阪神甲子園球場

 8月7日に阪神甲子園球場で行われた『第107回全国高校野球選手権大会』の3日目。NHKで全国中継された、1回戦の第4試合終了後になんとも心苦しいハプニングが起きた。

 甲子園で優勝経験もある強豪・広陵高校(広島)が、初出場の旭川志峯高校(北北海道、北日本学院として1968年に出場)を3対1で退けた試合後。通常、一礼後に選手同士が互いの健闘を称えて握手を交わすのだが、旭川志峯の選手数人が広陵ナインに歩み寄ることなく、そのままベンチに戻ったのだ。

 困惑した表情を浮かべつつも、踵を返した選手とは別の選手らと握手する広陵ナイン。無礼やマナー違反ともとれる旭川志峯だが、彼らなりの“スポーツマンシップ”に則っての行為なのだろう。

 2025年1月に広陵野球部員による下級生への暴力を伴う不適切行為が発覚し、同校は2月に日本高校野球連盟(以下、高野連)に事の次第を報告。被害を受けた生徒は野球部を退部、転校しているにもかかわらず、高野連が下したのは「厳重注意処分」。

 事案が発覚したのは、広陵が広島県予選を勝ち抜いた約半年後のこと。元部員の保護者を名乗るアカウントによってSNS上で“告発”され、これが瞬く間に拡散されると同校には「出場辞退」を迫る声。ところが高野連はすでに解決済みの事案として、「主催者として大会の出場の判断に変更はない」と出場を認め、広陵もまた辞退しない意向を示したのだった。

過去にも暴言、暴行の情報が拡散

 高校野球事情に詳しい野球ライターによると、

「SNS上では、厳重注意処分とされた1月の事案以外にも、過去に監督やコーチ、部員による暴言や暴行があったとの情報が飛び交っている。同校は“事実は確認できない”として出場に支障はないとしていますが、依然として疑惑を抱かれるのは当然のこと。

 特に若者はSNSを重視しがちなため、旭川志峯の選手が正義感から握手拒否に至ったとしても無理はなく、広陵ナインは全国中継で晒し者にされた感は否めない」

SNSで拡散されている、広陵高校と旭川志峯高校の“握手拒否”シーン(一部、編集部修正)

 かつて2005年には、高知県の名門・明徳義塾高校の野球部員が下級生に暴行を働き、さらに11人が喫煙していたことも判明し、大会開幕の2日前に出場辞退を申し出た。他にもセンバツを含めて、暴力・暴行や飲酒・喫煙などの不祥事が発覚したことで、出場辞退に至った高校は少なくない。

 そんな過去の事例を顧みて、広陵が出場を辞退しなかったこと、また高野連が課した「厳重注意処分」が事態を軽く見ている受け取られ、不公平感を持たれて批判が噴出しているようだ。

高野連は誹謗中傷には「法的措置」

 広陵ナインを率いる中井哲之監督は試合前、

「反省すべきは反省してきてこの大会を迎えていますので。目の前の試合を全力でプレーするだけ」

 “禊は済んだ”として旭川志峯との試合に臨んでいる。

 一方の高野連は公式Xにて、大会関係者に対する「誹謗中傷」等は《名誉や尊厳、人権を傷つけ、心身に深刻な影響を生じさせるもの》として、《法的措置を含めて毅然とした対応をとってまいります》と講じている。

 甲子園でのプレーを夢見て名門に入部するも、暴行によって名誉や尊厳、人権を傷つけられ、心身に深刻な影響を生じて退部を余儀なくされた選手。暴行と無関係の広陵ナインが責められるべきではないのは当然だが、旭川志峯の“握手拒否”は夢を閉ざされた“球児”の気持ちを慮っての行動だったのか。