
「今回の朝ドラは、やなせ(たかし)先生が生きていたら、どんなにお喜びかなと思っていたんです。そんな中、私にオファーがあったことは本当にうれしかったです。薪鉄子という役と聞いて最初、(『アンパンマン』のキャラクターの)“てっかのマキちゃん”を想像しました。正義を貫いていくカッコいい女性で、非常に演じがいがあるなという印象でした」
アニメ『それいけ!アンパンマン』(日本テレビ系)でアンパンマンの声優を務め、作者のやなせさんとも親交の深かった戸田恵子が、『あんぱん』に女性代議士の薪鉄子役で出演。ヒロイン・のぶ(今田美桜)の人生に大きな影響を与える重要な役柄だ。
先生だからこそ『アンパンマン』を描けた
「ドラマが始まって“いつ出るの?”って周りのみなさんが聞いてくるので、発表までは言えないため“出ないですよ”ってずっと答えていたんです。その後、撮影が始まったのですが、台本にも名前は載ってないし、スタジオでも外のモニターには私の映像が流れない。逆に自分でも本当に出ているのかどうか、不安になるくらいでした(笑)。
出演発表後は“頑張ってください”って声をたくさんいただきました。ただ、撮影がすでに終わっていたため、もう頑張りようがなくって(笑)。すべてが不思議な感じでした」
視聴者としても朝の放送が楽しみと話す戸田に、これまでの印象的なシーンを挙げてもらった。
「たくさんありますが、幼少期のころののぶ(永瀬ゆずな)とお父さん(加瀬亮)のシーン。女性の社会進出が難しい時代に、夢に向かって進んでいけという教えをするお父さんとの会話がすごく好きで。あとは、戦時中に嵩(北村匠海)たちが卵を殻ごと食べる場面は衝撃的でした。やなせ先生にとって正義は、ひもじい人に手を差し伸べること。戦争を体験された先生だからこそ『アンパンマン』が描けたと思いますので、あのシーンは印象に残っていますね」
生前、最後に会った日
やなせさんがモデルとなっている嵩については、こんな感想も。
「私が個人的に北村さんのファンなのもあるのですが、めっちゃいい男になったなと(笑)。それと、ナイーブな感じを巧みに表現してらっしゃるなって思います。やなせ先生は本当に華奢でお顔の輪郭も違うのですが、雰囲気がぴったりなのは北村さんの演技力が素晴らしいからだと思います」
やなせさんとは、「たくさんの思い出があるんですよね」と戸田。中でも、印象的だった出来事を挙げてもらうと、生前、最後に会った日のことだった。

「2013年、神戸にできた『アンパンマンこどもミュージアム&モール』のイベントでご一緒したんです。先生は足元がおぼつかなかったのですが、“杖を置いていきたい”とおっしゃられて。たぶん子どもたちにその姿を見せたくなかったのでしょう。私がエスコートして舞台に出ていきました。テープカットのときも“耳が聞こえないので、合図を出してください”ということで、先生の肩を叩いて合図をしました」
そのときのやなせさんの姿を思い出すと、今でも涙があふれてくるそう。
「先生の尽くす姿勢がすごいなって思いました。今やらないのがいちばん良くなくて、50%しか力が出せなくても、そのときできることをマックスでやること。それが“尽くす精神”だと。その大切さを、このとき身をもって教えていただいたと思います」
土佐弁は光栄“ぜよ!”
「方言指導の先生が、“今はもう『ぜよ』は使わないけど、薪先生には言わせてみたい”みたいなことをおっしゃっていて。まさか麻雀シーンで使われるとは私も思っていませんでした(笑)。監督から“ガツンと言ってほしい”と言われたので張り切りました。『ぜよ』は土佐弁といえばみんなが連想する言葉ですし、話せて光栄でしたね」
“あんぱんまん”ついに誕生なるか!?
今週(第22週)の放送では、嵩(北村)の詩の才能を見抜いた八木(妻夫木聡)が、自分の会社「九州コットンセンター」で出版部をつくり、詩集を出さないかと声をかける。最初は断った嵩だが、八木の熱意に押されて、詩集『愛する歌』を出版することに。
売れないだろうという周囲の予想を覆してヒット。そんなある日、『愛する歌』に救われたという小学生がのぶ(今田)の家にやってきて……。

来週の放送(9月1日〜)では、嵩が手がけたラジオドラマ『やさしいライオン』が大反響となる中、のぶは嵩が登美子(松嶋菜々子)と会っていないことを気にかけていた。のぶから事情を聞いた羽多子(江口のりこ)は、登美子を柳井家に連れて来る。
そんな中、週刊誌の漫画懸賞の募集要項を目にした嵩は、のぶのすすめもあり挑戦を決意。これで落選したら、漫画家を辞めるとまで宣言し……。
ついに“あんぱんまん”は誕生するのか? 漫画家としての嵩のこれからの活躍に期待!

連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合 月曜〜土曜 朝8時〜ほか