
8月31日より、世田谷パブリックシアターにて『アリババ』『愛の乞食』が2作連続上演される。主演は、SUPER EIGHTの安田章大。いずれも、劇作家・唐十郎の初期作品で、安田は6月に新宿・花園神社境内の特設テントで上演された同演目にも出演している。8月からの公演は、なんと全編関西弁。関西出身の安田が持つ言葉の感覚を通じて、新たなアプローチで挑む。
「嵐がキラキラやったら、僕らはドロドロ(笑)」
「標準語が持つ言葉の強さと、関西弁が持つ言葉の強さで、意味合いが大きくずれてくるのではないのかなと思います。言葉たちがどう変化するのかっていうところが、関西弁でお芝居をする上での醍醐味になってくるのではないでしょうか。最後に賛否両論がどれだけ出てくれるのか楽しみです」
と語った安田。花園神社の公演では、テント設営から自ら手を動かした。

「事前にホームセンターで道具をそろえて、大工さんのそばについて、わからないことを一個一個教えてもらいながら造らせてもらいました。何も知らないわけですから」
この舞台に“客演”として関わっている、という自覚はまったくない。
「みなさんは言葉を選んで、スペシャルゲストって言ってくださいますけど、僕は初めからゲストのつもりがありませんでした。自分の立場を利用して、中途半端にアングラ演劇界に交ざらせてもらうっていう、そんなことをしてしまったら、もう本当に“警察沙汰”やなと(笑)。だから、黙ってみんなと一緒にセットを運んで、設営をして。途中からみんながそれを当たり前のように受け入れてくれたのが、うれしかったです」
安田の“人気アイドル”という立ち位置とは正反対とも思えるアングラ演劇の魅力についてどう考えているか尋ねると、少し笑ってこう語った。
「その質問を受けて、アイドルをやっている人はキラキラした道のど真ん中にいるものだと、誰もが勘違いされるんだなって思いました。12歳からアイドルをやっていますが、自分がど真ん中にいるつもりは1回もなかったんです。僕は、土くさかったり、ドロドロしていたり、濁流の中にある光る何かを探しているような人間なので」
グループとしてのニーズやファンの期待に応え続けた結果として、“キラキラ”のイメージがついただけだという。
「でも、アングラと呼ばれているもの自体がドロドロしてるかといえばそうでもなくて、とてもキラキラしてるんですよ。例えばうちの会社のアイドルグループでも、Snow ManとSixTONESもキラキラの仕方が違いますし。嵐と僕らも、全然違いますしね。嵐がキラキラやったら、僕らはドロドロってことです(笑)」
「身勝手と呼ばれてもいい」
さらには、
「今までは誰かの期待に応えなきゃいけなかった、アイドルとしてキラキラなものになっとかなきゃいけなかった。虚像ですから、虚像。アイドルって偶像です。誰かの都合のいいものになっとかなきゃいけないんです。それはそうなんですけど、そんな人生も、もう飽きましたんで」
と、衝撃的ともとれる言葉が、安田の口から軽やかに放たれる。周囲がどよめく中、彼はあっけらかんと笑った。
「そのまま書いてください。突き抜けた先に、皆さんが望んでいる僕がいるので」

8年前に脳腫瘍と診断され、今でも手術の後遺症と向き合っている安田。昨年、40代に突入した。
「病気の経験をして、いろんな葛藤をしたり学びを得てきた中で、40歳は全部0にした再スタートみたいな感覚があって。見栄を張る必要がどこにあるのかってところにたどり着きました。
わからないものはわかりません、興味ないものは興味ありませんって言う。興味持ちたいものには関わらせてくれって言う。責任持てないものに対して、責任持とうとしない。それで世間に身勝手と呼ばれてもいいじゃないかって」
まるで一度生まれ変わったような心境の変化が、今の彼を突き動かしている。
「だって40年も生きてきたんですから、ちゃんとした知識云々はもう誰でも持っていますもん。その上で全部投げ捨てて、無防備で0歳から始めりゃいいんじゃないのって思うような感覚があります」
では、これからこうなりたいという理想像は?
「沖縄の離島の港にいた、名前も知らないおじいちゃんです。海に出航する時、おじいが地平線を眺めていて。“これから海に出るんだけど、気をつけることはない?”って話しかけたら、おじいがひと言だけ “海は広いさ”って言ったんですよ。ああ、こういうことやなって。
何かに固執した生き方や考え方をするのではなく、すべてを俯瞰して、海は広いということをそのまま言葉にできるすごさ。“海は広いさ”って、“いつか死ぬさ”と一緒やなあと思って。いつか死ぬのであれば、いろんなものをガードして生きることの無駄さに気づかされました」
ガードを捨て、身勝手に生きると決めた。この舞台に立っているのは、決して偶像ではない、“安田章大”そのものだ。
『アリババ』『愛の乞食』8月31日〜9月21日
世田谷パブリックシアター(福岡・大阪・愛知公演あり)
撮影/矢島泰輔 ヘアメイク/山崎陽子 スタイリスト/袴田能生(juice)