集団暴行事件が取り沙汰されている広陵高校野球部(部の公式インスタグラムより)

「カップ麺を食べた」──それは確かに“規則”で禁じられていたことではあったのだが……。

「今年の夏の甲子園に出場した広島県の広陵高校野球部で“いじめ”が発覚。1年生部員が寮で禁止されていたカップ麺を食べていたことを理由に、複数の2年生部員より暴行を受けていたことを親族が告発しました。身体的な暴行だけでなく、便器や性器を舐めさせる性的な強要、金銭の要求があったことも報じられています」(スポーツ紙記者)

OBでプロ野球選手の金本知憲

 告発がSNSなどで拡散され、批判の声が多く上がった広陵高校は1回戦に勝利したが、その後の出場を辞退した。

「学校側は、校長が途中辞退の理由について、SNS上で部員に対しての誹謗中傷が起こっており、“人命を守ることが最優先”と説明。問題についてSNSのせいにし、論点のすり替えを行うような姿勢にさらなる批判の声が上がっています」(同・スポーツ紙記者)

 野球部内で起こっていた凄惨ないじめ。それは過去、今から約40年前にも同校で起こっていた──。

《ある日、ぼくはふだん以上にはげしい「説教」を受けた。気がつくと、ぼくは正座をしたまま、一瞬気をうしなっていた。二、三人がかりで、なぐられ、けられたのだ》

 上記は、『心が折れても、あきらめるな!』(学研プラス刊・’09年)という書籍の一節(以下《》は同著より)。著者は広島・阪神で活躍した元プロ野球選手・金本知憲。広陵高校のOBであり、当然ながら野球部での出来事だ。

「説教」は今回のいじめと同様に掃除をサボるなどのルール違反を犯した際になされることもあったが、金本によるとその多くは先輩らが機嫌が悪いときの憂さ晴らしとして後輩に対して行われたという。

監督からの脅しに近い言葉

 ルール違反を“言葉”で咎めるならば、それは先輩による正しい説教といえるかもしれない。しかし、その内容は今回発覚したいじめと同様に常軌を逸している。

《先輩のだれかが、スパイクをはいたまま、ぼくの太ももをふみつけた。スパイクには金属製のつめがついている。そのつめがぼくの太ももの肉をえぐり、血が出た》

 金本は先輩らに対し、“殺す気か?”と感じたが、それに対抗すればさらにひどくやり返されてしまうことが目に見えていたために、耐え忍んでいたという。

広陵高校野球部の集団暴行事件、被害生徒の保護者と思われる切実な投稿(インスタグラムより)

 今回のいじめの被害者側の投稿によると、広陵高校の監督から「高野連に報告したほうがいいんか?」「2年生の対外試合がなくなってもいいんか?」などと詰め寄られたという。

「要するに“おまえが事を大きくすると野球部に迷惑がかかる”と。部に対し絶対的な権力を持つ監督から部員に対してですから、“そんなことはさせない。したらわかってるのか?”というような脅しに近い発言ともいえます」(前出・スポーツ紙記者、以下同)

 そして、広陵高校野球部の監督によるいじめは、前出の金本に対しても行われていた。

「金本さんは法政大学への進学を志望し、野球部のセレクションを受ける準備をしていましたが、監督から“嘘”の日程を教えられ、セレクションを受けられなかった。浪人を経て、今度は中央大学野球部のセレクションを受けようとしますが、推薦についてこれまた嘘をつかれ、入部できなかったことを後に語っています。

 金本さんの広陵高校時代は現監督とは別の人でしたが、いじめについても監督の所業にしても、広陵の悪しき“伝統”は昭和の時代から今に至るまで続いているといえるのではないでしょうか」

 日本高野連による『日本学生野球憲章』には、制定時より変わらぬ“前文”がある。

《いかなる艱難をも凌ぎうる強靭な身体を鍛練する事》

 “艱難(かんなん)”──それが他者から受ける暴行や強要、恐喝、脅しなどであってはならない。