしているんです。でね、以前、カジノを経営している人が「カジノは客が負けることになってる」と言ってました。絶対に勝てないのよ、客は。
だから、引き分けでも勝ちなんです。何が言いたいかっていうと、十数年活動を続けられたということは、もう間違いなしにスターなんです。だって芸能人や小説家は売れないのが当たり前。たとえ、芸能人になれたとしても続かないですから。そんな世界で十数年活動してきたのなら、この先も続けられますよ。
コヌ:感動しました!

セヨン:カジノの話からスタートして、その後どうなるかすごく心配でしたが、終わりがとってもいい話でした。
志麻子:でも、オンラインカジノはダメですよ!!
インス:先生、今回座談させていただいた3人の中で誰がいちばん気になりましたか?
志麻子:それはほんとにね、比べようがないのよ。それぞれ違う魅力があるから。
インス:1人しか選べないとしたら? 面白く答えてください!
志麻子:失礼かもしれないけど、ここがホストクラブだとしましょうや。みなさんのプロフィールを詳しくは知りませんよ。私は(インスに向かって)あなたのところへ行くわ。
インス:僕ですか!? なぜ?
志麻子:なんだろうな。「ボトル入れてくださいよ」って(3人の中で)いちばん言わない感じがするから。
セヨン:先生は、インスを選んだってことですよね。
セヨン・コヌ:(2人そろって立ち上がりながら)お疲れさまでした!
インス:じゃ、ボトル入れてください!(笑)

構成/生島真由美
インス 1988年3月10日生まれ。メイン・ボーカル。おとこ気が強く、まじめで礼儀正しい、頼れるみんなのお兄さん。クールな表情からふと見せる「笑顔」が、見る者をとりこにしている。MYNAMEで一番日本語力に長けている。体脂肪率3%の完璧な肉体も魅力。
セヨン 1991年11月20日生まれ。ラッパー。MYNAMEいちの天真らんまんBOY。
時に男らしくクールに、カッコよく、時におちゃめにかわいく、MYNAMEのマスコット的存在。目立つことが大好きなムードメーカー。スポーツは全般的に得意、ダンスの実力も抜群。
コヌ 1989年1月30日生まれ。メイン・ボーカル。MYNAMEのリーダーで、メンバーいちの「不思議ちゃん」タイプ。抜群のルックスと高音ボイスながら、超天然というギャップが特徴。バラードからR&Bまでいろんなジャンルを表現できるのも彼の魅力。
いわい・しまこ 1964年12月、岡山県生まれ。1986年にジュニア小説家としてデビュー後、'99年『ぼっけえ、きょうてえ』で第6回日本ホラー小説大賞を、'01年には同作で第13回山本周五郎賞受賞。エッセイを含め、著書多数。コメンテーター、女優としても活躍。