Mrs.GREENAPPLEの大森元貴

「そもそもは、われわれのライブを見てくださったプロデューサーさんから熱いお声がけをいただいて。率直にすごく光栄で、とてもうれしかったです」

 と笑顔で話すのは、大森元貴。放送中の朝ドラ『あんぱん』で、作曲家・いずみたくさんをモデルとした、いせたくやを演じている。そのライブとは『Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”』。音楽劇風のライブで、曲はもちろん、間合いやたたずまい、しぐさ……大森のすべてに魅了されたプロデューサーから出演オファーが届いたのは、昨年3月のことだった。

役作りで“増量”

「朝ドラですから“私に務まるのだろうか”“私を買いかぶっていないだろうか”とも(笑)。そこは不安でしたが、でもすごくワクワクしましたし、ありがたいお話だったので“出たいです”とお返事させていただきました」

 フリーになった嵩(北村匠海)だが、その漫画はいっこうに評価されない。いせたくや(大森)らの依頼で担当したミュージカル『見上げてごらん夜の星を』の舞台美術を成功させると、次はいせの依頼で嵩が作詞し、いせが作曲した『手のひらを太陽に』が大ヒット。

「いせたくやはすごくピュアで、まっすぐで、なんのよどみもなく、音楽と芝居に対して誠実でまっすぐな人。終戦後、次の“ものづくり”において、ひとつの光のような存在なんだろうな。嵩にも影響を与えますし、たくや自身も時代に対していろいろ思うところがあって。音楽と芝居を表現したい、純粋に日本を明るくしたいという気持ちだと思います」

 そんな充実感を表現すべく、体重を3〜5キロ増やして挑んだ。

「自分にできることって何だろうと思ったときに、やっぱりビジュアルも含めてだと思って。セリフ量も多いですし、話し方にすごく抑揚があって、基本的に芝居がかったような青年なので」

芝居は「すごく刺激的で楽しい」

 生涯で1万5000曲以上を作曲したいずみたくさん。大森はミセスの全楽曲の作詞・作曲を手がけている。5か月連続でシングルをリリースした昨年は『日本レコード大賞』大賞にも輝いた。今年はデビュー10周年、名実共に日本のトップバンドだ。音楽家としてのシンパシーを尋ねると、

「それはもう畏れ多いですよね。音楽は人の心を彩るもので、ひとつの娯楽に過ぎないんだけど、“されど”っていう部分にものすごく魂をかけている。いずみ先生の自伝や作品を拝聴して感じる部分です。

 大変おこがましいんですけど、純粋に人を明るくさせようとしているところは、僕も“そうだよな、そうあるべきだな”と、とても思います。ミセスとしては日常に当たり前に存在する大衆エンタメみたいなものを大切にしているので。根幹としては、通じる部分はあるのかなと思っていますね」

朝ドラ『あんぱん』で作曲家・いせたくや役を演じるMrs.GREENAPPLEの大森元貴

 4月公開の映画『#真相をお話しします』で主演。連続ドラマへの出演は『あんぱん』が初めてだ。

「今まで“どれだけ自分であれるか”を自問したり、周りに問いかけられる生き方をしてきたので。いかに、自分が大森元貴としていられるか。楽曲を書く面でも、自分と対峙する作業が普段からすごく多いので。逆に誰かになるとか、違う形として人生を送るっていうのは非常に興味深くて。その場で生まれるお芝居のキャッチボールなどは普段はないものなので、すごく刺激的で楽しいです」

朝ドラ現場の「圧倒的な日常」

 ミセスとしては秋に5大ドームツアーが控えている。音楽活動に俳優業……あまりにも多忙なのでは?

「モチベーションみたいなことで言うと、僕は自分に自信がないので。“せっかく生きているなら楽しいほうがいい”みたいな気持ちでいます。新たなことに挑戦させていただける機会を与えられたならば、精いっぱいの愛情でお返ししたいなって率直に思っていて。

 確かにスケジュールを可視化すると忙しいんですけど、心としては全然忙しくなくて。一つひとつが本当に楽しくて、充実しています。すごくいろんな現場がある中でも『あんぱん』はちょっと特別です。結構カフェでの撮影が多いんですけど、日常では今はもうカフェとか行けないので。

 非日常を生きることが仕事になっている中で、圧倒的な日常を描く朝ドラの現場は、僕はいるだけですごくリラックスするし、癒されるんですよね。音楽の現場にいても、“早く『あんぱん』の現場、また来ないかな”って思ったりしています」

ピアノシーンは史実どおり?

 大森演じるいせたくやがピアノを弾くシーンも。

「もちろんピアノで曲を作ることもあるんですけど、でもやっぱりピアノ弾きではないので。それに僕、楽譜読めないんです。ウチのキーボードの藤澤(涼架)に“これはどうやって弾くの?”って聞いたら“これは1週間じゃ無理だよ”って言われて。“ちょっと待てよ、やらなきゃいけないんだ”という話をして。20秒でも時間があったら(ピアノに)触るようにしていました。そして僕が資料を拝見する限り、いずみたくさんもピアノは独学だったそうなので“これはよし、いけるぞ”と勝手に都合のいいように解釈しまして。“これはもう史実どおりだろ”っていう顔で弾いています(笑)」

朝ドラ『あんぱん』で作曲家・いせたくや役を演じるMrs.GREENAPPLEの大森元貴

『あんぱん』毎週月〜土、朝8時〜(NHK総合)ほか 放送中


取材・文/池谷百合子