
「高血圧は放置すると、心臓の血管が詰まる心筋梗塞や、脳の血管が詰まったり破れたりする脳卒中など、いわゆる突然死が起こるリスクを確実に高めます。ですが、自覚症状がほとんどないため、健康診断で血圧が高いと指摘されても『自分は大丈夫』と放置してしまう人がとても多い病気なのです」
と警鐘を鳴らすのは、愛媛大学医学部附属病院に勤める、高血圧専門医の伊賀瀬道也先生。
女性ホルモン減少で血圧が上がりやすく

そもそも血圧とは、心臓から送り出された血液が全身を巡る際に、血管の内側にかかる圧力のこと。
「血圧は常に変動していて、食事や入浴、排泄などの動作をするだけでも上がります。そのほか、年齢や健康状態によっても左右されますが、問題なのは血圧の高い状態が慢性的に続くと、血管にダメージを与えてしまうことです。
血液が通る血管の内側には、血管壁という壁があるのですが、圧をかけすぎるとその壁が傷つきます。傷ついた血管は弾力性を失って硬くなり、いわゆる動脈硬化が起こります。すると、前述したとおり、血管が詰まりやすくなって、命に関わる病気を引き起こすのです」(伊賀瀬先生、以下同)
最新の基準値としては、簡単にいうと最高血圧140mmHg以上、最低血圧90mmHg以上は高血圧となる。
血圧が上がる原因は、塩分のとりすぎや肥満、過度の飲酒や遺伝的な要因などさまざまだが、更年期による女性ホルモンの減少もそのひとつ。
「実は女性ホルモンのエストロゲンには、血管を拡張させて血圧の上昇を防ぐなど、血管にとってよい作用がたくさん。ですが、更年期から閉経にかけて女性ホルモンの分泌が減ることで、保護作用が失われてしまうのです。つまり、女性は中高年以降、それまで指摘されたことがなくとも高血圧になる可能性が高くなっているので、より注意が必要なのです」
運動強度が高いジャンプが効く!
自覚症状がないままに、重大な病気を引き起こすことから「サイレントキラー」とも呼ばれている高血圧。血圧を下げるには、どんな対策があるのか。
「まず、まだ高血圧の診断を受けていない、または、しばらく測定をしていない人は、普段から血圧を測定する習慣をつけてほしいです。特に専業主婦の方やパートタイムで働かれている人は、健康診断を受ける機会が少なく『知らないうちに高血圧』になっているケースが多い。いまでは、家庭用の測定器も4千〜5千円あれば機能的に十分なものが買えます。指先で測る簡易的なものではなく、精度の高い上腕式のものがおすすめですね」
健康診断などで指摘され、病院を受診すると医師は血圧を下げる「降圧薬を飲む治療」と「生活習慣の改善指導」の2つを主に行うが、ここにも高血圧を放置してしまう理由があるという。
「生活習慣の改善で真っ先に行うのが、減塩指導です。塩分は血圧を上げる最大の原因ですから、塩分摂取量を1日約6g目安にしてほしいとお伝えします。ただ、梅干し1個で約2g、みそ汁1杯で約1・5gと、日本食には多くの塩分が含まれているので、継続するのはなかなか難しい。途中で挫折してしまう人も少なくないのです」
さらに、高血圧学会の治療ガイドラインでも推奨されている「運動療法」も、ハードルがかなり高い。
「血圧を下げる運動として、よく指導されるのが、1日1万歩のウォーキング。中高年であれば、1時間半ほどかかるとされ、毎日続けるのは至難のわざです」
「8秒間跳ぶ」だけ運動療法

そこで、先生が編み出したのが、「8秒間跳ぶ」だけという、毎日手軽に行える新しい運動療法。
「実は私も遺伝的な高血圧で、一時期は頻繁に15mmHg超の数値が出ていました。ところが、ジャンプをするだけの運動療法を続けることで、いまでは13mmHg程度で安定し、内臓脂肪も減り、10キロのダイエットにも成功しました。実際に患者さんにもすすめていて、多くの方が血圧を安定させています」
先生は、もともとダイエット目的でジャンプ運動を始めめたそう。
「最初は運動強度の高い縄跳びをしようと思ったのですが、道具が必要だと、思い立ったときにできないのもあり、思い切ってジャンプだけをするように。ジャンプの運動強度は、1日10分以上行えば、約30分以上歩いたのとほぼ同じ効果が得られるなど絶大。ただ、いきなり10分以上跳ぶのは膝など身体に負荷がかかります。なので、8秒間1セットをひとまず日々の習慣に取り入れてみてください」
詳しいやり方は上図を見てほしいが、どうしてジャンプをするだけで血圧が下がるのか。
「世界中のさまざまな研究から、血圧低下には運動が必須ということは明白なのですが、特に大事なのが有酸素運動と筋トレの両方を行うこと。ジャンプは適度に酸素を吸いながら跳ぶので、運動としてはランニングと同じ有酸素運動といえます。さらに、ジャンプをするとふくらはぎや太ももなど下半身の筋肉が鍛えられ筋トレの要素も」
また、ジャンプには心肺機能を高める効果があり、それも血圧を下げることにつながるのだという。
「心肺機能が高まると、力強い心拍によって血液が送り出されるため、血流がよくなり血管にかかる圧力も減り血圧が下がりやすくなるのです」
教えてくれたのは伊賀瀬道也先生
高血圧専門医・指導医、抗加齢医学専門医・指導医、老年医学専門医・指導医、循環器専門医。愛媛大学医学部教授、愛媛大学附属病院抗加齢・予防医療センター長。著書に『血圧がみるみる下がる!8秒ジャンプ』(文響社)ほか。