24年は3兆3337億の売り上げがあった中央競馬(写真はイメージです)

 今や競馬、競輪、ボートレース、そして違法オンラインカジノサイトではパチンコまでもがオンライン化し、いつでもどこでも利用できる―。つまりギャンブルがしやすい環境となったことで依存症となる危険性が拡大している。家族が依存症になり、巻き込まれる例も後を絶たない。決して人ごとではない問題にどう立ち向かうべきか。

ギャンブルをやる人なら誰でもなる可能性が

 ここ数か月、オンラインカジノで有名人が摘発されたというニュースが相次いでいる。オンラインカジノの浸透ぶりは想像以上に根深く、警察庁の調査(令和7年「オンラインカジノの実態把握のための 調査研究の業務委託 報告書」)によると、国内の経験者は推計337万人。このうち6割にギャンブル依存症の自覚が多少なりともあるという。

「好きでハマって依存症になるなんて、自業自得」とつい思ってしまうが……。

実は、脳の機能不全によって『やめたいのにやめられない』状態になるのが依存症です。脳内物質のバランスが変化することが原因で、意志の強弱や性格とは関係なく起きる精神疾患なのです。ギャンブルをやる人なら誰でもなる可能性があります

 そう教えてくれるのは、ギャンブル依存症問題を考える会の代表を務める田中紀子さんだ。

 依存症を引き起こすのは、オンラインカジノに限らない。厚生労働省の発表(令和5年度「ギャンブル障害およびギャンブル関連問題の実態調査」)によると、国内でギャンブル依存症が疑われる人は成人のおよそ1.7%いる。その人たちが一番お金をつぎ込んでいるのが、パチンコやパチスロといった中高年におなじみのギャンブルなのだ。

ギャンブル依存症問題を深刻化させているのが、スマホです。オンラインカジノのほか、競馬などの公営ギャンブルもスマホ一つで人目を気にせず気軽にできてしまう。主婦でも、昼間からやっていようが誰にもとがめられませんから、どんどんのめり込んでしまう。さらに、ギャンブルのために大金が欲しくなったときの、闇金や闇バイトなどもスマホで探せてしまいます」(田中さん、以下同)

 スマホによって依存症の入り口が一気に広がっただけでなく、関連するトラブルにも巻き込まれやすくなっているという。

依存症の当事者だけでなく、まわりにいる家族や友人、職場の人など巻き込まれる人がその数倍、数十倍いるわけですから、決して人ごとではありません!

 ギャンブル依存症は男性のほうがなる割合は高い。週女世代の女性は

「夫がギャンブルでつくった借金を自分や子が肩代わりをし続けたうえに、頼みの綱の退職金まで使い込まれて老後資金がなくなった」「息子がギャンブルのために親の年金まで使い込んだ」

 といった形で巻き込まれるケースが目立つが、ちょっとした小遣い稼ぎにと、気軽に手を出し、人知れずハマってしまう危険性をはらむ。

ギャンブル依存は病気なのですから、早期発見・早期介入・早期治療をすることが本人にとっても周囲の人にとっても重要です

 早期発見につながるチェックリストとして、田中さんが医師や研究者らと共同開発した、4つの質問からなる“LOST”診断がある。下の質問項目のうち2つ以上あてはまると、ギャンブル依存症になっている可能性が高い。

最初にすべきことは専門機関への相談

LOSTは当事者向けなので、家族が気づくにはもっとシンプルな判断基準があります。それは“ギャンブルのために借金を繰り返しているか”。誰だって借金なんかしたくないのに、その苦しみを繰り返してしまう。そうなるともはや、自分の意志ではコントロールできない状態、依存症に陥っていると考えたほうがいいでしょう

ギャンブル依存症「LOST」自己診断

 家族がギャンブル依存症かもしれない─。そう思ったとき、何をすればいいのだろうか。

最初にすべきことは、専門機関への相談です。本人に病気の自覚がないなら、家族だけでも相談に行ってください。相談先としてはギャンブル依存症の当事者や家族をサポートする民間団体(自助グループ)、地域にある精神保健福祉センター・保健所、医療拠点病院などが挙げられます。おすすめはギャンブル依存症に詳しい民間団体です

 一方で、家族が絶対にやってはいけないこともある。

それは、ギャンブルでつくった借金の肩代わりをしてしまうことです。助けたつもりがまたギャンブルをする機会をつくり、本人の病気を悪化させるだけです

 家族が返済の肩代わりなどをしない「兵糧攻め」をすれば、やがて本人はどこからもお金を借りられなくなり、返済もできなくなって周囲からの信用を失っていく。

見守るほうもつらいでしょうが、本人が困難に直面する“底つき体験”をすることが、専門機関につながるきっかけとなり、結果的に回復が早まります

 ギャンブル依存症は、うつ病などと違って有効な薬というものはない。多くの場合は、本人と家族が自助グループに通いながら、回復プログラムに取り組むようすすめられる。

 回復プログラムでは、自分が依存症であることを認める、これまでの生き方や生活を徹底的に振り返る、といったプロセスを経て、ギャンブルに頼らない生き方を見つけていく。

ただし、ギャンブル依存症から回復しても、アルコール依存症と同じく『完治はしない』と考えてください。20年間ギャンブルをやめられても、再びギャンブルをすれば瞬時に依存症状態に戻る可能性があります

 そのため、回復後も自助グループに通い、他の当事者をサポートする側にまわりつつ、ギャンブルに頼らない生活を維持していくことがすすめられる。

回復者は「依存症になる前よりも今のほうがいい人生だ」

「取り組みを継続することを大変そうだと捉える人もいますが、決してそんなことはありません。自分にとって最悪だった経験を、同じ問題で苦しむ人を助けるための価値ある経験に変換することで、使命感と居場所感を得ることができます。

 再び問題を起こしたとしても、必ず共に考え、助けてくれる仲間がいる、そんな居場所がある人がこの社会でどれだけいるでしょうか。多くの回復者が『依存症になる前よりも今のほうがいい人生だ』と話しています。人生を諦めず、前向きにがんばっている人ばかりですから、ぜひ相談をしてほしいです

 今悩んでいる人は諦めず助けを求めて!

オンライン化も! 自助グループってなに?

イラストはイメージです

 同じ問題を抱える人々やその家族が互いに支え合い、回復を目指す自発的な集まり。体験を共有し、励まし合いながら回復を目指す。依存症の場合、アルコール、薬物、ギャンブルなど、依存先によって、さまざまな自助グループが存在する。人目を気にして自助グループに参加しづらいと考える当事者も多いが、最近はZOOMなどオンライン会議アプリを利用して参加することも可能になっている。

取材・文/鷺島鈴香

田中紀子さん(公社)ギャンブル依存症問題を考える会・代表。ギャンブル依存症当事者・家族の支援に力を入れつつ、各地で啓発活動を行っている。「国がギャンブルを認めるなら対策が必要」と国や地方自治体にも政策を提言。